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1-9 乱入②

ドラガンは、支配人観覧席から闘技場を見下ろしていた。


「……紙か」


それは、

“人間が壊れた”というより

“紙が破れた”と言った方が違和感がない。


竜人の力とは、これほどまでか

自然の暴力を体現したような、

理不尽な強さと速さ。

敵わない、敵うはずが無い。

神に挑んで〈勝てる〉と思う人間が何人いる。


「………素晴らしい」


(これほどまでとは、禁術の名にふさわしい力。

発動はできた。あとは制御……

それにはあの少女──ルーナ

竜人と目が合いあの竜力を真近に感じながらも、微動だにしない精神

長い時間をかけて孤立させ、《普通なら壊れるもの》を与え続けてもなお、

壊れず生き続けてきた少女)


「……いい道具だ……」

その声には、喜びが滲む。


「ああ、最高に素晴らしい」

笑みを抑えきれない。


ドラガンは記録板を指で軽く叩きながら、

今後のスケジュールの調整に没頭──そうなるはずだった。


しばらくすると 扉をノックする音が聞こえた。

今夜の興行が成功すれば、貴族始め色々な方面から、問い合わせが殺到することは容易に予想できる。

だからこそ、今夜はいかなる客も通すなと、厳命している。

一瞬迷ったがそのまままた書類に目を落とした。


再度のノック音。

「チッ…」

僅かな音を拾ったのは、秘書を任せている男性だった。

彼はゆっくりと静かに扉を開いた。


そのまま、後は秘書が片付けてくれるはずだった。


「失礼致します。ドラガン様、ヴィルデアル公爵閣下より通信が」


ピクリとドラガンの表情が動き、目線が秘書を捉えた。


「繋がっているのか」

「はい。こちらに」

静かに差し出された通信機。

「このタイミングでか……」

面倒ごとの予感がする。


応じるか拒否るか考え、ドラガンは、

通信機に触れ赤色を緑に変化させた。


「久しぶりだね、国王直属近衛騎士団長殿……

いや、ドラガン・ヴァルハイト・フォン・ギルフォード閣下」

「………………………」

「おっと、失礼。今はドラガン『支配人』とお呼びすべきだったのかな?」

「……………お久しぶりです、ヴァルデアル公爵」

「本当ならゆっくり旧交でも温めたいところだが、前置きは省くよ。

オルステイン帝国の第4皇女――クラスティーナ殿下のことさ。

いるよ、そこに殿下」


思いっきり眉間に皺ができるドラガン。


「いやね、急に彼女から緊急回線で連絡があり、こちらも少々驚かされてね。

耳を疑ったが、君竜人を囲っているらしいね。

いや、私は本気にはしていないよ?

あの絶対的な上位種族が、

闘技場で見せ物になっているなど……あはは、いくらなんでもない」


だが、実際は――。

結界内の空気は、未だにその圧倒的な余韻で震えている最中であった。


「どうやら彼女、君の扱う『商品』が酷くお気に召したようでね。

是非とも支配人と直接お話がしたいと、

わざわざ我が国の緊急回線を私物化されたのさ」


"困ったものだよ"と、

溜め息混じりの副音が聞こえてきそうなほどの不快感が、その言葉には乗っている。


「君はよほど、素晴らしい掘り出し物を隠し持っているようだね。

 近いうちに伺わせてもらうよ。」

「…………………………」

「ドラガン支配人、聞いているかね?」

「ええ。」

「長話もこの辺で、間もなく殿下の『奇襲』がある。

彼女は君が表舞台を去った後の生誕ゆえに、

御尊顔までは存じ上げなくても心配はいらない。

皇国の紋章を携行されていると言っていた。

紋章の真偽判別ぐらいまだ出来るだろう?

では、よろしく頼むよ。

最後に……あまり派手な動きは慎んだ方が身のためだと言っておこう。

元学友としての、忠告だ」


通信機が一方的に切れ緑が赤色に変化した。


ドラガンは秘書の男性に、

「今夜の仮面共に、オルステイン関係者や、殿下を連れ回せる程の上位貴族は、混じっていない。それとも……私の記憶違いか?」

温度のない目を秘書に向けていた。

「………いいえ、旦那様よりその点もしっかりと命を受けておりましたので」

「……紛れた経緯は今はいい……

来たらお前が形式上、紋章検分し、上に通し直せ。翡翠の貴賓室なら」

そう言いかけた時、扉の向こうがにわかに騒がしくなった。

「こちらが支配人室か」

硬く、傲慢な男の声。

「今すぐに中の支配人とやらに、急ぎ取り次げ」

隠そうともしない高圧的な物言いが響いてくる。


これ以上自分の邪魔はされたくない。


ドラガンは、さっさと翡翠に連れてけと顎で指示を出した。


「かしこまりました。」

秘書は頭を下げ扉の向こうへ


しばらくすると

扉の外では高圧的な物言いの言葉が強くハッキリと聞こえ始め

「チッ。皇国のやつらに嗅ぎつけられたのは面倒だな」

どうするか悩んでる最中に


「お待ちください!こちらの扉は、 勝手に困ります――」

制止の声を無視し、扉が開いた。

踏み込んできたのは一人の男。

「失礼する」

踏み込んできた男は、すぐさま室内を見渡し安全を確かめた後、

半歩分、体を横にずらした。


開ききった扉の先には、

上質なフードを深く被った女性を中心に、斜め前に1人、脇に2人、背後に3人。

(皇女が“お忍び”で地下闘技場……7人もいて諫めるどころか連れてくるなど…無能どもが)


ドラガンは一呼吸だけ置き、笑顔を作り目線を下げ、

「失礼、こちらはお客様をお通しするには不向きな部屋でして、上の客間にご案内致します」立ったまま無能の1人に声をかけると、

「殿下の御前である。頭が高い、控えよ」

(囀るか…第4王女如きの護衛が……)



上質なフードを深く被っていた女性は、ドラガンの前まで歩みを進めながら

「ウィル、静かにして。私が支配人の方とお話がしたくてお伺いしたのですよ?」

「はっ……! 失礼いたしました」


女性がフードを外すと、そこから現れたのは、

手入れの行き届いた金糸の如きふわふわの髪、シミひとつない透明な肌。

ぱっちりとした愛らしい瞳にはオルステイン皇室特有の色と、

フードを含め一目で最高級とわかる装いと装飾品が光っている。


「マーサ、わたくしの紋章をお見せして」

「――支配人様、こちらにございます」

一歩前に出た年配の侍女が、

恭しく差し出したのは紛れもないオルステイン帝国の紋章であり、

第4王女本人だと証明している。


「ねぇ、あなたがドラガン支配人?

突然押しかけてしまってごめんなさいね。

でもね、先ほど見せていただいた『トカゲさん』がどうしても気になってしまって!

あんなに大きくて、お目目が綺麗な、凄そうなものを隠し持っているなんて、

あなた、とっても面白い方なのね」


そして、唐突に出された

「支配人さん、あのトカゲさんおいくらかしら?」


手に入らない物など無いと信じ切っている、

帝国で甘やかされ咲き誇った大輪の薔薇が、そこには咲いており

その笑みは、本人が自覚していない“帝国の特権”がそのまま滲んでいる。


ドラガンは、笑顔のまま平たんな声で、

「殿下。無礼を承知で直答致します。

あのトカゲは売り物ではござい――」

「私の持っている領土でも鉱山でも、足りないなら、お父様にお願いしてお支払いするわ」

被せてきたその声音は甘く無邪気さしかなかった。


「お ね が い」

少女は急に距離をつめ、

ドラガンの両手をつかみ、

自分の胸の高さまで持ち上げ目を見て言った。


ドラガンは、拒否の思考が薄れた瞬間、

指先に力を込めて意識を引き戻し、「発動」と短く端的につぶやく。


そして、持ち上げられた自分の手の指輪と、

彼女の腕輪と指輪を一瞥し、色の変化を確認。


(この女……帝国式の魅了術を平然と使うか)


「あら?ふふ、弾かれてしまったわぁ。」

魅了術が弾かれた事も彼女にとっては遊びの一環。

その“遊び”は、他者の人生を踏みつける事だとは思っていない。


「怒った?ちょっとした遊びよ。支配人さん」

「姫様……術を軽々しくお使いになるのは……」

お付きの者が静かに、低く諫めるが、


「もぅ、マーサも怖い顔しないで、ちょっとしたイタズラじゃない。

だって、ちょっと支配人さんが気になったんだもの。怒らないでよ~」

少女はぷくっと頬を膨らませた。


ドラガンの頬が少し引きつりながらも笑みは崩さず落ち着いた声で、

「殿下、お戯れがすぎます。

ここは、薔薇を守るには土が悪すぎます。

手入れを任される者たちが、さぞ大変でしょう」

視線をマーサたちへ流し(さっさと帰れ。無能ども)皇女に礼を取った。


(ふふ……さすがにダメかぁ。でも欲しいのよね~あのトカゲさん

ん~~どうやって手に入れようかしら)


「仕方がないですわね。今日は帰りますわ。支配人さん、またお話しましょう」

(お父様?いえ……お兄様かしら。

お兄様にお願いすれば、きっと面白がって動いてくださるわ。

あのトカゲさんなら、帝国の力を使ってもいいでしょう?)


「マーサ、トカゲさんの名前を早く知りたいわ~あの目ならどんな色の服が似合うかしら」と、

ドラガンに聞こえようが聞こえまいが問題ないという感じで、

皇女だけは、明るい気分で足取り軽く、部屋を出る。

その一行をドラガンは無言のまま、

最低限の作法だけをし扉が閉まるのを見ていた。


しばらくして、ドサッと荒々しく座るドラガンがそこにはいた。

「厄介な・・・計画を前倒しにせねばならんか」

「旦那様」

「前倒しだ。帝国が動く。皇女のおねだりの話が竜人だとわかれば猶更動く。」

「かしこまりました。」

「………5日後だ。5日後に決行する」

「全員に伝えろ。5日後だと」

「はい。ギルフォード陛下」


チラッと秘書の男をみ

「まだその呼び名は早い。行け」

「はっ」

急遽早めた決行日に向けてドラガンの頭は回転し始めた。


この様子をカイ=グロウが聞いてるとは知らず。






お読み頂きありがとうございました。


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