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父と娘 3

 風の冷たさが冬の訪れを感じさせるある晴れた日に、岡本奈美は清水の家で健一と待ち合わせた。

 意外だった。

 面倒くさがりの健一がわざわざ来てくれるとは思っていなかった。彼も彼なりに責任を感じているようで、いくらフォローの言葉を述べても、もっと早く真相を突き止めなければならなかったと言うばかりであった。今回の誘いを受けてくれたのもその想いがあってのことなのだろう。

 住人がいなくなってから数か月、家も物悲しい雰囲気に包まれているようだった。

 夏休みの約束も果たされず、その後も思い出らしい物も作れないまま……。奈美は寂しさを抱えたままであった。

 理解はしているつもりである。残り僅かな命のなかで、どうしてもやらなければならないことを選択しただけだ。真面目で真っすぐな父らしい選択だ。それでも、やはり寂しい。どうしてもやらなければならないことの中に、自分を入れてもらえなかったことが……。

 荒れ放題の庭の掃除と手入れが終わるころには、もう夕刻に。休憩と近くのコンビニで買った食事を終えるころには、もうすっかり暗くなっていた。

 家の中の片付けと掃除はまた今度と考えていると、小豆あんこを食べながら健一が言う。

「清水さんのパソコン、警察から戻ってきたんだ」

 見ると、ビニールに包まれたままのパソコンがある。神崎刑事に渡されたまま、奈美自身が持ち込んだものだ。

「もう、随分前だよ……夏休みに入ってすぐぐらいだったかな?」

「へえ……」

 奈美はペットボトルのウーロン茶を飲みながら、思い出していた。

「そういえば、あの時の神崎さん、ちょっとしつこかったな」

「しつこかった? まさかナンパでもされたとか?」

 健一の顔が途端に険しくなる。

「いやいや、刑事さんだよ。そうじゃなくて、絶対中身は見るなってあんまり何回も言うからさ」

「なんだそうか……何回も言ったの?」

「そう、何回もね」

「……」

 健一はなにか考え込んでいるようだった。

「どうしたの?」

「いや、お笑いでいうところのお約束じゃないかと……『見るな、見るな、見るな』は『見ろ』でしょ」

「……なにそれ?」

「あるんだよ、そういうのが。奈美はあんまりテレビ見ないからな。俺もだけど……まあ、確かめればわかる」

 健一がビニールを取り外す。

「ちょっと、健一」

「いいから、いいから」

 パソコンのほかに、DVDらしきものが三枚出てきた。ただ、日付だけが書いてあるものだ。

 健一はパソコンを起動し、チェックする。

 大丈夫だろうか? 娘にだけは知られたくないことがあるのではないだろうか……だから、神崎がしつこく中身を見るなと言ったんじゃないだろうか。奈美は怖くて画面を見れずにいた。

「特に面白そうなものはないな……やはり、このディスク」

 健一が日付の新しいものを選んでセットする。音声が流れてくる。どうやら、動画のようだ。

「なに? なんの映像?」

「見てみろよ、奈美」

 健一が笑いながらパソコン画面を奈美のほうに向けた。

 奈美は恐る恐る目を向ける。

 騒がしい群衆の声が響くなか、見覚えのあるステージが映し出された。見慣れた衣装の女子高校生。聞きなれた音楽、そしてあんなに練習したダンスの振り付け。

「これって……春先の街のイベントで披露したダンス発表」

 映像は激しく右往左往をした後、一人の人物にズームアップする。奈美自身だった。

「清水さんの声も入っている。あの場所にいたんだな」

「え? お父さんがいたの? あそこに?」

 そうだ。そういうことだ。こっそり来て、この映像を撮っていたのだ。何年も会っていないと思っていたのに、ちゃんと見ていてくれていたんだ。

「しかし笑うよな。さすが血の繋がりって感じ」

「なにが?」

「だってそうだろ? 同じことしてるじゃないか、奈美と同じ隠し撮り。知ってるぜ、水族館で清水さんの事隠し撮りして、たまに見てるだろ?」

「……そっか、そうだね」

 確かにそうだ。同じことしている。

 会う勇気がなくて、遠くから見ているだけだった日々。ビデオの中の父を見ながら、遠い昔のことを思い出す。会いたい。話したい。聞きたい。伝えたい……でも、できない。

 父も同じだったのではないだろうか。

 繋がっていた。離れ離れだったけど、ちゃんと繋がっていた。今はそんなふうに思える。

「ちゃんと探せば、まだまだ奈美の写真とかビデオとか出て来るかもな」

 健一が家の中を見回すような仕草をする。

「……ちょっと、探してみる?」

「今から? また今度にしようよ。もう、帰る時間だろ?」

「ちょっとだけ。なんだったら、ここに泊まればいいし」

「……」

 奈美はなにか救われたような報われたような気持ちに、心があったかくなっているのを感じていた。

 





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