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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
2部【王都 前編】 3章 それぞれの王都

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ハルナル

 失意と虚無感に包まれ、王国騎士団を後にするベルガ。その瞳にはかつての三番隊の仲間たちへの想いが映っていたのか、あるいは自分の不甲斐なさへの嘆きが色濃く出されていたのか。

 団長室から消え入る様に立ち去ったベルガに対して、苦悩を滲ませるジルベニスタ。

 大きなため息が室内の空気を重くする。


「今、早急に裁きを下すのは誰の為にもならない。特に父上、あなたの為にはね」


 ジルベニスタは再度、机の中から銀色のロケットを取り出すと、片手で持ったまま両目を瞑り、親指でなぞるように動かした。


(三か月の謹慎期間を設けたこと。それは貴方に対するわたしなりの猶予の時間です。いきなり今裁きを断行してしまえば、騎士団を辞めるだけでは済まされない……最悪の場合極刑が下される可能性すらある。結果的に父上を最悪の事態から守った形になるのです)


 義理の父に対する不均衡な想い。

 養母マラリーへの今も変わらぬ真摯な感情。

 ジルベニスタは二つの想いに常に挟まれ、答えに迷い苦悩を重ねていた。

 その時、短く独特なノックの音がして、そんな彼の思考を拡散させた。

 特徴的な音の立て方と回数から、団長室の扉の前に立っている人物が何者か、ジルベニスタはすぐに思い描くことができた。

 それは騎士団の暗部と言われる、諜報部門員の叩き方であったからだ。


「ハルナルか。入れ」


 そう呼ばれ、音もなく入ってきた明らかに異種族の男性。165センチほどの小柄な体型に鱗や尻尾が特徴的であった。

 それはエリュハルトではリザート族と呼ばれ、二足歩行するトカゲに似た種族と言えば分かり易い。六陸連合国に所属する種族のひとつだ。腰に下がった『刀』と呼ばれる古風な武器を愛用している。

 ハルナルと呼ばれたリザート族の男性は、入ってくると正式な騎士の礼を済ませる。


「団長殿。以前から調べておりましたアリーゼ・フォン・グリモワール子爵からの依頼の件でございます。少し興味深いことが分かりまして」


 グリューンをそのまま大きくしたような、そんな出で立ちのハルナル。見た目とは違い丁寧な口調と静かな声に、諜報部としての深みと重みを感じさせた。


「アリーゼ様の夫、ゼルガー前子爵様の毒殺された件についてだな」


 ハルナルはそっとジルベニスタに近づくと、耳元で囁くように情報を伝える。その口から発せられた『とある機関』の名称に、侮蔑に似た感情が露わになる。


「魔導協会だと。どういうことだ。あそこは王国内でも屈指の治外法権地区だぞ。ザックマーニャが関わっているならば、我々はこれ以上手が出せん」


 ザックマーニャ。魔導協会のギルドマスターにして、王国随一のΩ級魔導士。その力は計り知れず、王国内での影響力は王に次ぐとされている。


「ゼルガー様の私室を調べていましたところ、巧妙に隠されてはいましたがα級魔導師の魔力反応が検出されました。しかしそれ以上は王立魔導研究所の力を持ってしても解明は出来ず、調査は暗礁に乗りあげております」


 ジルベニスタは吐き捨てるようにハルナルを見返した。

 まるでそこに自分の仇でもいるかのように。


「ゼルガー様は王国魔導研究所の重鎮、陛下の御贔屓でもあった。その陛下より直々に拝命された任務なれど、魔導協会だと。ええい、忌々しい!」


 α級魔導師は国内に3名しかいないと言われている。だが、それはあくまで魔導協会が公表している表向きの数字に過ぎない。治外法権という壁の奥底に、他に実力者の名が隠されているのか――騎士団長であるジルベニスタでさえ把握しきれていないのが実情だった。


「魔紋の解析は行ったのか? まさかタリカではあるまいな!」


 タリカ・リーベルナック。銀髪の魔導師である彼女もα級なのだ。

 もちろんそれだけでは、彼女が関与していると断定することはできない。

 しかし、魔導協会と今回の事件のつながり。あまりにもキナ臭すぎた。


「残念ながら魔紋の型は巧妙に隠され、誰のものかという特定は難しいかと」


 魔導は唱える際に魔紋錬成を行うのは周知の事実だが、それは魔導師ごとにどうしても癖とでもいうような、独特の型を残すことが多い。

 それが隠され、特定が難しいということは、かなり高度な術者の手が入っていると言っても過言ではないということ。


「陛下にはわたくしから直接ご報告申し上げる。ハルナルは引き続きアリーゼ様の事件を探っていってくれ」


「ザイール・ファルナート。仰せのままに」


 ✛ ✛ ✛


 そして、話はエレノールの運命へと再度時が戻る。

 真紅のローブを風にはためかせながら、エレノールは王都アイゼルンの北東に位置する黒曜石の塔の前に立ち尽くしていた。通称『ヘルメティ・スパイア』と呼ばれ、複数の捻じれたような塔が天を貫き、常に不思議な魔力を漂わせる異質の建物に囲まれた場所だ。

 その荘厳たる両開きの扉の前。表面には魔導文字で様々な文言や、術法がいくつも彫られている。その異様さは王国内でも他に類を見ない。


「ホントこの扉は悪趣味にも程があるわね。奴にはとてもお似合いだと思うけど」


 周囲にはフィーム族の男がブツブツと魔紋を錬成していたり、自分の肩に乗った使い魔に何事か話しかけている灰色のローブを羽織った女性が見える。背の低い異種族風の男性が本を読み、杖を持ったエルフの女性が天に祈りを捧げている。

 そんな多種多様な魔導師たちが魔導協会への扉を行き来している様子は、エレノールにとっては当たり前の光景だ。


「ここで立っていても時が移るだけだわ。行くしかないわね」


 エレノールは鉛のように重く感じる自分の脚をバンッと叩き、自らを鼓舞した。

 大きく息を吐き、意を決して両開きの扉に手を掛け、塔の中へと足を踏み入れたのだった。



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