2-2 上機嫌の理由
「フフフ♪家に誰かが来るなんて久々だからなぁ
え~と…お茶ってどう出すんだっけ??」
呑気に呟きながら魔女はラオス達の思いなど無視し前を歩く。
ラオス達は数歩なのか数十歩なのか距離の感覚が曖昧な空間を歩いていると
不意に木の扉が現れた。
注意は怠ってなかったのに
「魔女マジック?!」
ゼンが驚く。
「どうぞ〜狭い家だけど入って〜」
扉を開け中に入ったと思ったら、ひょっこりと顔を出して手招きをした魔女は、そのまま部屋の中へと消えていった。
「呼ばれたから入っていいんだよなっ?!
ラオス〜師範行こ〜ぜ」
1番最初に目に入ったのは、少し大きめの丸いテーブル。
奥には暖炉とソファー
全体的には、若草色と白を基調とした軽やかな部屋、普通の部屋であった。
「しーはーん、もうさぁーここまで来たんだから諦めたら?」
ギロリと睨まれたが気にしない。
「魔女殿、お構いなく」
バルトは台所らしき方へ向かって声をかけた。
「あ~勝手に座って座って~♪今お茶出すからね~もう少し待ってね〜♪」
「魔女さんテキトーに座るからなぁ
ラオスはそっち座れば?俺ここにするわ
師範は?」
「…………」
ラオスは相変わらずルーナを抱えたまま、その顔ばかり見ていた。
「これ!人族が美味しいって絶賛してる有名なケーキ。
どうぞー♪結構美味しいよ〜。
あとコーヒーで良かった?紅茶もあるよ」
「へぇーーこれが人族が人族の人族よるケーキか!
……あっっっっまっっっ!」
「そうなんだよねー。人族のケーキは甘味料ドバドバだからね♪」
「フフン、ゼン。私は知ってる。
私も最初食べた時は甘いなと思ったが、結構美味しいものだ」
「………………」
「やぁーね、バルトさん、
人族が全員なんかする民族……いやまぁ、80人はするかなぁ?
でも、これは何もしない3人が作ったやつだし、なんと言っても美味しいのよ♪」
「魔女さん、引き算できてねーっす」
「やだぁぁ♪わざとよー」
まるで友達のようなノリで話す二人を、
「ハァ……」と重いため息のバルトが止める。
「魔女殿の招待は有難いが、
そろそろ本題に入ってくれぬか、
ワシは、一刻も早く若を連れて帰らねばならぬ」
「あーはいはい、年寄りはせっかちさんだねーんー……そうだねー」
魔女はフォークをプランプランさせながら、
「その子、本当に何者なんだろうねぇ。
私が移転した時には、
もう次元の狭間が閉じかけていたの。
人の肉体で次元に穴を開けてる事に……久々に驚いたのよ。あの感情新鮮だったわ」
バルトは腑に落ちた。
魔女がやけに上機嫌である理由を悟った。
「でね、その後すぐ倒れて、倒れた所に、人族が覚醒飛ばして来たの。
すぐさまその子に遮断かけて、そのまま持って帰って来たんだけど……」
ジーッとルーナを見る魔女の目。
深淵が覗きに来てるような仄暗い空気の震え
「でも今は普通の人間なんだよね。
全てが普通。
最初の魔力量と質も形も匂いすらも、全て違うし今は何も無いんだよ。
なんなんだいその子は。
あんたらは、なんでその子を置いてきたんだい?」
「んーー置いてきたと言うより、ラオスから離したかったんだよなぁ」
「ゼン!」
「いいじゃんかよぉ
どのみち、魔女さんにはわかる事だし、
嘘なんかついたら……」とゼンは両腕で自分の腕をさすった。
「離したかった?……あーなるほど!だから
ミラヴォスの焚香や血契の鱗粉の匂いやら
竜胆蜜酒で若様酔っ払ってるのかい?」
「このバカモンが……」
「で?その子が番?」
「ニセ!モノ!の!番です」
「魔女殿」
ここでラオスが初めて魔女を呼んだ。
「ん、なんだい?」
「お湯とタオルを貸して欲しい。この女の子の怪我では無いが、とても不快な臭いがして」
「師範……その子ラオスの番なんじゃね?」
「そんなわけあるか!!!若!いい加減に酔いを覚ましてくだされ!」
「じぃ、番とかニセモノとか関係ない。血がこびりついてるなら綺麗にしたいだろ」
「ラオスって真面目だよなぁ」
「いいよ。あっちのソファ使うかい?」
目線をやるとそこにはいつの間にか湯気が立っている桶とタオルがあった。
「……魔女殿礼を言う。タオルとお湯を借ります」
ラオスが立ち上がろうとした時、
ルーナが目を覚ました。
何秒経っただろうか。
おもむろに魔女が口を開く。
「固まって動けないみんなに『冷静沈着』をかけたよ」
「ラオスさん?」
「あっ、あっ、……うん」
「……私……生きてるんだ」
「……うん。生きてるよ」
「……」
そしてルーナが、目だけを動かしたのを見逃さなかったラオスは、
「ここは魔女殿の家だよ」
(魔女?)




