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1-4檻の中の正の字④

ルーナは目を閉じたまま耳を澄ませた。


「今夜は何人来る?」

「二十は超えるな。バルトレアからも来るらしい」

「またあの仮面どもか」

「そりゃ来るさ。あいつらにとっては、ここが一番“安全に遊べる”場所だからな」

「遠いのによく来るよな」

「来てくれりゃ、俺たちは上の階に行かずに済む。楽できるって話よ」

「まぁ気は抜けねぇけどな。何かあれば首が飛ぶ」


仮面ども——貴族

第2層の観覧席に10ほどある“特別席”に座り、

顔を隠して見物する連中。


バルトレア──フォルデン王国の首都。

奴隷禁止令が発表されて80年。

法律の上では、この闘技場は存在してはいけない。

だからこそ、仮面をつけての見物


「なぁ、今夜は特別な催しがあるらしいぞ」

「特別?」

「新しい商品が来たんだよ。

 昨日、夜中に運ばれてきたらしい。」

「あーあの地下3の連中が結構騒いでたよな」

「地下3の連中が騒いでたって事はその商品かなりの大物かな?!」


ルーナは目を閉じたまま、呼吸を静かに整えた。


「あの房に入ったやつか」

「なら臨時ボーナスが出るかもな」

「バカ言うな。今回のは“本物過ぎて”やばいって話だぞ」

別の看守が低い声で割り込む。

「……なー、その話本当だからな。昼の点検で、あの房の前を通った奴がいてよ……背筋が凍ったって話だ」

「それは怖がりすぎだろ」

「俺もそう思ったんだが……実際に前を通ったら……」

「大袈裟だな」

失笑が混じる中、男は震えた声で続けた。

「本当なんだよ……信じろって……」

「中を見たのか?」

「見るわけないだろ。ただ……鎖の音はしたが、ハズレないよな?…」

「おい、お前ら喋りすぎだ」さらに別の看守が吐き捨てる。

「俺は関わりたくねぇ。前に“特別”が来た時、五人死んだんだぞ……帰りてぇ……」


ルーナは静かに、目を開けた。

特別な催し。

本物の商品。

あの収容房。

三つが、頭の中で静かに繋がる。


さっきの、少しだけ開いていた扉。

異様な熱気。

人間ではない唸り声。

感じなくなったのに感じた恐怖心。

青ざめた看守の顔。



どれも、同じ“何か”を示している。

今夜、特別な何かが起こる。


ルーナは床に正の字の一画をつけた。

この正の字が、今夜で終わりませんように。

控え室のランプが、ゆらりと揺れ

地下のどこかで、低い唸り声が響いた。

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