2-3 悲しい癖
(魔女……?)
ルーナは顔を少し動かした瞬間に、ピキーンと脳に到達する痛みに顔を顰めた。
「痛いのか?どこが痛い?」
「目覚めの気分はどうだい?」
「……」
「フン、挨拶もできぬか」
声が重なる。
けれど、どれも頭に入ってこない。
ただ――冷たく見下す声だけが、
身体の奥に染みついた習慣を呼び起こした。
「ごめんなさい……おはようございます」
自分か、誰かが殴られる、
痛みより早く言葉が出た。
「番よ。痛む箇所を教えてくれ」
「……痛くない…です」
(痛いけれど……『痛い』って言ったら、そこを殴られるのかな?)
「とりあえず、その血を落としなよ」
「そうですね、魔女殿、お借りします」
声の落ちてくる場所が近い…と
自分がラオスの膝に、抱きかかえられていることに気付いた。
(あっ、...えっ?なんで?)
「人族のおな……コホン…娘よ、
いつまでラオス殿下の膝上にいるつもりなのじゃ!降りよ!」
(命令!降りなきゃ!)
混乱も返事も捨て、ルーナは慌ててラオスの膝から降りようとした。
そして襲って来た激痛で動きが止まる。
「じぃ、そういう言い方は良くないと思うぞ」
「若……私は今、若の成長を喜んでいる暇はないのです。
とりあえず帰りましょう。人族に構ってはいけないのです」
「なぁ……師範、教えてほしいんだけどさぁ、
なんか師範見てると、ラオスの番っていうより、
ガチで、怒らないでくれよ?
なんか、人族の事を怖がってね??」
「お前は黙れ禪!!」
「……だから……怒らないでって前置きしたのにぃ」
一瞬にして吹き荒れる圧がゼンへとのしかかり、
冷や汗を垂らしながらも踏ん張るゼンだが
それでも、このままでは椅子ごと沈んでしまいそうだった。
しかし――
「降ります。許してください! ごめんなさい!」
その声に、バルトはさらに眉をひそめ
ゼンへの圧が霧散した。
ルーナは、自分のせいで誰かが傷つくことを知っているし
慣れすぎていた。
だが、それでも嫌なものは嫌なのである。
力いっぱいラオスの腕から抜け出そうと身体を動かした、その瞬間。
激痛に次ぐ激痛が、全身を駆け抜けた。
「ぐぅうぅぅぅぅぅ」
声にならない声で、痛みに耐える。
「ん?あ〜そっか、多分その子、筋肉痛?
……筋? 骨? 肉離れ?う~ん……変身したらそうなるものだっけ?」
悶え苦しみながらも、魔女の声が異様に間近で聞こえ、前髪に触れられたルーナの身体がぴくりと強張るが抵抗はしなかった。
「だよね~角ないし」
そして容赦なく口の中へ指を入れられる。
「ほら! 牙だってない」
そう言って皆に見せつけると、
水球でさらりと手を洗い、何事もなかったかのように戻っていった。
「変身できない人族が変身したんだし
あそこまでの魔力を放出したんだ。
魔力回路も何もかもズタズタだろうね。
とりあえず、ラオス殿下はあっちで血を拭き取りなよ。
こっちはこっちで話を進めておくからさ」
「……魔女殿。よろしくお願いします」
ラオスはルーナを抱えたまま、ゆっくりと立ち上がりソファへ向かった。
「番よ、振動で痛くないかい? 血を拭き取るからね」
(痛いけど、あの人は大丈夫かな? これ以上怒られないといいな)
3人共、ルーナとラオスを目で追っていた。




