第6話 農地転用
佐藤邸と、それに付随する「山ノ上」の広大な土地の一括買い取り。その決断を下した翌日から、僕の忙しい日々が始まった。
菜々さんは「いい経験になるわよ」と笑っていたが、もちろん僕の背後には頼れる相棒――AIエージェントがいる。
このAIエージェントだが、菜々さんから提供を受けることになった。村の常駐管理人扱いで月10時間までの、配達業者の受け取りや郵便物チェックなどといったちょっとした作業を担う。ついでに村に住民票がある労働者として支援策を受けやすい体制づくりの一環でもあった。月3万円の契約社員の役得である。
今までのAIとのチャットのやり取りと比べて、より書類作成や計画書作りが楽になったというか、各AIを切り替えてレビューさせたりなどがとても便利だ。菜々さんの会社でも自前のAIモデルを保持しているのでメインは使い放題の自社モデル、レビューはクラウドの優秀なモデルにさせるなどが同じフォルダ、同じ画面でできてしまう。とても便利。
まずは、AIと相談しながら作成した地目変更と所有権移転のフローと各プロセスがどの位時間がかかるかの説明文書、その手続きに必要な委任状3種類を佐藤さんに返信封筒も込みで簡易書留で送った。
簡単なフローは以下だ。
1.村役場の産業振興課に山ノ上の土地が畑ではなくなっている証明の現況証明書(委任状が必要。専門家に頼むなら行政書士)を作成してもらう
2.隣の隣にある町の法務局で山ノ上の土地の地目変更登記(委任状が必要。専門家に頼むなら土地家屋調査士)
3.地目変更登記が終わったら売買契約書を締結して、両方の土地の所有権移転登記(委任状が必要。専門家に頼むなら司法書士)
1に1週間、2に長ければ1カ月、3までいけば2週間くらいのタイムラインだ。先に佐藤さんの代理人としての委任状を返送してもらえば最短ルートで行ける。専門家に頼むことも当事者なので必要不可欠ではない。自分でできる。
山ノ上の土地は書類上「畑」になっており、実際には数十年放置された荒れ地だ。これを地目変更するには、農業委員会から「農地ではない(非農地化)」という認定を受ける必要がある。
本来は。
祖母が生前に、農地を売ったことがあったので僕は知っていた。
この村の農業従事者なんて絶滅しており、農業委員会も役場に形式的な事務局窓口しかないことを。
その日の夕方、菜々さんにオンラインミーティングで報告した。
「順調そうね。でも、あの荒れ地をどうするつもり? まさかただ持ってるだけじゃないでしょ?」
菜々さんはソーダを飲みながら、試すような視線を向けてくる。
僕は、今の土地の規模感では足りないし、インフラ面でも不足があるがAIで弾き出した三つの事業シナリオを提示した。
1. 太陽光発電所:メガソーラーの規模には2ヘクタールは必要だが、マイクログリッドの拠点として。
2. 工業団地:隣接地の集約を前提とした、将来的なデータセンターや企業誘致の布石。上手いこと村にインフラ構築を負ってもらう。
3. 農畜産:スマート農業の試験場としてや企業へのリース。
「どれも初期投資はかかるけど、村を支配する上での拠点にはなります」
菜々さんは満足げに頷いた。
「いいわね。支配域。面白いかも」
「前提条件でも大分色々変わるのでもう少し詰めてみます」
そんなやりとりの後、作業を終えてベッドに転がっていると、僕のスマートフォンにメッセージの通知が届いた。
送信者は久保あやか。高校の同級生で、実家が村の自営業を営んでいる、妙に顔の広い女子だ。
> あやか: 「黒部くん、久しぶり! なんかお金持ちと土地を買い漁ってるんだって?」
「何それ?」と指を動かす。
> あやか: 「なんか、爺たちが噂してたよ。よそ者が来たって。何してるの?」
うーん、片方は僕が買ったんだけども。「僕も空き家買ったから引っ越しするんだ」と、とりあえずぼかして送信した。
大して仲が良かったわけでもないのに暇人なことだ。
新作「支配域の管理論」始めました
あと「札幌クソゲー」もラストまでプロット書いたので頑張って完走したいと思っています。
リアル土地買いたいので評価協力お願いしまーす!




