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支配域の管理論〜ドミネーション・マネジメント  作者: nov


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第4話 境界への侵食

 渡された登記簿には、『佐藤彰子』という名前と、札幌市中央区の住所が記されていた。これが、菜々さんが交渉中の家の隣の別荘の持ち主だ。


「札幌の人なんですね」


「実はあの不動産屋の近藤から少し情報を引き出したの。元々住んでいたお父さんは十数年前に亡くなっていて、今は札幌に住む娘さんが相続しているらしいわ。でも、年に数回しかこの村には来ていないみたい」


「札幌なら、直接会いに行ける距離ですね」


「ええ。だからこそ、まずは『お手紙』攻勢よ。セイくん、後で文面案をメールで送るから一応チェックして。セイくん名義で速達で出しちゃうから。この村の在住者からという体で」


 何となく意図が読めてきた。この村の在住者から手紙を出すことで、よく分からない外の人に売るという形式ではなくなり、心理的なハードルを下げさせる作戦だ。


「じゃ、オーナー確認にしばらく時間がかかるだろうから。また連絡するね。はい、今回のお礼」


 菜々さんが封筒を差し出し、不動産屋の近藤さんと去っていった。


 車が見えなくなるまで見送りつつ、封筒を確認すると1万円が入っていた。

 仕事をした感は皆無だった。小遣いかお年玉でも貰った気分だ。



 夜には、菜々さんから丁寧ながらも威圧感のある文面がメールで届いた。『隣地を購入検討中だが越境箇所の是正について』という穏やかでない内容。記載するための僕の連絡先も教えてくれとのこと。


「これって僕に連絡が来るやつか……」


 自分にこんな手紙が届いたら嫌だなと思いつつ、確認していると新たなメールが届き「50万円で合意ゲット!」とのこと。これで菜々さんは仲介手数料含めて80万円でこの村の拠点を手に入れたことになる。ついでに僕もこれで3万円ゲット。


 マイニングとかAIエージェントってそんなに儲かるだろうかと思ったが、そんなに簡単には儲かるわけがない。でも、それでも儲かる。儲ける方法がある。だからこそ、菜々さんはこの村の拠点を手に入れたのだ。


 電気料金が安いというのも当たり前すぎて僕は全然気づいていなかった。あと、不動産の仲介手数料が30万円は高すぎると思った。知らないことがあるのはしょうがない。知ればいいだけだ。


 調べると、村には二つの電気料金の優遇制度があった。

 一つは、企業向けの「電源地域振興促進事業費補助金」と、もう一つは個人も対象の「電源立地地域対策交付金による電気料金の実質的な割引措置」だ。

 その他にも村独自の支援策が想像以上にある。ただ、企業向けは3人以上雇用の条件とか、人がいないこの村だと結構難しそうだ。菜々さんはどの程度狙っているのだろうか。


 不動産の仲介手数料は、2024年7月の法改正により売買価格が800万円以下の不動産(主に空き家)において、不動産会社が受け取れる仲介手数料の上限が「30万円+消費税(計33万円)」に引き上げられたそうだ。

 なので安い物件でも実質33万円という物件価格に対して割高な手数料を払うことになる。売り主と買い主、両方だ。

 低価格物件の流通を促進するためらしいが、余計に売りに出さなくなりそうだ。

 今回だと菜々さんが50万で買い取ったので、仲介手数料33万を引いて17万が売り主に入る計算だ。


「仲介手数料の比率おかしいだろ……」


 でも、値引きを迫ると不動産屋は動かないのだろう。正規料金なら物件価格を値引きしようが仲介手数料は変わらないのだから。むしろ物件価格を値引きして売ろうとしそう。


「何百万、何千万の物件ならまだしも、何十万の物件だと割高」


 不動産屋を通さない個人間売買ならそんな割高な仲介手数料はかからない。隣の佐藤邸を買うなら個人間売買がいいのだろうか。ネットで調べても個人間売買はリスクが高いと書いてある。リスクとか自己責任とか、そういう言葉が「分からない恐怖感」を煽ってくるが、AIに聞いてしまえばいいのだ。


 具体的にどんなリスクが想定されるのか。それを回避する契約書はどう作ればいいのか。知れば回避できる。


 口約束でもいいらしいというのはちょっと驚いた。ただ、言った言わないの水掛け論になる可能性もある。なので、一応条件を明記しておく。使えると言った暖房などの設備が使えなかったりすると瑕疵担保責任、2020年4月の法改正以降の取り引きだと契約不適合責任というものが発生するらしい。まぁ、空き家を売買するなら地中に変なものを埋めてないかくらいがリスクファクターで他は現状のまま引き渡しのようだ。


「なんか意外と注意点が分かれば大丈夫そうだな」


 ついでに空き家関連の訴訟などもAIにまとめてもらう。

 今までの契約面でのノウハウの蓄積が不動産業者の武器であるのだろう。設備が壊れている前提の空き家売買の場合はあまり揉め事が起きなそうなので、個人間売買でもいいのかもしれない。

 細々と倒壊や樹木越境などの管理不全の損害賠償などはそういうこともあるとメモっておけばいいレベルで、所有権や相続で揉めるパターンは放置でいい。


 ちょっと面白いかもしれない。


 築40年以上の空き家だと、建物代がほぼゼロというかマイナス評価になるらしい。なので、土地代が安いこの村だと車くらいの金額で買えてしまう。もちろん、修繕にそれなりの金額がかかるのだが、それでも村独自で月8万円までの家賃が実質3万円で住めるようになってしまう賃貸住宅家賃助成もあったりするのだ。


「リフォームして貸すのもあり……か」


 調べれば調べるほど、原発の固定資産税収入で潤う村の歪さが浮き彫りになってくる。


「『(くさび)』か。そりゃあ、賃貸はみんな家賃8万円にするわな」


 そう、賃貸情報サイトでたまに出る物件情報は大体家賃8万円だったのだ。札幌と同等か高く感じる家賃設定なのだ。収入制限の厳しい公営住宅は月1~2万円で住めるのにかかわらずだ。


「安かったら佐藤邸買わない? 下手したらタダだよ?」という菜々さんのメール文面から、僕は色々と考え始めることになるのだった。


 多分、住まない菜々さんに代わって郵便物とか面倒を見て欲しいんだろうと思う。

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