1-19 歪んだ淘汰の仕組み
ルーナはもう終わりたかった。
「お母さん……」
母のところに逝かせて欲しかった。
何故こんな目に遭うのだろうか。
私は……私が……何かした?何をした……
「うわぁぁーん、もうヤダもうヤダもうヤダァァーーー」
「殺してよ!ころしてよー……うっうっも……ぅ……もうやだよぉ、もうやだ、やだよぉおおおおお!」
粉々になった母の遺骨を、肉に食い込むほど強く握りしめ泣き叫んだ。
心を閉ざしたいのに、強制的に繋ぎ止められた五感は、世界の音も、色も、匂いも生々しく拾ってしまう。
壊れて“無機質な器”になることすら、ルーナには許されなかった。
だが、神さえも知らぬ、
誰の目にも触れず、誰にも知られない──
「誕生」という名の聖域は、昏い闇の奥で静かにルーナの中で育ち続けていた。
そして母体の悲痛な叫びに、消えていった“それらが”産声をあげる瞬間を待っている。
―――
理は、生き物が交配し増える時に段階を作った。
受精。
細胞分裂。
受精卵。
だが自然淘汰は容赦なく、これらの大部分は、着床前に消えていく。
世界の、いや神の中では当然のことだった。
受精しても必ず育つわけではない。
染色体の異常、発育の停止、力や熱の不足
異種族同士なら尚更自然淘汰は容赦ない。
同種族同士でも、着床まで辿り着くこと自体が“奇跡”だ。
たとえ着床しても内外の因子で途絶えることがある。
女性の身体に毎月訪れるあの「証」も、
適合しなかったものを静かに排出する、
仕組みにすぎない。
人族と交わるはずのない、
魔・獣・亜人の多様な“異種の情報”
育つ前に終わるはずだったそれらは、
ルーナが毎度味わう【瀕死】という逆説的な条件によって、奇跡的に噛み合っていく。
ルーナに死なれては困る男が惜しみなく投じた回復魔術と大量のポーション、増血剤は、
理が拒絶したはずの異物を、いつしか彼女の身体の中で無理やり縫い合わせていった。
排出されず、残留した異種の遺伝子。
ルーナは宿しては消えていく命を、
己のものとして取り込み、
世界の理が拒絶したはずの、
“禁忌の同化”という名のバグを繰り返した。
その結果、二つの副産物が生まれた。
ひとつは、彼女から「恐怖心」が消えたこと。
心ごと壊れたいと願った彼女に残ったのは、残酷なまでの“無恐怖”。
既存の強者を超える存在へ変貌しつつあったがゆえの必然だった。
もうひとつは、耳を澄ませばかすかな囁きが聞こえるようになったこと。
だが彼女は、それを誰にでも聞こえるものだと思い込んでいた。
暗闇に囚われ、人と関わらない彼女を正す者は誰もいなかった。




