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支配域の管理論〜ドミネーション・マネジメント  作者: nov


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第67話 最初の返却

 山ノ上保管場所の鍵箱を見ると、封印は新しくなっていた。


 〇〇二。


 昨日の〇〇一は、開封記録に貼られている。

 紙片になった封印を見ると、昨日の動きが本当にあったことのように見えた。


 でも、二回目の仮運用は、もっと小さく、もっと面倒な形で来た。


 坑口側の家から、照明を一基だけ借りたいという連絡だった。

 停電ではない。

 納屋の奥で探し物をするのに、夕方の光では足りない。


「対象になりますか」


 僕が聞くと、吉岡さんは電話口で言った。


「ならないなら、ならないって書け」


 その通りだった。

 使うか使わないかだけではない。

 使わなかった理由も残す。


 優先条件表を見る。


 冷蔵保管。

 夜間照明。

 通行可否。


 作業場所の照度不足。

 該当する。


 仮運用二回目。

 坑口側発生。

 照明一基。


 僕たちは、坑口側発生時の線で開けた。

 未開封となった集会所側の欄には、こう書く。


 坑口側線で開封済のため未開封。


 書いてみると、少し奇妙だった。

 動かなかったことまで書く。

 でも、書いたことで、二つの線が喧嘩しなかった。



 返却は、夜になった。


 照明一基。

 返却者。

 吉岡さん。


 次回使用。

 要確認。


 僕はそこで手を止めた。


「要確認ですか」


 吉岡さんが聞いた。


「角が欠けています」


 照明の持ち手の端が、少し割れていた。

 使えないほどではない。

 でも、昨日の終了確認表なら、ここは可か不可か要確認だ。


「使えるだろ」


 吉岡さんが言った。


「使えます。でも、次に出していいかは確認した方がいいです」


 言いながら、自分でも嫌な感じがした。

 責めているように聞こえる。


 吉岡さんは、少し黙ってから言った。


「壊したのは、たぶん俺じゃない」


 部屋が止まる。


 こうなる。

 破損と書くと、誰が壊したかの話になる。

 松原さんの言葉が戻ってきた。


「壊した人の確認ではありません」


 僕は、できるだけゆっくり言った。


「次回使用の確認です」


 吉岡さんは、照明を見た。


「じゃあ、要確認でいい」


 少しだけ硬い声だった。


 閉鎖確認者は、宮本さんになった。

 返却者以外。

 彼女は照明を手に取り、割れた端を見て言った。


「点くかどうかだけ、今見よう」


 照明は点いた。

 光は安定している。


「次回使用、可。ただし持ち手欠けあり」


 宮本さんが言った。


 僕は手を止めた。


「欄がありません」


「じゃあ、備考に書きな」


 備考。

 作らないつもりだった欄。

 でも、ないと困る時がある。


 松原さんならどう言うだろうと思った。

 たぶん、こう言う。

 見ない備考なら作るな。

 でも、見た時だけ使う備考なら残せ。


 僕は終了確認表の下へ小さく書いた。


 備考。

 持ち手欠けあり。点灯可。


 次回使用。

 可。


 閉鎖確認。

 宮本静江。



 翌日、松原さんにその紙を見せると、彼女はすぐに備考欄を見た。


「増やしたね」


「必要でした」


「毎回書く欄にしないこと」


「はい」


「備考は、何かあった時だけ。空欄が続いても弱く見えない場所に置く」


 僕は頷いた。


「あと、要確認から可に変えたなら、誰が変えたか残す」


 また足りない。


 僕は書いた。


 判定変更者。


「長い」


 松原さんが即座に言った。


「確認者で足りる」


 僕は消して、書き直した。


 確認者。


 紙は少しずつ強くなる。

 でも、少しずつ増える。

 その境目を、松原さんは容赦なく切ってくる。



 夕方、大滝の側近の男が集会所へ来た。

 照明の欠けの話は、もう届いていた。


「仮運用二回目で破損ですか」


 言い方は静かだった。


「破損というより、持ち手欠けを確認しました」


「同じでしょう」


「点灯は可能です。次回使用は可。ただし備考に残しました」


 男は、運用帳を見た。


「これを会合に出しますか」


 一瞬、迷った。


 出せば、管理できていないと言われる。

 出さなければ、何のための帳面か分からない。


「出します」


 僕は答えた。


「欠けも、出します」


 男は少しだけ僕を見た。


「その方がいいでしょうね」


 意外な返事だった。


「隠して後で出る方が、ずっと悪い」


 それだけ言って、男は帰った。



 夜、僕は運用帳の二回目を見直した。


 照明一基。

 持出。

 返却。

 要確認。

 点灯確認。

 次回使用可。

 備考。

 持ち手欠けあり。


 成功とは言いにくい。

 でも、失敗とも違う。


 見つかった。

 書いた。

 閉じた。


 それだけのことが、今までどれだけ口の中で消えていたのか。


 次の会合では、この紙を出す。

 うまくいったところだけでなく、欠けたところも。


 それを隠さず出せるかどうかが、たぶん仮運用の最初の試験だった。


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