最終話 明日が美しい日でありますように
0歳が終わった瞬間、もう一度0歳が始まった。
そして今度の時は戻ったりせず、正常に進む。
戸惑いもあったけど、それ以上に喜びが幸子の胸に広がっていた。
そして誓う。
幸せになろうと。
幸子は3度目の3歳になっていた。
5月の第2日曜日。
「はい。ママ。プレゼントだよ」
折り紙で作った冠。
幸子は不器用で、出来栄えは決してよくなかったけれど、ママは泣いて喜んでいた。
「ありがとう。とっても嬉しいわ」
「えへへ」
ママは幸せそうに私からのプレゼントを受け取ってくれた。
幸子は3度目の4歳の時も、3度目の5歳の時も、5月の第2日曜日には必ず母にプレゼントを送っていた。
幸子の2週目はとにかく“母の日”を大事にすると決めていた。
毎年欠かさずプレゼントを贈る。
自分がもらった幸せを少しでも返してあげる為に。
幸子は25歳になっていた。
初めての25歳。
それは初めての結婚式を挙げた日でもあった。
「春人くん。幸子さん。結婚おめでとう~!」
披露宴の会場で友人から祝福を受ける。
幸福に包まれる結婚式。
相手は幼馴染の春人。
2週目の人生でも幸子は同じ人を好きになった。
好きになった瞬間から幸子の方からアプローチを続け、今日という日に至った。
人生2週目のアドバンテージは決して使ってこなかったけど、幸子は1回だけズルをした。
告白のタイミングを高校の卒業式の日に行ったこと。
その日なら春人は幸子の告白を受け入れてくれることを知っていたから。
「それにしてもお前らしいよな」
「何のこと?」
「結婚式の日を5月の第2日曜日にしたことだよ」
春人が微笑ましそうに幸子の肩を抱く。
その視線の先には幸子の大好きな母親の姿があった。
「毎年母の日にはね、幸子は幸せだよってお母さんに伝えることにしているの」
「それで母の日のプレゼントとしてウェディングドレス姿を見せてあげたのか」
「マザコン過ぎて幻滅した?」
「まさか。俺はお前のそういう所に惚れたんだから」
「ありがと。絶対幸せになろうね」
「もちろんだ。お前を幸せにできなかったらお義母さんにぶっ飛ばされるからな」
優しくて、暖かくて、大好きなお母さん。
幸子の未来は幸福でこんなにも幸福で包まれているよ。
だから最大級の感謝を込めて、ずっと伝えたかった言葉を今伝えるよ。
「私を生んでくれて、ありがとう」
幸子は28歳になっていた。
その両手には小さな命の息吹があった。
ポンポンと愛しき我が子を撫でながら、幸子は語りかける。
「貴方の名前はもう決めてあるんだよ」
かつて過去に戻り続けた幸子はずっと未来を焦がれていた。
明日が来ないことがこんなにも怖いのだと恐怖で絶望した。
でも大丈夫。
貴方には必ず幸せで美しい明日がやってくるから。
明日を尊んでほしいからこの名前を授けるんだ。
「明日美」
明日美を抱きながら幸子は子守唄を歌う。
28年前、大好きなママが自分にしてくれたように。
幸子の子守唄を聞きながら明日美はゆっくりと夢の世界へと誘われていく。
“ありがとう”
幸子の耳に明日美の声が聞こえた気がした。
—【完】—




