1-15密室②宰相と影
王の執務室を追い出された宰相は
自分の執務室に戻り、腕輪に触り防音術を展開。
王の興奮が収まらない。
そしてどう考えても異世界召喚なんて出来るはずが無い。
ならどうするか、どうやって王を納得させ、
番の呪縛を無効にし、番の禁術を隠す方法
1人で抱え込むには大きすぎる。
だれかだれか…誰かいないのか……
そして、唐突にひとり、最適な人物を思い出し
宰相は防音術を解除。
自分の影に“王の影”を呼ぶよう指示を出した。
しばらくすると、扉を叩く音。
「入れ。」
「宰相様にご挨拶いたします」
城支給のフードを身にまとい、
特徴のない穏やかな顔の者が、入室してきた。
宰相は、チラリと見たが、
「今は人を待っているので、
書類ならそこに置いてしばらくは入室しないように」
「はい、宰相さま。お待たせいたしました。」
その声と同時に、防音術が発動した。
さっきまで“ただの城勤め”だった雰囲気や顔が、
一瞬で“無”に変わる。
「……王の影か」
「はい。今回の事は緊急を要しますので、
宰相様のお呼びですが伺いました。」
「本来ならお主と相談などせん。
だが、このままでは、国が落ちる。
将軍は今、辺境領だ。
急遽戻せば禁術が露呈しかねない。
どうしたらいい……王は興奮して収まらない。
他国に禁術のことが知れたら……
いや、番の呪縛で首都が落とされても……
いや、それより番の呪縛は、バレてはならん。
ここだけは、絶対だ。」
やっと相談できる相手を得たせいか、
宰相の言葉は、止まらなかった。
「はい。……平穏」
薄く淡い光が周りを包んだ。
「……………………手間をかけた。すまない」
宰相は、ゆっくりと呼吸を整え、
傍にあった茶器で、
茶を2つ入れ王の影に差し出した。
1口茶を飲み
「王の影よ、どう見ている?番の呪縛は成功するのか?」
「多分ですが、おそらく成功します」
「成功と口にした根拠は?」
「宰相は、番の呪縛をどこまで把握していますか?
…おとぎ話の世界でしょうか?」
「すまない、実際はほとんど知らないのだ。
あの手の書物や研究資料、口伝すら全て、
レグラン皇国が封滅してきているのでな」
「はい。その通りです。
王家に伝わる書物でさえ、ほとんど残ってはいません。
ただ、複製の類はどこにでも流れますので、断片的な情報は残っています」
「手短に話してくれ」
「心紋の欠片は人にのみ反応する。
これは絶対です。
文献でも、オートマタやゴーレム、ホムンクルスのように心がない、
あるいは壊れた存在では発動しないと書かれております。
そして、心紋の欠片が形成されれば、発動はします。」
「発動自体はまだ簡単なのだな」
「時間さえ度外視すれば、発動そのものは可能です。
しかし偽の番は、竜力に耐えられず壊れるのがほとんどです」
「耐えられず壊れる?」
「はい。結界の外で、私は死を感じました。
結界の色は虹色。更に3重でした。
実際、結界の中にいた看守は、
全員錯乱し更に数名は死にました」
「虹で3重!少女は違ったのか?」
「はい。普通でした。本来ならありえません」
「少女が耐えた理由は?」
「……分かりません。」
「本物の番なのか?」
「いいえ。あれは偽物です。
本物は竜力が共鳴して安定し
偽物は漏れて暴走します。
中にいたものが錯乱したのが証拠です」
「その偽物は、余程強い耐性術か
精神強化・麻痺術の系統をかけていたのでは?」
「耐性術や精神強化術・麻痺術を極限まで重ね続ければ、
ご存知のように廃人になります。
先ほど言った心がない、あるいは壊れた存在では、発動しない話に戻ります」
「そうか……依然として不確定要素が多い、ということだな」
「はい。その他にも心紋の欠片には役割が色々ありますが、資料や記録、作成方法等は竜人により封滅され、現在では、番の呪縛の成功には至らず、また過去でも成功例が極少なのはその為です」
「なるほど……だが、今回は発動には耐えた。
しかもありえないほど普通という要素で、たぶん成功すると」
「はい。
欠片の質が相当高かったと推測しますが、
少女の反応だけは、私の知りうる既存の記録や理論のいずれにも該当しません」
「不気味さは拭えぬし、決して安全とは言えぬが、
お主の説明を聞く限り、成功の確率は極めて低いように思えるが」
「いえ…あのドラガン・ヴァルハイト・フォン・ギルフォードです。
宰相、お忘れなく。
あの者が勝算のない博打に出るはずがございません。
しかもこの状況下で個人で禁術発動まで達した力は決して侮れません。
ゆえに、たぶん、おそらく成功すると申し上げたのです」
「そうだったな……あの者が敵だったな。
ではどうお主なら考える?」
「最善手は、あの偽の番を今のうちに排除するのです。
成功し、完全に番の呪縛が定着したとなれば、
どんな理由であれ偽の番が死ねば、
竜人は狂い死にます。
今なら定着前であり、
発動も短時間1回のみ。
偽物が居なくなれば、
竜人は問題ないはずです。
……排除するしかありません」
「可能か?」
「……はい。向こう側も現在、あの少女が大切なので、
守りは相当厳しいでしょうが、出来ます」
「この国を守る為には、
まず少女を排除か…嫌なものだな
だが失敗し、番の呪縛が成功したら、
他国からの強い批判と
竜皇国からの報復を如何に躱すか……
躱せるのか?……ハハ……頭が痛むな」
「…………」
宰相は冷めきった茶を1口飲んだ。
「そう言えばお主よくギルフォードを見張っていたな」
「部下が、オルステイン帝国の第4皇女クラスティーナ殿下が
あの美術館に寄り道する話を掴み、
組み合わせ的に嫌な予感と、私が場所的に近く動きました。」
「帝国……ここでその名前は聞きたくなかった。
帝国は竜人が我が国に居る事を知ったのか」
「いいえ、あと数日はそこに関しては猶予があるかと。
何せ話すのが第4皇女様のおねだりです。
最初は特殊個体だと思うでしょう」
「あのわがまま甘ったれ皇女か」
「ですが護衛からの裏取り等済ませ竜人と分かれば話は別です」
「……何故私の生きてる中で禁術が2回も発動するのだ」
「1つ方法があります。レグラン皇国に竜人の救援要請をするのです」
「……鎮静が必要か?……そのまま我が国が滅ぼされて終わる」
「いいえ、竜人が禁術で危ういと素直に言うのです。
禁術で竜力が抑えられてない竜人を
抑え込めるのは竜人だけです。」
「なんという無謀な。王がそんな話を認める訳がない」
「はい。今の王は駄目です。
しかし、すでに次代がおります。」
「お前は王の影だろうが!」
宰相は、その意味を理解し、声を荒げた。
「はい。私は王の影です。
王さえいたら良いのです。
ただ出来れば愚王の尻ぬぐいは、
この辺で終わりにしたいのです。
次代が王になればそれだけで良い話。
あの方は聡明です。」
王の影は、宰相が淹れた茶にちらりと視線を落とした。
「宰相様、貴方は先王に仕えた。なら分かるはずです。
この国はすでに、ギルフォードが流し込んだ毒で終焉に向かってます。
このまま愚王に、王の冠を付けさせておくなら
国が、いえ王の血が途絶え、私もあなたも、それこそ骨折り損です。」
「レグラン皇国に助けを求めたら、国と血が守れるのか?」
「絶対ではございませんが、勝算は高いです。」
「わかった。……まさか3人目の王に仕える日が来るとはな」
宰相は、一気に茶を飲み干した。
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