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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
2部【王都 前編】 3章 それぞれの王都

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魔導協会

 扉の中は幾何学的な模様が壁一面に描かれ、その複雑に刻まれた魔紋の文様が時折震えるように点滅したり、どこからかささやきが漏れるような声が聞こえたりしている広間になっている。

 その広間の先には更に大きな両開きの扉があり、その隣には『永久木(えいきゅうぼく)』と呼ばれる、遠き魔導王国から持ち込まれたと噂される魔力成分が豊富な霊木で作られた受付が備え付けられていた。

 受付内には翼の生えた、フィーム族に比べて細い顔つきをした異種族。灰色のローブを着たハーピィ族の女性が腰掛け、手元に置かれた大きな水晶球に手をかざしていた。

 エレノールが塔内に足を踏み入れると、ピリピリと張りつめたような威圧の魔力の気配が強くなった。


(ここに居ても感じる奴の魔力。いつもなら至上の喜びを感じるところだけれど、恐ろしいほどの寒気しかしないわ。全く……あたしもヤキが回ったものね)


 通常であれば、大きな魔力を感じれば感じるほど身体が火照るように熱くなっていくのだが……エレノールは少し前にザックマーニャとの間に起こったと出来事を鮮明に思い出し、快感とは程遠い恐怖という感情に支配されていた。


(あの時はまだ自分の実力を過信できていた。奴の膨大な魔力に押しつぶされるまでは! あたしが初めてザックマーニャに弄ばれた記憶。思い出したくもないのに、身体に刻み込まれているようだわ)


 過去の忌々しい記憶を打ち消すかのように頭を強く振り、平静を装い受付まで歩みを進める。エレノールは水晶球を見つめるハーピィ族の女性に声を掛けた。


「ピピィ。久しぶりね」


「アストリア様。戻ってらしたのですか。聖なる山での報告にいらしたのですか?」


 静かに、どこか事務的に頭を下げるピピィ。しかしその表情はとても硬い。

 エレノールのβ級の魔力量を感じ、委縮してしまっているようにも見えた。

 魔導協会の中では魔導師の序列は明確に、歴然と機能する。表現を変えれば、差別が分かり易くローブの色で表されているのだ。受付のピピィの着ている灰色のローブはデルタ級以下の一般的な魔導師を示している。真紅のローブであるβ級のエレノールには頭が上がらない、上がる訳はないのだ。

 明確な魔力の差は序列が上に行けば行くほど感じるようになる。その差は剣技の類を鍛えるのとは根本的に違うものだ。天性の素質とでも言うべき覆すことが困難なもの。それを否が応でも感じ取ってしまい、序列が認識されてしまう。


「ギルドマスター様より言付けがございます。アストリア様が戻りましたらすぐに報告に上がるようにと」


 その言葉がエレノールの脳内に雷鳴のように響きわたった。

 会わずに事が済むのであれば御の字と思っていたが、やはりそれは認識が甘かったようだ。


(奴もハーフエルフだからなのか。あたしの中の忌むべき血脈が互いに惹かれ合うとでも言うの……)


 奴のことを考える度に、自分の中のどうしようもない黒い感情が沸き上がり制止が効かなくなる時がある。いったいあたしの過去に何があったのか、なぜ奴はあたしと両親に起こったことを知っているのか。

 頭がズキズキと軋むような音を立て、それ以上思い出すことを拒絶してくる。

 いいわ。どこまでも付き合ってやる。所詮あたしは蝙蝠。楽しそうに見せていても、身の置き所の無い、あちこち陣営を飛び回り嗅ぎまわる、そういう密偵という位置づけから逃れられはしないのよ。


「面倒……いえ、これから報告に行かせていただくと伝えて頂戴。ザックマーニャ様はどこにいらっしゃるのかしら」


 ピピィは、エレノールがギルドマスターを名前呼びしたことに違和感を覚える。

 魔導協会内ではファミリーネーム呼びが基本となるからだ。

 家柄や家系、血統という意識は魔力の源を示すものという考え方が一般的。つまりは血縁と魔導の直接的な繋がりが濃いとされている所以だ。

 もちろん異例はあれど、それはまた別の話になる。


「魔導練達の間にいらっしゃると思います。いつもあの広間にて魔力を練り上げているのが常ですので」


 ピピィはそう言うと、先ほどから手をかざしている水晶球に向かい、短い魔紋を錬成する。これは『伝達の水晶球』と呼ばれるもので、術者の魔力量に応じて離れた位置にある他の水晶球と連絡を取ることができるという代物だ。

 ピピィが背中の羽根を細かく動かし、水晶球の先の別の術者とやり取りをしている。それをまるで遠い世界の出来事であるかのようにぼんやりと聞き流しながら、自分の想いの沼に耽るエレノールであった。


(そろそろトラジたちは聖アルベルト教会に着いたかしら。向こうは向こうでうまくやってくれると有難いんだけど! こっちは奴の出方しだいだけど、下手をすればあたしは無事では済まないかもしれない)


 自分を蝙蝠と称した、綱渡りのような状況。

 奇跡的な打開策は、ずっと考えていたが簡単には浮かぶものでは無かった。

 この先に待ち受ける暗雲立ち込める状況に、ただ悲観的な想いの強まるエレノールであった。


ようやく1巻より出て来ていたザックマーニャが登場しますね。書いている方もようやくこの場面まで来たかと嬉しいです。

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