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男の娘の氷点下の愛

 ライトはあそこでしくじった。

 40階のフロアボスを舐めすぎた。

 怖くて目を閉じてしまった。


 当の本人は短いけれど走馬灯を見た。

 一度も倒れないレベルの次元にたどり着くと、これくらいの死も本物とそう変わりなく感じるらしい。

 それにしても走馬灯は短いのにライトが死ぬのに時間がかかっている。

 おかしいと思って目を開けると、怒りの炎を燃やしていたライトでも驚く光景が目に入った。


「壊れた人形め。僕の恋人を傷つけようとした罰だ。灼熱とは逆の極寒で眠れ」


 そう言う強者はスペードだった。

 いつもと違ってオーラを纏っている。

 とても冷たくと優しいオーラ。熱すぎる怒りのオーラとは真逆で、それでいて強い。

 それに、人形は彼の氷の中に閉じ込められている。


「手を出す者は誰であろうと凍らせる。僕の冷たい愛は恋人や仲間のためにあるのだから!」


 本当に庇うように腕を広げてスペードはそう言った。

 それから右手を前突き出して拳をギュッと握った。


「どんな相手だったか知らないがちゃんと逝けよ」


 そう言いながら拳を握ることで人形は氷と一緒に砕け散った。

 火炎耐性があっても氷結耐性は無かったらしい。


「どうしてスペードがここに...」


 割れた氷がキラキラと降り注ぐ中でライトはそう尋ねた。

 そのライトは今もあの状態だから、スペードもその状態で答えた。


「お前が心配だったからだよ。さすがに40階クラスに1人で行くのは無謀だからね」


「なら、みんなは?」


「39階に置いてきた。40階に着く前からでかい魔力を感じて急ぐべきだと思ったからね」


 なんて冷静なんだ。

 怒りで暴れていたライトとは真逆に冷静で温かい。


「それにしても、随分と傲慢で冷淡で熱くなったもんだな」


「ほっておけ。そっちだって冷静で温厚で冷たくなってるじゃないか。我とそう変わらんだろ」


「まーな。僕だって苦労したんだよ。暖かい愛だけじゃ何も守れないって気づいた。その考えを持ってログインしたら〈愛情の氷〉を手に入れてこんなオーラまで出せるようになったんだ」


 2人は冷静に敵が砕け散るの背景にして話している。

 この時、すでにフロアボスの部屋のところに三人が来ていたが、空気を読んで綺麗な空間に2人だけにしてあげた。


「...このゲームは裏コンセプトで心の成長もあるのかもしれないな。我も〈怒りの炎〉をログインした時に扱える元が出来たからな」


 そう言う時、ライトはスペードに背を向けて41階に続く階段を見ていた。


「怒りで降りていくのは簡単だ。だが、貴様のように登っていくのは簡単じゃない」


「いや、炎は上への広がるものだ。僕の冷気の方が本来なら下に落ちていく。感情も魔法のようになっているんだ。そんな不思議なものを1人で抱え込まないでくれ」


 そう言うスペードの目は優しかった。

 そっと振り向いて見てしまったライトはさっきより強いオーラを出した。


「あー!ムカつく!1人で抱え込むなだと!周りはみんな我の敵になる!家族も我の意見を無視して何週間も今更の新婚旅行に行きやがる!誰も頼れないんだよ!」


 スペードの優しい言葉の中の「抱え込む」に反応してライトは怒りをあらわにした。

 それは〈憤怒モード〉の10%に匹敵する。

 そんなライトをスペードが背中から抱きついた。


「落ち着いて、僕がついてる。僕もパーティーメンバーも味方だ。リアルでも助けてやれる。だから、僕の冷気に包まれて落ち着いてくれ」


 優しくて冷たいオーラにライトは包まれて少しずつ熱は落ち着いていった。

 炎は氷を溶かす。溶けた氷が水になって炎に落ちれば、それが多ければ鎮火できる。

 そう、炎のライトを氷のスペードが包むことで落ち着いた。

 これはそういう原理のもとにできている。

 もしもこれが他のメンバーだったなら灼熱に焼かれて終わりだっただろう。


「スペード、もう大丈夫だ。我はいい恋人と仲間を得られたらしい。だから、しばらくはまた我慢するよ」


 笑ってライトはそう言った。

 抱きつくスペードの手に触れて。

 それからすぐに装備をいつものバジリスクに戻した。

 そして、オーラは完全に消えた。


「ただいま。僕は帰ってきたよ」


 その言葉を聞いたスペードはそっとライトから離れてオーラをしまって、オーラに反応して変色していた装備ももとに戻った。


「おかえりなさい。僕はちゃんと落ち着けるあなたも尊敬し続けます」


 2人とも元に戻った。

 その落ち着いた状況を確認して仲間達はその間に割って入った。

 いつもと違う強いライトも良かったけれど、やっぱりこっちのライトの方がみんなで落ち着ける居場所だと確信した。



 この一件は運営側も把握していた。

 感情とゲームシステムのリンク。実験段階だったがそれがうまくいったから怪物のような2人が誕生したのだ。

 運営のあの部長は色々な意味でお詫びとお礼しようと考えていた。

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