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1-25エピローグ③王の影


「何故だ! 何故ロイガーが死んだ!」

王の怒声が執務室に響く。


「王の影よ!……間違いではないのか!」


「はい。間違いございません」


「あードラガンが……ドラガンが、私を殺しに……ッ!」


「落ち着いてください」


影がそっと差し出したのは、揺れる水面を湛えた茶碗。

王は疑うことさえせず、一気に喉へ流し込んだ。


「ふん、お前にしては気が利くな。

いつも無言で背中にいるだけの案山……子……が……」


王の手からコップが落ちる。


「カハッ……な、な、なんだ…くるし…」


「王よ……いいえ、愚王よ。

やっと、やっと………貴様を殺せる

お前は、18年前に死ぬべきだった」


「だ……だっだれか!……たす…けて…」


「安心しろ。ドラガンは…」と、影は言いかけ

一呼吸置いてから

「……いや、ギルフォード陛下は元からキサマなど眼中にもないが、

貴様をこの手で殺せる事が、私への褒美なんだよ。」


王の影は当初、愚王を殺そうとしたが、

同じ復讐者であるドラガンに止められ困惑した。

だが、共に歩むうちに、その思想へと傾倒していく。


自分が王を一人殺すのは簡単だ……。


しかし、それだけでは何も変わらない。


この世界は、あまりにも多くの親子を引き裂いてきた。

同じ悲しみを背負う者を、これ以上増やさないために。


王の影は、

ドラガン・ヴァルハイト・フォン・ギルフォードを王と仰いだのだ。

ただ一つ。

ドラガンは世界を、影は王国を滅ぼそうとしている。

そのわずかな認識の差でさえ、ドラガンの思惑通りだとは知らずに。


影は動かず苦しむ王を見ていた。


「な……な、なにをいって……

お前は、王の……か…げ…た、すけ、ろ…」


「最後に教えてやる。

私の娘も……18年前、貴様の召喚で殺された一人だ」


王は大きく目を見開き、救いの手を伸ばしたまま無様に倒れた。


「そして、私は今でも王の影だよ」


影は王のそばに音もなく膝を下ろした。

そして、耳元で執拗に囁き続けた。


「直ぐには死なせない」

「娘の所に謝りにはまだ行かせない」


王の意識が途切れぬように。


しかしそれも、ビクッ、ビクッと痙攣の間隔が長くなるにつれ、

か細い吐息へと変わっていく。


影は王だった物の残骸を、じっと見つめ続けた。


瞳から怒りは消え失せていた。

そこに残っていたのは、

18年かけて冷えきった父親の絶望だけだった。


痙攣と呻きが完全に消えても、

影は、ただただ、その冷たい残骸を見つめていた。

一筋の涙が頬を伝う。

影はそれを拭うこともせず、立ち上がると静かに扉を閉めた。


そしてこの城に王を慕う者など皆無。


扉の向こうで王が孤独に事切れても、

城はいつも通りの時間を刻み続けた。


誰一人として王を訪ねる者はなく、

朝の光がその醜い屍を照らすまで、

崩御の知らせが走ることはなかった。


―第1章[完]―

第1章【完】


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。


第1章は一つの区切りですが、

実は後半で明かされた事実によって、

いくつかの場面の見え方が変わる構成になっています。


お時間がある際は、

「宰相と影」

「乱入」

「明かされる過去」


などを改めて読んでいただけると、

登場人物たちの言葉の意味が少し違って見えるかもしれません。


第2章では、

ついに“孵化”したルーナの物語が動き始めます。


引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。

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