表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/47

2-7 青の嘘

案内されたのは、豪華な貴賓室だった。

――なるほど。兵を配置し、

いつでも取り押さえられる「檻」か。


ドラガンは軽く室内を見渡し、王太子に視線を向ける。

その場の重苦しい威圧感も、彼にとっては無風に近かった。


その様子を、隠し扉の隙間から陛下は冷めた目で見ていた。

(……やはり、動じぬな)

敵地であるというのに、あの男の涼しい顔は腹立たしいほどに変わらない。


同じ頃、ドラガンは視線を感じながらも、優雅に一礼し、


(――陛下もご同席、か。我が子を守るため、わざわざ隠れて覗き見るとは。……分かりやすい)


感情を仮面の裏に隠し、ドラガンは口角をわずかに上げる。


(王という生き物はどいつもこいつも、我が子に盲目すぎて滑稽だ。……国の舵取りよりも親心が優先とは)


「ドラガン・オルスティン・フォン・ヴァイセンベルク、参上いたしました。……王太子殿下。お呼びでしょうか」


その声はあくまで平穏で、

騒乱のあった闘技場の血の匂いはもちろん、

微塵も荒事の気配を纏っていない。


王太子の傍には、数名の近衛騎士が控えている。

その瞳にはヴァイセンベルクに対する警戒心や侮蔑の色が宿っていた。


王太子は書類を指先でなぞると、一枚だけ僅かに位置を揃え直した。

そして視線を上げ、ヴァイセンベルクを凝視する。


「ヴァイセンベルク、予定より早い到着だな。

道中、異様な光景には出会わなかったか?」


「異様な光景、でございますか?

登城の道筋で見たのは、朝霧に煙る街並みと、急ぐ市民の姿ですが……」


その笑みに、相手を煽る熱も、怯える色もない。


「護衛が報告した件とお聞きしました。

もしや何らかの事件が起きたのでしょうか。

このヴァイセンベルク公爵家が協力すべき事態であれば、ご明示いただけますか?」


ヴァイセンベルクは王太子から視線を外さず、堂々と問い返す。

その姿は、法と伝統に縛られた高位貴族そのものだった。


「ヴァイセンベルク。貴方と話をしていると、この私でさえ納得させられそうになる。

だから回りくどいことはやめよう。単刀直入に質問する。質問に答えよ」


王太子は、返事も聞かず質問に入った。


「お前は闘技場の支配人か?」


「いいえ」


「……フォルデン王国にある闘技場を知っているか?」


「いいえ」


ドラガンは穏やかな笑みを崩さない。


その笑みを前に、王太子は無意識に握っていた書類へわずかに力を込めた。


やがて一瞬だけ扉へ視線を送り、小さく息を吐く。


「最後の質問だ。クラスティーナを見たか?」

「いいえ」


回答が返ると同時に、ゆっくりと扉が開き、出てきた人物に

ドラガンや王太子をはじめ、その場の全員が一斉に礼を取る。


「あー、よいよい。ここは身内しかおらん。……なぁ、婿殿」


「陛下に朝のご挨拶を申し上げます。太陽の輝きを万世に」


「よいよい、そんな挨拶は。それより、すまんのぅ。

お主なら勘づいておるとは思うが」


陛下はそう言うと、背後に控える純白の神殿装束の人物へ顎をしゃくった。

その人物が静かに掲げた水晶玉は、青く輝いている。


――そう、水晶玉は青


「父上……」

焦燥が滲み出てる王太子の言葉

本来なら赤になるハズが青。


「さて、婿殿。このような場所ではなく、

少し茶に付き合え。

どのみち、もう少ししたらアリアが血相を変えて来るだろうよ。

王太子、その時はお前がアリアの相手をしろ」


「では、行こうか」


廊下を歩きながら、陛下は口を開いた。


「婿殿、今回の件は、クラスティーナに甘い王太子が、どうしてもと言うので、余が許可したのじゃ」


続く沈黙の中、彼は足を止め、半歩後ろを歩くドラガンへ振り返る。


「相変わらず、疑われても動じぬのぉ、お主は」


その表情を一瞥すると、背を向けて再び歩き出した。

そのまま二人は何も語らぬまま、執務室へ入っていく。


「婿殿、座ってよいぞ」


促されるままドラガンが腰を下ろすと、茶の支度が整うまで、陛下は、青く光り続ける水晶玉――いや、真偽玉をじっと見つめていた。


やがて茶の支度が整うと


「全員退出しろ。しばらくは婿殿と二人で話す」


護衛や神官たちは一瞬だけ逡巡したが、

君主の命に従い静かに部屋を後にした。


執務室は静寂に包まれる。


「先ほどの行為を許せ、婿殿」


「はい陛下。妻のアリアから話は聞いておりました。

お疑いになるのも仕方ないでしょう」


「護衛たちの戯言を鵜呑みにした訳ではないのだが、

何せ……クラスが見たものが何だったのか、お主は知っておるか?」


「いいえ、知りません」


真偽玉は、なお青く輝いている。


陛下は一度だけその青い光へ目を落とし、ゆっくりとドラガンを見据えた。


「ドラガン・オルスティン・フォン・ヴァイセンベルク、

お前は王位が欲しいか?」


「いいえ」


唐突な問いだった。


だが、真偽玉はなお青く輝いていた。


「ハァ……この真偽玉が壊れているのかと思うほど青ばかり。

お主の言葉に偽りはないか?」


「ありません」


ドラガンは苦笑しながら肩をすくめる。


「困りましたね。

最近は、やっと皆様と仲良くしていただけるようになったと思っておりましたが」


真偽玉は静かな青を保ったままだった。


「仕方あるまい、息子は怖いのだ。

婿殿があまりにも優秀すぎて、

自分の王位が揺らぐのを感じてる」


「私は王位より、お金が好きな守銭奴ですよ。

優秀な者を使うのが陛下や王太子の役目。

そして私は、王になりたいと思っておりません」


ドラガンはそれ以上何も言わず、静かに紅茶へ口をつける。


「それと……ずっと真偽玉をお使いですか? 魔石は足りますか?

もしよろしければ、私の魔石をお譲りしましょうか?」


「そうだな……これは金食い虫のひとつだからな」


――青。


誰が質疑応答しても真偽玉の機能は正常に機能。

「はぁぁ……」

陛下は深いため息をつくと、真偽玉をそっと持ち上げた。

その下には魔紋と、魔力を失って石同然となった高品質の魔石が置かれている。


「やはり、かなり消耗しておりますね」


ドラガンの声が静かに落ちる。


陛下は魔紋を丁寧に外し、今まで台座としていた袋へと収め、

そのまま、魔力を失った魔石と透明な水晶玉を三つ、机へ並べた。


「金が掛かるのぉ」


ドラガンも小さく頷いた。


「神殿にて品質が保証された水晶玉に、魔術職人が“引き直し”た狂いのない魔紋。

そして高純度の魔石。

どれか一つでも質が落ちれば、判定そのものが揺らぎますから」


「だから裁判でも滅多に使えぬし平民など無理じゃな」


「ええ。だからこそ信用されるのでしょう」


呼び鈴を鳴らす。

扉が開くと、陛下は魔紋の入った袋と水晶玉を近衛へ渡した。


ほぼ道端の石同然となった魔石を指先で弄びながら、陛下は静かに口を開いた。


「このように試すような真似をしておいて言うのも何だが……

クラスが欲しいと言ったのは、ただのトカゲではない可能性がある」


「特殊個体のようなものでしょうか?」


「いや……」


陛下はそこで言葉を切った。


だが、ドラガンは先を促すこともなく、静かに待つ。


やがて王は、覚悟を決め


「……竜人の可能性がある」


「竜人ですか?」


「……お主は本当に何を聞いても驚かぬのぅ、余はお主と会ってからこの数十年、

常に驚かされてばかりだというのに」


「竜人は……あの者たちは、人族領へ来ません」


「そうじゃ。だが、レグラン皇国に動きがあってな」


陛下は椅子に肘をつきながら続ける。


「操龍機が、フォルデン王国領近くにある『妖艶の魔女の庭』へ降りた。

その後、そのままクラスが立ち寄った港町カルディナ方面へ向かったと、

護衛たちを処分した後に報告が入った」


(全てが後手に回ったか。そしてどう動けばいいのか解らなくなり、王家にとって忌々しい私を糾弾して、目先の溜飲を下げる……滑稽を通り越して愉快だな)


ドラガンは表情一つ変えず答えた。


「……妖艶の魔女殿のお名前は存じております。

魔女と竜人なら、さして珍しい組み合わせではありません。

また、カルディナ港には私の貿易支店もございますが、

ここ数日、特別な報告は入っておりません」


一息置いてから、静かに続ける。


「アリアから聞きましたが、クラスティーナ殿下は、

その支配人のことを覚えていないと……。

クラスティーナ殿下に、術をかけられた形跡はございましたか?」


「……ない」

短い返答。


ドラガンは少しだけ視線を伏せ、


「本当に覚えていないだけだと?」


陛下は軽く頷き、

「神官にも診せた。精神干渉の痕跡も、魅了も、記憶操作も、一切ないとのことじゃ」


「そうですか……」

ドラガンはそれ以上、その件には触れなかった。


だが、その横顔は何かを考えているようにも、ただ納得しただけのようにも見えた。


「恥ずかしい話だが、末娘ゆえ……儂が相当甘やかしてしまったようじゃ。

自身の欲求を叶えさせようと、そのドラガン支配人とやらに帝国式の魅了術を使用したが、弾かれたそうでな。愚かな子よ」


「それは……本当に何から怒ればよいのやら……」


ドラガンは困ったように小さく息をついた。


「更に、兄である王太子に、

『トカゲが欲しいから帝国軍の一部を貸してほしい』と頼みおった」


「……陛下。申し訳ございませんが、既にお腹がいっぱいでして。もはや言葉もございません」

ドラガンの冷徹な拒絶に、陛下は鼻で笑った。


「ならば昼食を食べていけ。お主なら入るであろうに」


それは、何かの憂さを晴らすような――嫌がらせだった。


「ありがたいお誘いではございますが、

本日は港湾管理官との昼食会合がございますので、辞退させていただきます。

私は帝国へ金貨をもたらすだけの、しがない貿易公爵でございますから」


「ふん、やっかみ連中いや王家ですら、お主の利権なしでは生活が成り立たん。

帝国の収益、十五%を担う公爵を『しがない』などと言われても返答に困る」


「実際お主が元・フォルデン王国の男爵でさえなければ、やっかみも憎悪もここまで、

……いや、余も最初はお主を見誤った側」


ドラガンは静かに微笑む。


「生まれは選べません。

それに、その男爵家も今となっては過去の話。現在は、陛下にも良くして頂いております」


陛下は紅茶を一口含み、小さく息を吐いた。


「……だからこそ、色々とお主には驚かされてばかりだと言っているのだよ。……その商才と、我が愛娘を虜にした手際。普通なら『厚顔無恥』と笑い飛ばすところだが、今の帝国にその才能を失う余裕はないからの」


こちらが正しい2-7です。昨日投稿の話数を間違えてしまい(/ω\*)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ