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「と…ととと……トイレって、ちょっ、ちょっ、ちょーーーーー!!!」
酸欠の金魚のごとく東郷が、口をぱくぱくさせた。
「っていうか、自然現象ですし、こればっかりは仕方ないかと」
別段焦った様子もなく霧島が淡々と言った。
「いや、だから、あの……」
(排泄を霧島に見られてしまう……と?)
東郷はその場で凍りついた。
「ちなみに、男の人ってそういう時、どうするんですか?」
霧島は下半身を見つめ、小首を傾げた。
(は……恥ずかしい事じゃねえ。自然現象だもんよ)
東郷はなんとかそう自分に言い聞かせるが、恥ずかしくないわけはない。
しかしそれはどうしようもないことで、東郷は覚悟を決めた。
とりあえず服を着て、東郷はポーズをとってやる。
「だからな、まず便座を上げてだな。ここをこう持って便器に向かって発射させるわけだ」
東郷にとっては死ぬほど恥ずかしい内容を話しているのに、霧島はてんで気にしていない様子だ。
「ふーん、そうするんだ」
そういって、霧島はトイレに入って行った。
「あの……センパイのアレって、なんか曲がってますよ? 可愛いの」
戸板一枚隔てて霧島の声が聞こえてくる。
霧島のなんだかちょっぴり嬉しそうな声色に、東郷は内心絶叫したい衝動に駆られた。
(ばかやろう! そのカーブこそが男のロマンなんだっ! 右曲がりのダンディーなんだよーーーー!!! そこにこそ、男のプライドが集約しているといっても過言ではない代物に『可愛い』なんて断じて言っちゃいかーん!!!)
「センパイ、座ってしちゃダメなんですか? なんか飛び散っちゃいそうで」
(霧島、お前は神をも冒涜するつもりなのか? 古来より立って用を足すという行為は神が男に与えたもうた、唯一の特権なんだぞ!!!)
「あれ、センパイ。紙で拭いたらちょっと形が変わっちゃっいましたよ?」
(オーマイガット! お前なんちゅうことしてくれてんだよ。形を変えるな、俺はそこの部分については気に入るってんだから)
東郷は頭に血が上り過ぎて、すでに軽い酸欠を起こしかけていた。
「ふー、すっきりした。でも男の人の身体っていうものも、なんだか大変なんですね。早く慣れなくっちゃ」
そういって霧島がハンカチで手を拭きながら、トイレから出てきた。
「っていうか、お前元に戻る方法を考えないか?」
「そりゃあ、元に戻る方法があるのなら、戻りたいですけど……センパイはなにか思いついたんですか?」
そう問われて東郷は小さく首を横に振った。
「いや。全くどうしていいのかわからないんだ」
「そうですよね。あたしも同じです。でもね、こうなったのもあたしとセンパイの薄からぬ縁だと思うんですよ。不謹慎かもしれませんが、ちょっとくらいこの状況を楽しもうかなって、そんな気持ちすらあるんです」
東郷はそんな霧島の言葉に、カチンときた。
「いいよな、お前は。能天気で。でも俺はこれでも受験生なんだぜ? いくら滑り止めが受かっているからといって、この状況では第一志望を受験することもままならない」
少し苛々とした口調でいってしまったことを東郷は悔いた。
霧島の顔が、悲し気に曇ったからだった。
「あの、あたしは成績は確かにメリ込んでますけど、集中力はあるほうなんです。センパイ、受験日まであたしに勉強を教えてくれませんか?」
「ばかいうな、今からやって間に合うわけねえだろ。あと10日だぜ?」
「やってみなくっちゃわからないじゃないですか! 駄目もとでもあたし頑張ってみます」
霧島の真剣な眼差しに、東郷はたじろいだ。
実際受験などそんなに大ごとには考えていなかったし、滑り止めは今通っている高校と同じ系列で、敷地内に位置する。
身体が入れ替わってしまった以上、霧島のことが心配なわけで、
むしろこの状況で第一志望など受からないほうがよいのだが。
「それと、あのっ、センパイにあたしの身体のことも話しておきますね」
そう言うと霧島は鞄の中から小さなポーチを取り出した。
「女の子には……ですね、その……月に一回、生理というものがありまして……、その……多分もうすぐ、今日か明日くらいにはやってくると思うのですが……」
言いにくそうに霧島は東郷の顔を見つめた。
「せ……生理? この俺が???」
妙なリアル感をもった羞恥が東郷を満たす。
「あ……あの、生理っていうと、アレか。中学の保健体育の授業とかでやった、あの……」
知識としてはもう当然その頃には知っているのだけれど、授業中に真顔で教師が語るとなんだかものすごく恥ずかしい気持ちなんってしまう、アレだ。
「そうです、アレです。あたしの場合は周期によって波があるんですけど、痛む時は本当に痛むので、そのときはここに鎮痛剤入ってますから。それとこれがナプキンです」
そう言って、霧島は小さな四角いピンクの包みを掌に置いた。
「女の子の身体っていうのは、デリケートなんであくまで清潔に、丁寧に扱ってくださいね」
霧島はそう言って東郷をじっと見つめた。
「そっか、わかった。お前の身体を大切にすると約束する」
東郷は厳かな気持ちでそれを受け取った。




