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2-16 龍を知らぬ竜人

管理人は机へ向かうと、1枚の報告書を手に取った。

さらさらと迷いなく書き進める。

--------------------------------------


神様へ


万象樹が点滅しております。


『理』は異常を検知しておりますが、現在 BUSY のため詳細は取得できません。


原因は不明です。


お客様をご案内しておりますので、そちらで一度ご確認いただけますと幸いです。


よろしくお願いいたします。


-------------------------------


書き終えると、小さく息をついた。


「これでよし、と」


報告書を専用の投函箱へ入れる。

音もなく箱は光り、書類はどこかへ転送されていった。


「それでは……お待たせしてしまいましたね」


管理人は、ゼンの元へ戻る。

そこでは――


「すぅ……すぅ……」


ゼンがソファに寝転がり、気持ちよさそうに眠っていた。

管理人は少しだけ目を丸くする。


「……お客様?」


「すぅ……すぅ……」


「お客様。」


「……んぁ?」


「あれ……俺、寝てた?」


「はい。とても気持ち良さそうでした」


「ごめん」


「いえ、お待たせしたのはこちらですので」


ゼンは大きく伸びをすると、思い出したように顔を上げた。


「そうだった!番の呪縛」


管理人は静かに頷く。


「改めてご説明いたします」


「『番の呪縛』に関する資料は存在いたします。

発動条件、術式、研究記録なども多数保管しております。

ですが、解呪方法を記した書物は、1冊も存在いたしません」


「無いのか……」


少し考えたあと、管理人は静かに尋ねる。


「人族へ頼んだことはあるのですか?」


「……何を?」


「解呪方法を作ってほしい、と」


「はぁ?」


ゼンは勢いよく立ち上がった。


「なんでだよ!

あいつらが勝手に作っておいて、

なんで俺たちが頼まなきゃいけねぇんだよ!」


管理人はゼンを静かに見つめた後、一礼し

「申し訳ございません。出すぎたことを申し上げました。

何かお探しの本がございましたらお声がけください」


管理人は顔を上げ、そのまま踵を返し歩きだそうとしたとき、


「ちょっ!!!待てよ!!」


ゼンは管理人の肩を掴もうと手が触れるその瞬間


「お静かに」


図書館の空気が静まり返る。


同時に、ゼンの身体に圧がかかる。


ゼンは反射的に竜力を巡らせるが

力が、熱が、スッと消えた。

抜ける……巡っていた竜力が、霧散していく。


「ふ……ざ……………アッ…」


出ない声。震える身体。

その場へ、力なくしゃがみ込むしかなかった。


(動け!!……うご……け……アレ?……

オレ…………眠い……俺は……師範……

父ちゃん……何してたん………だっ)


管理人は僅かに目を見開いた。


「申し訳ございません、力加減を間違えました」


ゼンは声のするほうを見ると……

受付のお姉さんは、


「ここは何処ですか?」


「……」


「ここは何処ですか?」


「……と…しょう…かん…」


「はい」


管理人は静かに頷いた。


「図書館では、お静かに。

例外はございません。

神にも適用される、この図書館での規則です」


「……ごめん……なさい」

(なんだろう……温かい)


「いえ、私も力加減を誤りました」


管理人は少し困ったように微笑み

少しだけゼンを見つめる。


「ですが……気になりますね。」


「?」


「貴方は龍力が、随分と弱くなっているようです」


「……え?あっ、普通に声でた!」

身体の奥からどんどん温かい物が戻ってくる。


「普通であれば、ここまで怯える方は滅多におりません。

龍力は失われるわけではありません。

図書館を出れば元に戻りますし、静かにしていれば、

この中でも落ち着いてまいります……が」


ゼンは何度も自分の身体をペタペタと触りながら、温かいものが全身を伝う感覚に安堵していた。先ほどの恐怖は、嘘のように消え去っている。


「……そうなの?」


「はい」


「……竜力って鍛えられるの?」


「龍力は鍛えられますよ」


管理人が少し思案した後、

近くの棚へスッと手をかざし、

3冊の本を取り出した。


「本来、おすすめはあまりしないのですが、

お詫びも兼ねてこちらの3冊はいかがでしょうか。

文字も大きく、ページをめくるたびに挿絵が現れ、

色彩も豊かで、とても読みやすい本です」


「すっげーかっけぇ表紙!龍力の鍛え方って書いてる」

(龍力?えっ?師範や竜王様が使ってる術?…竜力じゃないの?)


「そしてもう1冊は貴方達の祖先についての本です」


「へぇ俺の祖先の話かぁ、学校でも習ったからなぁ、

まぁ絵がいっぱいある本は読みやすいからいいけど」


そして、次に3冊目の本を手に取った。

白い表紙には神様と人族の可愛らしい挿絵が描かれている。

みるみるうちに顔をしかめる。


「……何これ?なんでこれがおすすめなんだよ」


「そうですね、今のお客様にはそれが必要だと思いますよ。

また、そちらの3冊は幼子向けですので大変読みやすく、私からの一押しです」


管理人は柔らかく微笑んだ。


「幼子??」


ゼンはキョロキョロと自分の周りを見回し――

「幼子って、俺のことかよ!」


「しー」

管理人はすっと指を1本立て、自身の口元に持ってきた。


ハッと我に返り、声を潜める。

「ごめんなさい……」


「いいえ、では、まずは1冊目からご覧ください」


お読み頂きありがとうございました。


宜しければ、モチベーション維持の為、

反応を頂けると嬉しいです。

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