第4話 逆行の先に見つけた答え
幸子は1歳になっていた。
恐れていた赤ん坊期真っ只中。
1歳児という想像以上の無力さ。
脳も退化している気がする。
意味もなく泣き散らしてお母さんを困らせてしまっている。
母親が傍にいないと何もできない自分がとにかく情けない。
19歳の頃、幸子は両親と不仲だった。
過保護すぎる母親が鬱陶しくて勝手に家を出て一人暮らしをしていた。
でも今ならわかる。
母親というかけがえのない存在のありがたさを。
お母さん……ママ……
本当にありがとう。
こんなに大変な子育てをしてくれてありがとう。
心から尊敬します。
本当は20歳になった私が直接言いたかったけど……
もう無理みたい。
だから今。
今こそありったけの感謝を伝える。
幸子は震える手を精一杯伸ばし、世界一大好きな母親に、言葉を伝えた。
「マ……マ……!」
「……! さっちゃん! 今『ママ』って言った!?」
初めて漏らす言葉。
ママって言うだけで喜んでくれるなら、いくらでも言ってあげる。
「マ……マ!」
「さっちゃん!」
大好きなママに抱きしめられながら、幸子は大きく笑う。
無邪気な赤ん坊の笑顔の裏側に多大なる感謝が籠っていることに母は気づいてくれただろうか。
もし気づいてくれたのなら……
逆行できて少しは良かったのかもしれない。
◆
12月20日
幸子、0歳。
隣には大好きな母が居る。
母が愛おしそうに幸子を撫でてくれている。
それだけで幸子の心も満たされる。
だから今日が最後の日であろうと、全然怖くなかった。
「生まれてきてありがとう」
ママの優しい声が聞こえてくる。
「私は一生を掛けて貴方を守るわ」
守る。
守ってくれていたよお母さん。
私が逆行していることを打ち明けた時、唯一信じてくれた。心配してくれた。病院にまで連れて行ってくれた。
まだ、言えてなかったけどさ。
あの時、心配してくれてありがとう。嬉しかったよ。
「貴方が幸せになる日まで全力で支えていくからね」
幸せ。
私はもう十分幸せだよ。
こんなに暖かい温もりに包まれている私が不幸せなわけがないもん。
「貴方の名前はね。もう決めてあるんだよ」
いけない。
眠くなってきた。
まだ眠っちゃ駄目。
大好きなママの言葉を最後まで聞くんだ……!
「幸子。貴方の名前は幸子。ちょっと古臭い名前かもしれないわね」
そんなことないよ。
私、この名前大好きだから。
素敵な名前を付けてくれて、ありがとう。
「幸子。幸せになる子。貴方の未来が幸福で包まれていますように」
——ママは子守唄を歌ってくれる。
ああ。幸せだ。
——子守唄が聞こえる。
このまま眠ってしまおう。
——子守唄が聞こえる
ポカポカした気持ちのまま、今日を終わろう。
——子守唄が聞こえる。
幸子は幸せです。
私を幸せにしてくれて、ありがとう。ママ。
幸子の0歳は終わった。
そして——
幸子は25歳になっていた。




