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1-3檻の中の正の字③

8年前のあの日、グリムクロウにつかまりここに来た。

最初両親は、ルーナを守ろうと頑張った。


父は、「娘には手を出すな」と叫びながら、

手は私を優しく撫で

「心配するな。お前だけは必ず守るからな」と抱きしめた。

母は、「この子の代わりに何でもします。」と石の床に額をこすりつけた。


ドラガンはそれを見て、微笑み


「いいな、その家族愛」


抑揚もない、平坦な声で愛を口にした。


翌日から、何かにつけ両親は鞭で打たれる様になり、

それでも両親は「心配するな。大丈夫」だと言う。

殴られる度に、鞭を打たれるたびに歯を食いしばった。

何回も何回も何度も何度も

「娘の代わりだ」

「ルーナの代わりだ」


「苦しいのは、娘のせいなのに」

「娘を守るんだろ?ほらきちんと立て、後5分だ」


食事を抜かれた時には

「お前の代わりにルーナが食べれる。」


「辛いな、苦しいよな」

そして、耐えた両親への言葉は、

「素晴らしい、家族愛だ」


両親は―――

ゆっくりと、でも確実に壊れていった。

1ヶ月が経ち、6ヶ月が過ぎると父の目が変わり始め、1年経つ頃には母の目も変わった。


「お前がいなければよかった」


その言葉がルーナの耳に最初に届いたのが、いつだったかはもう覚えていない。


「お前がいるから」

「お前さえいなければ」

「お前が.........」


憎悪の言葉が常に繰り返された。

優しく撫でて抱きしめてくれた手は、

ルーナを痛め付ける手に変わった。


そして絶望は足される


ドラガンはルーナの食事は欠かさない。

パンとスープ

ご飯と肉

粥と魚。

野菜とミルク

質も量も回数も他の奴隷とは格段に違う食事を摂らせる。


それを食事抜きの両親の前でする。

食べれない奴隷の前でする。


ルーナは泣きながら抵抗する。

「食べたくない、嫌だーー」

拒否するたびに目の前で両親が殴られた。


ルーナは懇願する。

「私より他の人に上げてください」

別の奴隷が殴られる。


「ルーナが食べないのはお前達が悪い」

だからこれはお前達への躾だと看守達は鞭を打つ。


ルーナの身体が心が食べ物を拒否する。

吐いてしまうが、

「ルーナが吐いた」の一言で

両親や奴隷達は殴られ鞭打たれる。


何が正解で何が間違いか、

ルーナには全くわからない


12歳の時、最大の苦痛が来た。

見世物の催しで私と父に強要された血縁の禁忌

やめて欲しい、やめてください。

やめてやめてと何回も何回も喉が壊れるほど頼んだ。

頼み続けた。


だが、父はその頃には、ニタニタと笑いながら、

僅かな安寧を求める為ならなんでもする男になっていた。

ドラガンは、私の前に屈み「今度は母親の前でも楽しめそうか」と、

私の髪の毛を乱暴につかみ、顔を強引に引き上げた。


「お願いします。やめてください。なんでもします。お願いします。お願いします。お願いします。なんでもします。」

「そうか…………なんでもか」

「なんでもします。お願いします。許してください。お願いします。」

ドラガンは一呼吸置いたあと、

「いいだろう、さっきの話は無しだ。たまにはお前の願いも聞いてやろう」

「ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます.........」


12歳の冬、父を見なくなった。

父の最後は知らない。

気付いたら居なかった。


13歳の春、来て欲しくない瞬間が、静かに訪れた。

母が興行の最中、魔獣の餌として死んだ。

闘技場の中央付近に、魔獣の餌として横たわっている母。

母の最後──食べられる瞬間も

私は「おかあさん」と叫んでいた。


母が私を見た。

声のする方を見ただけなのだろうか

視線が交差した。


母の口が動いた。

「お前のせいで」そう言われると思った。

ずっと、そう言われ続けてきたから。

それでも母から目を離せなかった。



「 ご め ん ね 」


今でもはっきりと覚えてる。

1文字1文字ゆっくりと母の口の形。

母の口の動き。

そのあとも、母の口は動いていた。

けれど、瀕死の身体では、言葉を最後まで形にする力は残っておらず、

何を言ったのかは、続きは分からない。

分からないまま、母の目から光が消えた。

その視線だけは、最後まで私を捉えたままだった。


片付けを命じられたのは、私だった。

「ごめんね」

母の言葉を繰り返しているのか、

母に謝り続けている自分の言葉なのか、

わからないまま、ただ泣きながら、

原型を留めてない母の骨を拾い、隠し持った。


両親がいなくなった後は、ドラガンはルーナが抵抗するたびに

「お前のせいで誰かが傷つく」といい、必ずその様子をルーナに見せつけた。


――息が詰まる。


小さく一呼吸をする。

あの日まで、平和は永遠に続くものだと思っていた。

両親の優しい声も、温かい食卓も、当たり前のようにそこにあった。

平和に終わりがあるなら、

必ず、地獄の終わりもまた訪れる。


だから、この地獄が終わり、母を綺麗な花が咲く場所で眠らせる為に


(生き延びる)


グッと手に力が入った時、

廊下から声が聞こえてきた。

看守たちの話が始まる頃だ。

ルーナは目を閉じた。

生き延びるために、耳を澄ませる。



お読み頂きありがとうございました。


宜しければ、モチベーション維持の為、反応を頂けると嬉しいです。

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