表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神速の陰陽師 〜ロンドン事件簿〜  作者: 風花
第十二章:ホワイト・クリフ ―断崖の疾走と、海鳴りのアリア―
55/61

職人の計算高い休日

 ロンドンのガレージに辿り着いた頃には、夜の帳が完全に下りていた。

 ハヤブサを定位置に停め、重いシャッターを下ろすと、そこには静寂……ではなく、ガレージの隅に放り出してきた局の通信端末が、断末魔のようなアラート音を上げながら赤く点滅していた。

「……まだ鳴ってるわね。よっぽど必死だったみたい」

 アリスが苦笑しながら、淹れたての紅茶をテーブルに置く。

 朔夜は溜息をつきながら、忌々しい端末を拾い上げた。液晶には「最優先・即時対応」の文字とともに、鬼のような数の未読メッセージと着信履歴が並んでいる。送信者はあのアビゲイル、そして泥まみれで逃げ帰ったはずのヘンリーだ。

「どれ……『セブン・シスターズ近辺にて大規模な時空干渉および未確認飛行物体の反応あり』。……『至急現場に急行し、原因を排除せよ。報酬は通常の三倍、特別危険手当を上乗せする』だとさ」

 朔夜が内容を読み上げると、アリスが隣から端末を覗き込み、ぱちくりと目を丸くした。

「それって、さっきサクヤが『もう休め』って言って、綺麗に片付けちゃった話よね?」

「ああ。どうやら局のレーダーに引っかかったのは、俺たちが戦ってた真っ最中か、あるいは俺が術を叩き込んだ瞬間のエネルギー反応だろうな」

 局は、現場ですでに問題が解決していることなど露ほども知らない。彼らにとってセブン・シスターズは今まさに、亡霊の編隊が飛び交う地獄の戦場であるはずなのだ。


「……どうするの? 正直に『もう終わった』って報告する?」

 アリスの問いに、朔夜は不敵な笑みを浮かべた。

 そのまま正直に話せば、局は「休暇中の勝手な行動」として片付け、一銭も払わないどころか、勝手に管轄外で暴れたとして減俸を言い渡しかねない。それでは、ガソリン代とアリスへの「手向け」の雷鳴がボランティアになってしまう。

「……いや。この依頼、今この瞬間『受理』したことにする」

「えっ?」

「今から現場に行くには、夜間の高速を飛ばしても二時間はかかる。……だから、俺たちは今からガレージで『準備』に取り掛かるんだ。装備の点検、術式の構築……それには一晩かかる。そうだろ?」

 朔夜は端末を操作し、依頼承諾のサインを送ると、そのまま電源をオフにした。

「明日の朝、ハヤブサをちょっと汚してから『今帰還した』と報告する。もちろん、命懸けで大編隊を退治してきたっていう、血と汗の滲む戦闘詳報を添えてな。……アビゲイルのことだ、翌日の報告なら疑いもしないだろうさ」

 アリスは一瞬呆気にとられたが、やがていたずらっぽく笑ってカップを掲げた。

「じゃあ、今夜は『徹夜で準備』という名の、ゆっくりしたティータイムね。……サクヤ、案外ちゃっかりしてるのね」

「職人は、自分の技術を安売りしねえもんだ。……さて、明日の『完了報告』に備えて、今日はもう寝るぞ」

 翌朝、局の銀行口座から振り込まれるであろう「危険手当」を想像しながら、朔夜は今日一番の満足げな顔でソファに深く身を沈めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ