余韻と、微熱
爆音と閃光が吹き荒れ、シェルターを支配していた「偽りの静寂」が、ガラスが砕けるような音を立てて崩壊した。
中心核を撃ち抜かれた真空の心臓は、眩い光の粒子となって霧散し、奪われていた音たちが濁流のように世界へと帰還する。崩れる瓦礫の音、通気口を抜ける風の音、そして――自分たちの荒い呼吸の音。
衝撃波が収まった後、二人は瓦礫の山の中で、折り重なるようにして倒れ込んでいた。
「……はぁ、はぁ……っ……」
真っ暗な闇の中に、懐中電灯の光が弱々しく揺れている。
朔夜は、自分の腕の中にまだアリスがいることを確認し、ゆっくりと体を起こした。だが、腕を解くことはしなかった。いや、できなかった。極限の緊張から解放されたアリスが、彼の胸に顔を埋めたまま、子供のように激しく泣きじゃくっていたからだ。
「……サクヤ……サクヤ、サクヤ……! 音が、聞こえるわ……。あなたの音が、こんなに近くで……っ」
アリスの指が、朔夜の革ジャケットをぎゅっと掴んで離さない。
死の静寂に飲み込まれかけ、己の存在さえ消えかかった恐怖。それを救ってくれたのは、間違いなく目の前の、この不器用で粗野な男の体温だった。
「……泣きすぎだ、馬鹿。……仕事は終わったんだ、さっさと立ち上がれ」
口ではそう突き放しながらも、朔夜の右手は、震える彼女の背中を、戸惑いながらも静かにさすっていた。
鉄と油の匂いしかしない、無骨な彼の手。だが今の彼女にとって、それは世界で最も優しく、頼もしい盾だった。
「……立ち上がれないわ。腰が抜けちゃったみたい。……サクヤが、あんなこと言うから……」
「あんなこと?」
「『俺を信じろ』なんて。……サクヤが、私に心臓の音を聴かせてくれるなんて思わなかったもの。……あんなに、熱い音だったなんて」
アリスが顔を上げ、涙に濡れた瞳で朔夜を見つめる。
至近距離で視線が絡み合う。懐中電灯の逆光の中で、朔夜の表情はよく見えない。だが、彼がアリスを抱く腕の力が、一瞬だけ、壊れ物を守るかのように強くなったのを彼女は感じた。
「……うるせえ。……死ぬか生きるかの瀬戸際だ。そのくらいしねえと、お前、今頃あっち側に行ってただろうが」
「そうね。……でも、サクヤ。……今も、まだ鳴ってるわよ。……あなたの音」
アリスがそっと手を伸ばし、朔夜の左胸――まだ激しく、熱く打ち鳴らされている彼の本音の場所に触れた。
朔夜は反射的に身を引こうとしたが、アリスの指先に込められた、拒絶を許さないほどの真摯な重みに、思わず動きを止めた。
ガレージでの軽口や、バイクの排気音に隠してきた想い。
孤独を愛し、他人を遠ざけてきた朔夜が、唯一自分の領域に招き入れ、その背中を預けてきた女性。
「……アリス。俺は、お前に……」
朔夜が、喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
それは「愛してる」なんて整った言葉ではなかった。もっとドロドロとして、執着に満ちた、壊れた機械を繋ぎ合わせるような、切実な独占欲に近い感情。
だが、その言葉が零れ落ちるよりも先に、アリスが背伸びをするようにして、彼の頬に、震える唇をそっと寄せた。
「……ありがとう、サクヤ。私を……見つけてくれて」
冷え切ったシェルターの中に、二人だけの微熱が灯った。
外ではアビゲイルたちが駆けつける足音が近づいている。だが、この瓦礫の隙間で重なり合う二人の間には、世界で一番静かで、一番確かな「共鳴」が響き渡っていた。




