アイギスと演説
頭領たちとの顔合わせが終わり、彼らがそれぞれの部隊へと戻って行った。それなりの数の部下がいるらしく、基本部下の管理や街のヒトたちとの仲介役となることが多いといっていた。去り際にはそれぞれの施設に見学に来る際は必ず自分が案内する!と意気込んでいるようだった。
確かにマリアなどは直接命を助けたこともあったため、慕われてても不思議ではないと思う。でも、アントンやヘイグはそうではない。地上では生きづらい者たちではあったが、それほど感謝されるとは思っていなかった。それに10年経っている。隣人程度に思ってもらってもいいのに。
ブランはケーキを作るといい広間にはおらず、ミリアーナはそばで控えているそうだ。ミリアーナの視線を気にしないようにしつつ、頭領達がいなくなった広間でアレギスに向き合う。
「アレギス、障壁魔法やライルズの動作に問題はないか?」
「障壁魔法は、勇者の到来で見直しをおこなったから、一緒に見てほしいです、ますたー。非常時の再展開と耐久性の強化は特に。それと防衛魔法も、強くしてみました。ライルズは特に問題起きてないです。飛行力、非常時の強制移動など不具合なしです。」
「そうか。…私が眠っている間もよく頑張ったな。」
「えへへ、そうでしょう、ますたー!」
アレギスは嬉しそうに頬に手を置き笑う。ずいぶんと感情を表に出せるようになってきたようだ。私がアレギスを作り出した当初は、感情が希薄で機械めいた返答しかしてこなかった。それが今では言葉に感情が乗り、また表情や仕草まで変わっている。眠りにつく前にもその前兆はあったものの、ずいぶんと成長しているようだった。
「10年間、どうだった?お前の感想を聞かせてくれ。」
「うーん、そうだなあ。はじめはますたーが眠ってしまって、寂しいって思いました。でも、ますたーが起きたときに喜んでもらえるように、がんばろうとも思ったんです!それから、街のヒトたちを観察していました。どうしたらますたーが喜んでもらえるかなって。
頭領たちのこととか見て、ますたーのためにできることを増やそうとしてて。僕にできることってライルズのことしかないのかなって。でもね、ますたーみてて!」
アレギスの悩ましい表情から一変笑顔になると、その体がひかりだす。瞬く間に光が収まると、透けていた体がそこに本当にいるかのように実体化している。思ってもみない光景に唖然としていると、アレギスが近寄ってきて、私の腰に抱きつきお腹に頭をうずめながら、笑顔を向けてくる。
「みて!ますたーをお守りしたり、一緒に遊んだりできるように、体を作ってみたんです!これならライルズの外にも一緒に行けます。僕がいなくても、殆どの箇所は自動化してありますから、有事以外は遊べますよ!」
「おお…、そうか、アレギスと一緒に色々なところに行けるのか。ちょうど良い、近いうちに地上に調査に行こうと思うんだが、一緒に行くか?」
「ほんとうですか!お供します、ますたー!」
腰の周りにまとわりつくアレギスの頭を撫でながら、ライルズのコアの状態を確認する。といってもコアは地中にあり、直接見ることはできないがアレギスと魔法で繋がっているためその魔法を辿れば状態を確認できる。
ライルズのコアも10年の月日が経っても問題なく稼働している。多くの魔力を循環させて浮遊や水脈を作り出しているのだ。この循環に問題が起きれば、浮力を失う可能性も出てきて面倒なことになるので、点検は真剣にやる。
「僕が知っている範囲で、地上のことおしえてあげますね!」
アレギスの言葉に耳を傾けながら、並行してライルズの確認も行うのだった。
目覚めた日の翌日、演説の準備を行う。結局昨日はアレギスの報告会とライルズの確認で1日が終わってしまった。アレギスは満足そうだったが、ライルズの変わった箇所を直接見に行く時間は取れなかったのが残念だ。
それにしても、外を見るのにちょうどいいと作られたベランダが演説の場になるとは思わなかった。ミリアーナに用意された衣装をまといながらため息をつき、城の外では多くのヒトがあつまっている音に耳を澄ませる。足音や布の擦れる音、そして会話。本当に私の思っているより集まっているようだ。突然の知らせでもそんなに集まるとか暇なのかと思う。
「お嬢様、お時間です。」
ミリアーナにそう言われて、うなずくとベランダへと向かう。大きなガラスの扉が開け放たれ、風が室内に入ってくるのを感じながらベランダへと出る。そこには大勢のヒトが私を見上げていた。まってくれ、本当に街中集まってないか?兵士や学者のような格好をした者もいて、足の踏み場もないようだ。それぞれが同じような顔で、ぽかんと私をみている。ここが私の家だが帰りたい。気持ちを抑えつつ、口を開く。
「おはよう、ライルズに住まうヒトビトよ。覚えているだろうか、私は」
「フェイ様だ…」
適当に挨拶して終わらそうと名前を名乗ろうとすると、どこからか私の名前を呼ぶ声が聞こえる。その声は静まり返っていた場から広まりだす。
「フェイ様…!」
「本当に、起きてる…!」
「嘘みたい」
ざわざわとし始め、嗚咽と歓喜の叫び声が聞こえ始める。それは瞬間的に爆発し、歓声が広がった。なんかすごく歓迎されてる。
だがこのまま何もしないと埒があかないので、静かにしてほしいという気持ちをこめて手を挙げる。すると今までの歓声が嘘のように静まり返る。逆に怖いんだが、なんでそんなに従ってるんだ?
「私はフェイ。この島、ライルズの管理者である。多くのものは知っていると思うが、私は10年前の勇者との戦いで長い眠りについた。だがいま、私は目覚め、そして知った。お前たちはすでに自分たちの力で生きる強さを持ち始めていると。
私はお前たちの良き隣人として共にある。悩めるときは手を貸そう。そしてこのライルズで共に生きるのだ。」
一息にまくし立てる。だがなんの反応も返ってこない。
一瞬の間の後、今までで一番大きな歓声が上がる。その熱量に圧倒されながらも、私は引きつりそうな笑顔で立ち続けるのだった。これが終われば後には楽しいことが待っている。そうだ、地上の調査だ!




