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2-14 答え合わせ

「あー面白かったわぁー」


やっと笑いが収まった魔女は、

それでも時折くすくすと笑いを漏らしながら、紅茶を口に運んだ。


「さて、そろそろ答え合わせといきましょうか?」


しかしラオスが、困ったように眉を寄せて口を開く。


「魔女殿、申し訳ないが、番が変なんだ。

どこか休む場所はないだろうか?」


「ん?…平穏」ルーナに淡い光が纏った


「魔女殿、そういう事では……」


「そういう事よ。ルーナちゃんは、びっくりしてるだけよ」


「そうなのか?大丈夫か?番」


ラオスは屈み込み、ルーナと目を合わせた。


「……琥珀色。濁ってない」


「ああ、そうだよ。私は琥珀色の瞳なんだ。

番は綺麗な黒だね」


思わず零れた、小さな呟きでも優しく答えてくれるが


(えっ? 綺麗な黒? なんでそんな……。

綺麗なのはラオスさんなのに……)


一人で思考が暴走していると、

パンッ、と手を叩く音が響いた。


「ねぇー。私が”平穏”かけた意味なくなるからやめてよ。

ほら、早く座りなさい」


テーブルでは魔女、ゼン、バルトがこちらを見ていた。


「あっ、ごめんなさい」


「番、行こうか」


当然のようにルーナを抱き上げた。

お姫様抱っこ。迷いゼロ。


(えっ!?歩ける!歩けます!

私、魔女さんに回復としゅばらしいお風呂入ったらあの激痛はおさま……

ま、待って……あっ、着いちゃった。

……あれ?膝の上?

降りなきゃ……う、動けない、どうして?)


「ラオス、それは二人の時にやることで、

俺らの前ではやらない方がいいんだぞ」


「そうなのか? ゼン」


「うん。なんて言ったかな……えーと、バカップル? 違うぞ……」


ゼンは腕を組み、真剣な顔で記憶を探る。


「そう!てぃーぴぃーおーって言うんだぞ!

これは、ばーちゃんが言ってた!」


ラオスは少し考え込んだ。

どこかで聞いた覚えはある。

人前での振る舞い。

礼節。

皇太子として幼い頃から叩き込まれた教養。


――だが。


番が膝の上にいる。

その事実だけが、全部押し流してしまう。

しかもゼンの言うことだしな……


「じぃ……本当か?」


「……若。ゼンの言うことは、本当です」


言いたい事は分かるのだが、離したくない。

番が隣へ移る理由など、一つも見つからない。


「……………………ヤダ」


「あの!ラオスさん。私、隣に座ったら駄目ですか?」

「いいよ。番が望むなら」


名残惜しそうに腕を解くラオスを見て、

魔女は肩を竦める。


「はいはい。答え合わせ始めるよ。

そこのバカップルは、ちゃんと話を聞いてなさい」


そう言って魔女は、テーブルの中央に置かれた一冊の本へ視線を落とした。


全員の視線も自然とその本へ集まる。


「あー、まずね、あの図書館が本を貸し出すなんて、

ご先祖様の時代が最後じゃないかと思うぐらい凄いのよ。

この私が驚くってことは、この本を見せたら他の魔女なんて腰を抜かすわ」


「ふーん……そうなんだ」


「ゼンちゃんの、その無自覚さ凄いわ」


「バルトさんは入れなかった?でも、雰囲気的に見ると入れたの?」


「……魔女殿。ワシは……恥ずかしながら、多分1人では入れなかった側です」


バルトの低い声が落ちる。

魔女は何も言わず、ただ静かに先を促した。


「ゼン、お主は扉を開けてから図書館まで、何か見えたか?」


「ん?図書館まで?

いや、扉を開けたら遠くになんか建物あるなぁと思ったら、

急に建物が近くなったから、『師範、ここが図書館か?』って聞いた」


「ふーん。そこまでは普通ね」


魔女は小さく頷く。


「バルトさんは、扉を開ける時か開けた後かわからないけど、

疑った、後悔した、諦めた。

そういう感情が先に立っちゃったんでしょうね」


バルトはぎゅっと拳を握った。


「本来なら、そのまま、また扉が現れて開けたら、私の所へ戻って終わり。

『図書館なんて無かった!』と、ほとんどが怒って終わるのよ。

でも、ゼンちゃんには図書館が見えた」


魔女はくすりと笑う。


「ゼンが先に歩いていくので、ワシも後を追ったのですが……

何故、ゼンを先に行かせたのか、

いや、ワシはなぜ父の事を思い――」


パンッ!


柏手が響く


「なるほどね。

バルトさんはゼンちゃんに引っ張られて、中へ入った。

でも本来入れない存在だったから、存在そのものが揺らいじゃったのね。

受付で会った人も覚えていないでしょ?」


「受付?あったような、

居たような……居ないような……」


「えーーっ!?

師範、大丈夫か?

受付のお姉ちゃん居ただろ!」


「……すまん、わからんのじゃ」


「それで?ゼンちゃんは、バルトさんの様子がおかしかったから、

『とりあえず本を借りれば、また来られる』って考えて、この本を借りたの?」


「そうだよ。返し忘れても、

あの受付のお姉ちゃんなら督促しに来て、

また図書館へ連れてってくれそうだし」


ゼンは胸を張って言い切る。

その顔は“名案だろ?”とでも言いたげだ。


「いやいや、

乗り物のチケットじゃあるまいし。

しかも督促って……死ぬとか思わないの?」


「図書館の本返さないだけで死ぬとか、どんなルールだよぉ。

とりあえず督促じゃね?」


「ふふふっ。

本当にゼンちゃんは、あそこを図書館として感じて見たんだね。

あの偏屈男の顔が見たかったわ」


「ん??なぁ魔女さん。

俺、管理人さんとは会ってねーよ?

会ったの受付のお姉ちゃんだけ。

だから良かったのかもな!」


まるで褒めて褒めてとしっぽを振る犬のような感じのゼン


「魔女さんの言う偏屈な管理人さんだったら、

本なんて貸してくれなさそうだし」


「あはははっ!そこからなの!?

参った、参った。

今度から本を読みたくなったら、

ゼンちゃんにお使い頼んでもいい?貴方なら借り放題だわ」


「で?いつ返すの?その本」


「七日って言ってた。

一週間後だな。

あっ、魔女さん質問。

もしかして読書感想文とか書かないと、

次貸してもらえないとかある?」


「……読書感想文?」


ゼンは真剣そのものの顔で頷く。


「ほら、学校とかで昔借りた時、

受付の人が『面白かったですか?』とか聞いてくるじゃん。

特別な図書館なら、感想言わないと駄目なルールとかあんの?

読んだ証拠みたいな?」


「…………ぶふっ、ないわよ♪」


魔女は肩を震わせながら笑う。


「ダメだわ。

ゼンちゃん、本当に私の想像の斜め上を行く。

こんなに楽しい思いを、私一人だけが味わっていいのかしら。あはははっ」


ゼンは褒められたと思って胸を張る。

ラオスは呆れ半分、感心半分の顔。

ルーナは“読書感想文のある魔法図書館”を想像して混乱している。

そんな中、バルトが困ったように眉を寄せた。


「魔女殿……申し訳ない。

ゼンと魔女殿の話を聞いても、ワシにはさっぱりなのじゃ」


魔女は笑いすぎて涙を拭きながら、

自分がこんな感情的に笑えることを楽しいと思いつつ


「そうね。遙か遠いご先祖さまのさらにもっと前かしら、

あの図書館は全種族に解放されて、”誰でも使える”図書館だったの。

でも答えがあり過ぎたのよ。

そして長い年月で利用者側の認識が変化し、今は伝説って状態よ」


魔女は本へ視線を落とす。


沈黙の後、最初に口を開いたのはラオスだった。


「ゼン、一週間後も本を借りに行くのかい?」


「うーん……」


ゼンは頭を掻く。


「なんか俺しか借りられない感じだよな?

別にいいんだけど、何借りたらいいんだ?

師範、本の題名とか分かるのか?」


「……いいや」


バルトは静かに首を横へ振った。


「ワシは、願えば勝手に答えが書かれた本が現れるものだと思っておった」


魔女は肩を震わせ、小さく笑った。


「ほら、そこ」


「えっ?」


「“願えば答えが書かれる”って思ったでしょ?

それがもう、図書館の本質からズレてるのよ」


魔女はゆっくりとゼンへ視線を向ける。


「ゼンちゃんはね――

“本は借りるもの”って、最初から信じて疑わなかった」


「え? だって図書館だろ?」


「そう。その“当たり前”を、

当たり前のまま受け入れられる種族が

今はほとんどいないのよ」


ラオスは息を飲み、

ルーナは、いまいち理解できず

バルトは拳をゆるめた。


魔女は続ける。


「利用者側の認識が変わったの。

図書館は何も変わってないのに、

皆がみんな、勝手に《答えを授けてくれる場所》

《願いを叶える場所》だと思い込むようになった。

長い長いそれこそ億って単位でね」


バルトは返す言葉がなかった。


確かに自分は、図書館を図書館として見ていなかった。

最初から“万象の図書館”という伝説だけを見ていたのだ。


「じゃー、ゼンちゃんに質問。

バルトさんならどんな本が必要だと思うの?」


「うーんと、師範もラオスも番の呪縛を解きたいんだよな?

だからその解き方の本でいいのか?」


「そうだね」


「そうじゃ」


「うん。わかった借りてくる」


ヒョイと《おかず百選》を持ち上げ、

みんなが固まってるうちに、

「借りれなくても怒んないでね」と残し扉の向こうに行った。


「えっ?」

「はっ!待て、ゼン!」

「あはは……早い早い。ゼンちゃん行動早すぎ」

「…………」


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