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1-24エピローグ②ドラガン


一方、ルーナを欺き、無事に転移を終えたドラガン達。

「た…助かった」部下たちの安堵の言葉が聞こえてくる。


しかしドラガンは興味を示さず、

「ここを引き払え。それと魔紋を寄こせ」と

移転場所にいた部下に声をかける。


手渡された魔紋に、魔石をひとつ染み込ませ、声を乗せる。


断絶――いや、違う。竜人の追跡を躱すなら、


「因果断絶」


青黒い光がドラガンの身体を足元から頭頂へと駆け抜けた。


「私は帰るから、ここの痕跡はすべて消し、

引き払った後は念のため撹乱しろ。

その後、いつも通り連絡を待て」


「かしこまりました。他にご注意点は」

「興奮してる研究者共に、今日の現象をまとめておけと。それと質の良い魔石は目立たぬよう多めに買い込め」


ドラガンはそう言うと、もう一度転移した。


コツ、コツと革靴の音が響く中、階段を一段上がるたびに自動で足元が照らされ、纏っていた“外側”が静かに剥がれ落ち、本来の姿に戻っていく。

頬の傷は消え、髪色や瞳の色が変わる。


普段なら“遮断”で十分だが、

今回は因果断絶を使ったせいで、

因果断絶特有の“残滓”が残ってる。

(……平時にこれを使えば、勘のいい者なら気付くだろう。

娘を思う親心で影が出入りするのも困ったものだ)


ドラガンは本来の姿のまま

壁に寄りかかりながら待っていた。


ルーナ……一体、あれは何だったのか。

研究者どもに解析など期待しても無駄だろう。

だが、私の手元にはこの革袋がある。

ルーナ、お前との縁は、まだ終わらせない。


本棚に偽装された扉が開く。

部屋にはすでに、寡黙な男が控えていた。

ドラガンを見ても表情ひとつ変えず、恭しく一礼する。

「何か変わったことは」

「……特段ございません」

「計画に変更が出た。私は先に戻る。お前は後から来い」

「かしこまりました、旦那様」


ドラガンは車に乗り込み、革張りのソファに身を沈めた。


車は静かに前庭を抜け、噴水の水音だけが夕気に溶けていく。

玄関前で停まると、ドラガンは白いスーツのまま降り立ち、そのまま無言で屋敷へ歩みを進めた。

広いホールでは、控えていたメイドがすぐに一礼し、帽子と白革の手袋を受け取る。


ドラガンが階段へ向かおうとした、その瞬間。


「貴方――おかえりなさい」


階段の上から、鈴を転がすような声が響いた。

そこに立つのは、穏やかで高貴な雰囲気をまとった完璧な女性。


帝国の第二皇女――三十代の成熟した美しさをそのまま形にしたような人だ。


その深い愛を宿した眼差しが、まっすぐドラガンへ向けられる。


「ただいま」


ドラガンが短く返すと、彼女はふわりと微笑んだ。


「あら? 貴方……少しお疲れですか」


「まぁね。……今日は、色々トラブルがあってね」

ドラガンは微かに苦笑しながら答えた。


「まぁ、お疲れ様ですわ」

「可愛い奥様の顔を見れば、疲れも吹き飛ぶというものだよ」

「ふふ……貴方ったら、お上手ね」

皇女は春の陽だまりみたいに微笑む。


けれど、すぐに小さく息をつき、眉を寄せた。

「……私も今日は少し疲れてしまって」


「どうしたんだい」


「末の妹、クラスのことよ。本当に無茶ばかりして。急に『トカゲさんが欲しい』なんてお兄様に言ったの」


「クラスティーナ殿下が」


「ええ。しかも地下闘技場にまで足を踏み入れたそうで……それを聞いた父が、頭を抱えて」


「まさか、地下闘技場? 護衛たちは何をしていたんだ」


「信じられない話よ。……そのまま全員投獄か処刑なのだけど」


「妥当な処分だが…違うのかい?」


皇女は、ドラガンの翡翠色の瞳をじっと見つめた。


「どうしたんだい」


「あの子の護衛たちが最後に、

 『地下闘技場の支配人が旦那様だ』って訴えたのよ。マーサまで同じことを……」


「……それは心外だな。私がそんな野蛮な所の支配人とは…」


「でしょう? あなたには傷ひとつないし、髪だって美しい金髪だもの。

名前が同じで、色は違うけど目が同じだと言い張って……死の間際になって、あなたを汚すなんて、許せないわ!」


「……私は、帝国の女神を手に入れたラッキーな男だが、元は爵位が低いし、恨まれてるが……しかし…傷?……この姿が借り物だと…?」

不機嫌を隠そうとせずドラガンは続けた。


「その護衛や女中は、どうなったんだい」


「父が激昂したわ。

『クラスの窮地を招いた無能が、証拠も無しに公爵家を疑い、あまつさえ帝国のセキュリティをザルとでもいうのか!』って」


「護衛たちは“必ず証拠を提出するから信じてくれ”と見苦しい言い訳を重ねて……

恥知らずはいらん、と言い捨てて、その場で全員の首を刎ねさせたそうよ」


「そうか……クラスティーナ殿下はなんと言ってるんだい」


「それが、あの子……闘技場の支配人に術を使ったけど怒られなかったことと、目の色は灰色だった事ぐらいしか、覚えてないって言うのよ。あの子の興味は、トカゲさんらしく、『トカゲさんをくれないお父様なんか嫌いよ』って部屋に閉じこもってしまって」


「コメントに困るね…」


そこでやっとドラガンは不機嫌さを収めて苦笑いした。


ドラガンの不機嫌さが引いたのを内心ホッとした皇女は、

「それ以外にも、クラスはフォルデン王国に緊急回線まで使ったものだから……お父様、憤死しそうな勢いよ。本当に疲れたわ」


(……はは、やっぱり。

必死に叫んだところで、使い方を誤れば『生き残るための嘘』として切り捨てられるし、状況次第では、真実というヤツは、やはりゴミ同然の価値しかないというわけだ……)


「本当に騒がしい話だね。美しい奥さん、今日は、美味しいワインでも開けようか」


ドラガンは翡翠の瞳を優雅に細め、

妻の美しい指先へそっと口づけた。


お読みいただきありがとうございます。

ドラガンの二重生活、いかがでしたでしょうか。

第2皇女様を仕留める種明かしもしていく予定です。

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