第3話 余命10年のクリスマス
幸子は10歳になった。
つまり自分は本当なら30歳なんだなと自嘲的な笑いが零れる。
幸子は逆行する時間から抗うことをもう辞めていた。
無駄だと悟ったから。
同時に自分の死期も悟ってしまった。
このまま時が戻り続ければ自分は数年後には赤ちゃんになり、0歳を下回った時点で存在しなくなる。
つまり余命10年。
「この問題はちょっと難しいかな~? 分かる人いる?」
担任の中村先生の算数の授業。
高校・大学と成績不振だった幸子でもさすがに小学生の授業くらいわかる。
私は静かに手を挙げて、先生に宛てられる前よりも先に席を立ち、チョークで回答を書いていく。
「せ、正解。凄いわね。これ6年生レベルの問題なのに! 天才だわ!」
おぉ~! と私を賞賛する声が上がる。
小学生の問題を軽々解いて、尊敬の目で見られること——
これが唯一の楽しみになっていることがとにかく悲しかった。
◆
幸子は5歳になった。
「さっちゃんはサンタさんに何をもらいたい?」
お昼寝の時間。
幼稚園の先生が優しい笑顔で幸子の頭を撫でながら聞いてくる。
「幸せじゃなくてもいいので、普通の生活を送れる人生をサンタさんからもらいたいです」
「ふ、深いお願いね。あ、貴方本当に5歳?」
35歳です。
そう答えたらウケるかな。
「ばっかだなぁ。幸子はサンタを信じてるのか? サンタなんて本当はいないんだぜ」
「こらっ! 春人くん!」
春人。
出会った頃の春人はこんな生意気なクソガキだったんだなぁ。
どうしてこの子のことを好きになったんだっけ?
今になっては思い出せない。
「サンタはいるよ春人」
「いねーって」
「んーん。いるの。少なくとも悪戯に人の人生を狂わす異形は存在する。それがサンタかどうかはわからないけど、傲慢な願いごとばかり繰り返す人間を憎んでいる神々は存在するの。私が生き商人よ」
「何言ってんだお前!?」
「幸子ちゃんが5歳の時点で中二病に……!」
メリークリスマス。
サンタさん。幼気な子供に素敵なプレゼントをくださいな。
この私に普通の人生をくださいな。
……………
…………
……
「12月23日。お天気と交通情報からお届けします」
正解だよ春人。
サンタなんてこの世にいないみたいだね。




