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1-8 乱入①

カイは、支配人室に向かいながら

地下3階の“あの女”のことを思い出していた。


(……連れてきたのは俺だ。

今地下にいるやつらはほとんどがそうだからな)


噂は前から聞いていた。

「旦那が目にかけてる女の子がいる」と。

たまに報告も来ていたが、報告者は妙に言葉を濁すし、年齢が年齢なこともあって、

俺は勝手に《ああ、旦那はそういう趣味か。まぁ男だしな》くらいに軽く受け取っていた。


(……完全に俺の勘違いが生んだんだが、

 俺が悪いわけじゃねぇよな……)


実際にあの女を見たのは、かなり月日が経ってからで、

ルーナ。

名前なんて、今こうして歩きながら思い出してるくらいだ。


「確かに違和感はあったけどなぁ」


ある日、廊下で旦那とすれ違った時に

旦那が「お前も来るか?」と声をかけてきた。


(……ん? 旦那が誘う?)


振り返った時に見せた旦那の目は、

いつもの冷えた目じゃない。

ほんの一瞬だけ、口元が緩んだ。


普段なら絶対に見せない緩み。

「今から地下3階に行く」そう言いながら、

俺の返答を待たず歩き出した旦那。


地下3階、興味が湧かねぇ。

酒もねぇ、抱ける女もいねぇ、

殴りたきゃ上で十分だ。

……だが、誘われたなら行ってみるか。

暇だしな。俺は後を追った。


地下の重い空気の中、旦那の足取りだけが妙に軽かった。


檻の前で立ち止まった旦那の横に並んだ時、

俺は初めて、檻の中にいる女の子―――ルーナを見た。


(……この子が、噂の“目にかけてる子”か?)


「ルーナ、おめでとう」


旦那が言った祝福の言葉に、

あの子は自分の身体を呪うように震え顔は真っ青だった。


旦那は続けた。


「食事だけ抜かさなかったのは、このためだ」

「貧相な体では使い物にならないからな」


(なるほど、だから首輪つき特有の骨が浮くような

瘦せこけてる感じがしないのか)


さらに、楽しげに

「何か願いはあるか?今日は聞いてやるぞ」


だが、ルーナは喉の奥から絞り出すように激しく吐いた。

ルーナ吐いたのに、別の檻にいた奴隷が殴られた。


(おいおいおい。理不尽が仕事しすぎだろう)


異質な空間だな、

カイの感想はその程度だった。


他人の家の物を盗む、金に汚い、人を殴るのが日常、努力が嫌いで楽して稼ぎたい──

そんな“悪党”どもと別のベクトルで動いてる空間。

カイは異質な空間とドラガンの違和感を天秤にかけ数回ほど、

自分の意思で地下3階に降りたが、

看守は常に限られた者しかおらず、基本は研究者ばかり。


そしてたまたま見たブラックウルフとの交配実験。

ヒールだのポーションだの使って“壊れないように調整”していた。

あれを見た瞬間、

「……そこまでしてやることかよ」


俺って結構”繊細”なんだなと思ったもんな。


まぁあれを『実験』だと言って平然と見ていられるあいつらは

ただの変態研究者、自分を神だと勘違いしてる寄せ集めだ。

理解しようとすら思わなかった、だから3階に降りるのをやめた。


(……どうせ貴族のお遊びだろ。

たまに“異形のおもちゃ”欲しがる変態もいるし

エルフや鬼人なんて希少価値たけぇしな)

その後の部下からの報告も「はいはいはい」と聞き流してた。


ただ、カイが興味を失った地下3階では、

静かに静かに続けられていた実験。

漆黒の毛の魔狼ブラックウルフ、

オーク 鬼人 スライム

ゴブリン エルフ 獣人

理性ある種族の因子は薬剤や術式で

オーク系統や魔獣系はそのままの欲望が彼女の肉体に突き立てられ、

実験の最中は必ず二人がかりでルーナにヒールやハイヒール、

回復術や増血剤、体力増強術ポーション等を使い壊れないように“調整”する。


種族ごとに体格も力も違いすぎる。

だから回復を常にさせる。

回復させないと死ぬから。


ルーナは月に数回程度だが、2階の闘技場での興行や片付けにも参加させられ、

仮面をつけた貴族たちや裕福な人間達が酒を飲み、声を上げ、

賭け事をしながら楽しげに、自分達を眺めて楽しんでいるのを見てた。


“褒美”として奴隷達に特別な食事やタバコや酒が配られる時は、

ニーナに向かって感謝しろと命じられる奴隷達。

殴られる時もニーナ。

感謝の時もニーナ。


奴隷たちは気味悪がり、ニーナを避けるようになっていく。


そしてルーナ自身も、誰かに声をかければその相手が罰を受けると知っていたので、

自分から踏み出すことが出来なくなっていた。


これらすべてのやり取りは、

ルーナに誰も近づかせないための、

ドラガンの管理の1つであり


彼女の世界は、とても狭いものだった。



お読み頂きありがとうございました。


宜しければ、モチベーション維持の為、反応を頂けると嬉しいです。

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