1-16レグラン皇国①
レグラン皇国の外縁部。
竜人の兵が巡回していたその時――
地面からにじみ出るように影が現れた。
「……っ、人族の影だと? 汚らわしい!」
兵は即座に武器を構えた。
本来、人族が竜人領に足を踏み入れること自体が禁忌。
ましてや影など、即刻焼き払われても文句は言えない。
影は、震える声で、封筒を差し出した。
「……ラオス殿下に関わる件で……どうか……!」
「……ラオス殿下、だと?」
触れたくもない“人族の紙”だ。
兵は嫌悪を隠さず、訓練通りに術を発動。
淡い光が封筒を包みこみ、兵の顔色が変わった。
「……術式無効化……真偽術……本物……だと……?人族お前は本体に帰れ!さもなくば斬る!」
「はい…………何卒お願い申し上げます」
影はそのままゆっくりと地面へ吸い込まれ、消えた。
「おい! 上へ回せ! 急げ!!
ラオス殿下の名がある!!」
こうして、封筒は、竜人社会の階層を“異例の速度”で駆け上がっていった。
王太子の執務室に、息を切らした近衛が飛び込んだ。
「殿下っ……!人族から手紙が……!」
王太子は露骨に嫌悪を表した。
「人族の手紙?汚らわしい物を持ち込むな」
「ラオス殿下に関わる手紙でございます」
王太子の表情が一瞬で変わり
封筒を受け取る前に、術を施す。
「清浄……寄こせ。術式無効……真偽……偽りなし、だと?」
そのまま、王太子は息を荒げることもなく、
だが凄まじい圧を放つ早足で父の元へと向かった。
近侍の制止を待たず、重厚な扉を自ら開ける。白を基調とした静かな重みの執務室で、
書棚の前に立ち、資料を手にしていた竜王が軽く扉の方を見た。
「陛下……人族から手紙が届きました。
……弟の名が記されております」
竜王は、露骨に嫌悪を滲ませ吐き捨てた。
「……人族の手紙か。汚らわしい読む前から嘘の臭いがする」
「術はすべて無効化しております。
真偽術でもラオス殿下に関わること“偽りなし”と出ています」
竜王の表情がわずかに揺れた。
「……将軍と宰相を呼べ。
それと急ぎ茶の用意をし、これ以降の予定は全てキャンセルする。
私が許可するまでは誰も取り次ぐな」
近侍は、頭を下げ己のするべき仕事を始めた。
待っている間に二人は親と子の立場に戻り、
「父上…落ち着きません。ラオスの名を人族が……何故口にしてるのでしょうか」
「忌々しい人族め」
「父上、無断で国を出たのはラオスですが、アレは神殿で眠りについてる伯父の……」
「言われなくともわかっておる。助けるに決まっておろうに
ただ……本当に人族とは厄介なのだ」
「はい。書物で読みました。とてもずる賢く陰謀にたけ、私たちを道具や素材としか見ない、野蛮な種族ですよね?」
「ああ、あやつらは真実を言うと、
病気になると思っている節がある。
嘘しか言わない」
「では今回のこの手紙も....何かの策?」
「わからん。ラオスは関係なく、
ラオスの名前を使って………違うか……
真偽では関係していると証明されている
やはり、この話は将軍と宰相が来てからにしよう」
「はい。」
しばらくすると、ノック音が響いた。
「入れ」
「失礼いたします。茶の準備が整いました」
近侍が入室して来たタイミングで、
「殿下、陛下……わかの事と聞いて飛んでまいりました」
気迫に満ちた足取りで踏み込んできた者は、
ラオスの教育係であり、王太子とラオスの剣の指南役でもある男。
そして、人族の国へ行くことに大反対した結果、
ラオスを一人で出してしまい、ずっと悔い続けている男。
元・王家筆頭指南長、バルトであった。
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