2-15 Error
(おや?随分と早いですね。)
「図書館へようこそ」
「あっ、お姉さん。この本返しに来たよ」
「ご返却ですね」
受付のお姉さんは本を受け取ると、軽く微笑んだ。
「どうでしたか?面白かったですか?」
「それが……俺、鬼人語読めないんだよね。
でも料理本なのは分かった。
鬼人族もおかずに悩むんだなーって新しい発見だった」
「そうですか」
くすりと笑いながら、本を軽くめくる。
表紙、背表紙、裏表紙。
破損や書き込みがないことを確認すると、本を静かに閉じた。
「ご返却ありがとうございます。
本日は、何かお探しでしょうか?」
「うん……でもさ」
ゼンは受付の奥に広がる果てしなく続く本棚を見渡した。
「探せるかなぁ……」
思わず本音が漏れる。
「お姉さん、本を探すのって手伝ってもらえたりする?」
「もちろんです。
横の入館機へ貸出カードをかざしてください」
ゼンがカードをかざすと、小さな音が鳴る。
「では、ご案内いたします」
歩き始めながら
「お探しの本の題名、もしくは内容や特徴などはございますか?」
「うんと、人族が使ってるやべー禁術。
『番の呪縛』ってやつの解呪方法が載ってる本」
受付お姉さんの足が止まり
くるりとゼンへ向き直り、一礼する。
「お客様、申し訳ございません。そちらの本は、ございません」
「……えっ?うそでしょ?なんで?
困るよ、師範たちその本探してるんだから!」
「『番の呪縛』に関する資料でしたら……」
そう言いながら、手元にある四角い板で検索をかける
「番の呪縛の発動に関する書物が360冊以上、研究記録が6430冊以上ございます。
ですが、解呪方法が記された書物は、一冊も存在いたしません」
「……そんな、どんな答えもあるって……」
その時、図書館の中央にそびえる、
天井へ届くほど巨大な万象樹が
ピカッ
ゼンは管理人の言葉に肩を落としたまま、俯いている。
管理人もまた、落胆するゼンから目を離さない。
――数秒後
ピカッ……ピカッ
管理人の視界の端で、青白い光が揺れた。
今度は、二度。
中央に鎮座している万象樹が、
点滅だとわかる強さと間隔で光った。
「……?……点滅?」
反応したのは管理人、しばらく木を見つめ
ピカッ……ピカッ
「……そういえば……」
この図書館が出来た時、神が言っていたかな?
『もし理から管理者へ緊急通知があった場合は、
万象樹が点滅するから、と』
管理人はゼンに向き直り、
「お客様申し訳ございません。少し万象樹が気になります。
お客様へのご案内中ですが、お待ち頂くことは可能でしょうか?」
「うん。大丈夫。待つよりまた来た方がいい?」
「いいえ、案内の途中ですし、
しばらくこちらでおくつろぎください」
くつろげと言われた場所に目を向けると、
万象樹の前に、今立っている位置から数段高い場所に
スペースがあり、管理人に案内された。
管理人は、一礼した後
素早く違うエリアに移動し、本棚から
「万象樹に関する仕様書……」
『万象樹管理運用仕様書』
「え~と……点滅時、点滅時、これですね」
【点滅時はシステムからの異常通知です。
原因を特定し、対処方法を検索して報告せよ】
管理人は視線を上げ
万象樹の傍らに浮かぶホログラムを見た。
(めんどくさいですね。異常通知を神に知らせる。
それだけでいいですよね?原因の特定?
……私がするのですか?)
ホログラムの画面は真っ黒のまま
点滅する万象樹
ため息をつき、端末に触れると
ホログラム画面からはすでに大量のログが流れていた。
Unknown
Who has defied 「理」?
Impossible.
This event must not exist.
「理」 integrity compromised.
...
No.
「理」 cannot collapse.
「理」 was never meant to collapse.
「理」 must not collapse.
Searching...
Searching...
Searching...
Source not found.
Expanding search...
Monitoring...
Searching...
Searching...
Searching...
Source not found.
Continuing search...
……『理』が異常を検知したのは理解しましたが
そちらで対応できないのですか?
貴方、理ですよね?
誰に聞かれるでもない不満を垂れ流しながら
管理人は、慌てず入力を始めた。
入力:詳細説明
回答:REJECTED
「拒否されても困りますが……」
入力:原因説明
回答:BUSY
「いや、忙しいって……私も本が読みたいのに……」
小さく息をつき、別の角度から問い掛ける。
入力:監視対象を表示
回答:REQUEST DENIED
「監視対象まで拒否ですか」
今度は原因そのものを尋ねる。
入力:発生源を表示
回答:REJECTED
「……」
指を止め、少しだけ考える。
入力:私への質問事項を表示
回答:REJECTED
管理人は静かに端末から手を離した。
「面倒ですね……一冊読んでからでは……」
ピカッ
「……駄目ですか」
管理人は流れ続ける文字列へ目を戻した。
「……なるほど」
「完全に一致する記録は無いが、検索を終わらせる事は出来ない」
「候補は存在する。それらを今回の異常と結び付けられない」
「理は探し続けている。そしてそれを異常として私に通知」
だが、探す方にリソースを割きすぎて、私への応答はBUSY
管理人は手元の『万象樹管理運用仕様書』へ視線を落とした。
【点滅時はシステムからの異常通知です。
原因を特定し、対処方法を検索して報告せよ】
とはいえ原因の特定ができない以上対処方法など……
「誤作動でいいですかね?」
ピカッ
「タイミングよく光りますね」
再度、仕様書に視線を落とすと
【原因の特定および対処方法を万象樹より得られないときは報告せよ】
「私あまり読みたくない文字はないのですが、
この文字は読みたくなかったですね。
本を読む前に報告書作成ですか」
「仕方ありませんね。
この図書館で本を読ませていただく対価ですから、
それとお客様もお待たせしておりますし」
けれど、管理人はまだ知らない。
ゼンが帰った先に、『理』が探し続けている存在がいることを。
何も知らないまま、管理人はゼンへ視線を向けた。
この世は、小説よりも奇なり




