1-14密室①
王は苛立ちを隠そうともせず、宰相と影を手で追い払うように叫んだ。
「もうよい! お前たちがいると邪魔なのだ、退出せよ!」
「……かしこまりました。一旦退出いたします。」
「影、お前もだ!」
「王の安全が確保されぬ限り、退出はできません。」
「ロイガー師団長がいる。
この国で最高の安全確保だぞ。
ロイガー、お前は私を守ってくれるのだろ?」
一瞬にしてロイガーの口元がわずかに緩む。
「もちろんでございます!」
(陛下は、やはり私を頼りにしている)
宰相は踵を返し、扉へ向かう途中で振り返った
「……陛下。どうか、独断だけはなさいませんよう。この国のためにも、陛下ご自身のためにも。」
「宰相、余に指示か?」
「忠告にございます。」
「……ふん。」
続けてロイガーへ視線を向ける。
「……師団長。陛下をお一人にはなさらぬよう。
決して18年前のような異世界召喚は、
王の御心ひとつで動かしてよい術ではありません。」
そう言い残し、宰相は静かに頭を下げ部屋を後にした。
だが宰相はここで、重大な事実を見落とすという悪手を打つ。
18年前の大惨事の折、この王の傍らで震えていたのは、ロイガー・バルデンハイムその人であり、
そして、最後の一歩を、王に踏み込ませたのは、この男だとは知らずに。
『さすがです、陛下』としか言わないイエスマンに、元から忠告など届くわけがない。
扉が閉まる音だけが、妙に大きく響いた。
******
「やっといなくなったか。
私の考えをいつも駄目駄目としか言わない
耄碌じじいめ
だが……確かに異世界召喚は危険か……」
王は散らかった書類を踏みつけながら、
苛立ちを吐き捨てるように呟いた。
ロイガーは入室からずっと立っており、いつもならとっくに座ってるのにと思いつつ
「陛下……」と声をかけた瞬間、王が振り返るとその表情は醜く歪んでいた。
「……ドラガンを殺さねば。」
「は?」
「奴は……やはり父上の言う通り、
殺すべきだったのだ!
ロイガーよ、ドラガンを殺せ!」
「陛下、……ギルフォードは死んだのでは?
自分は……そう伺っておりますし、
何より奴の死体も確認しました。」
王はギリ、と音がしそうなほどロイガーを睨みつけた。
「……生きている。奴隷商人ドラガンとしてな。
カルディナ港の郊外にある古物美術館を知っているだろう。」
「え? ええ……紳士倶楽部でたまに噂を聞いていましたので、妻と一度か二度行ったことがあります。ただ、そこまで大層な美術館だとは……」
「当たり前だ。あの美術館は“裏”が本物だ。
表向きは二束三文のガラクタだらけよ。」
「……裏、ですか……?そことギルフォードが生きているというのは?」
「その美術館の支配人をしておる。18年前からずっとな。」
18年前からずっと……その言葉に
ロイガーの喉がひくりと動いた。
18年前、ギルフォードになぜ止めなかったと、
汚物を見る目で見られ、殴られ、
“無能の役立たず”と吐き捨てられた。
違う。自分ではなく、状況が悪かっただけだ。
あいつだって止められなかったくせに……
俺だけがなぜ無能と言われなければならない?
俺はあの時、王を守った。
なのに、父も兄も、あの目で俺を見やがって……
「おい、聞いてるのか、ロイガー」
王の声が、思考の海を断ち切った。
ロイガーはビクッと肩を震わせ、慌てて姿勢を正す。
「はっ、はいっ! もちろんでございます、陛下!」
「そうか、ロイガー……やってくれるんだな。
18年、ずっと私のそばにいたお前にだけしか頼れん。
だが、これは危険な任務だ。
お前を失いたくない。お前の率いる近衛騎士師団は半分だけ動かせ。
全部は駄目だ、私の……いや、城の守りが手薄になる。
そうだ!魔術師団もつけよう。
第1……いや、第2だ。
第1も城を……た、民も含め守らないといかんからな。
ロイガーなら第2すら不要かもしれんが、
まあ、念のためだ。なにせあやつは卑怯者だ。」
(この戦力なら確実に殺せる、大丈夫だ)
ロイガーは感動していた。
(そう、そうなんだよ。
俺は近衛騎士・師団長として18年やってきた。
裏でコソコソと、無能な役立たずはお前の方だろ。王は城の守りを案じておきながら、俺のために近衛の半分と、第2魔術師団まで預けてくださったんだ!)
「お任せ下さい、陛下。必ずやドラガンの首を持って帰ります」
ロイガーは、引き締まった声で告げた。
(簡単な任務だ。
ギルフォード、お前に“無能の役立たず”と言われた言葉、そっくりそのまま返してやるよ)
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