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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
2部【王都 前編】 3章 それぞれの王都

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メモリアルブレスレット

 話はベルガが騎士団本部に向かった時刻に戻る。

 ジルベニスタは王国騎士団本部の団長室の無機質な椅子に座り直した。彼の手の中にはロケット型をした銀製のメモリアルブレスレットが握られている。それを開いたり閉じたりしながらあるベルガの到着を待ちわびていたのだ。


「母上。今日も我の行く末を見守りください」


 ジルベニスタはブレスレット内に飾られている、写実的に描かれた狼獣人の年配の女性の肖像を愛おしそうに眺める。それは勿論、彼の養父であるベルガの亡き妻。マラリー・シュトルムヴォルフであった。

 その場に居ないベルガの顔を想い浮かべ、憎々しげな表情を天井に向ける。養母の最期に自分が何もできなかった後悔とその場に間に合わなかったベルガ。

 おそらくは様々な要因が悪い方向に重なり、引き起こされた悲劇。それは彼の心に暗い影を少し、いや……かなり養母に傾倒するような想いを抱かせるには充分であった。


「愛しのジル。あなたがあの人と共に生きてくれることがあたしにとっての幸せ。これからもベルガを助けてやって欲しい。そして愛していたと伝えておくれ」


 マラリーの臨終の言葉がずっと耳の中から離れない。離したくないのだ。そんな複雑な心境が今のベルガとジルベニスタを形作っていると言っても過言ではない。

 団長室を細かくノックする音に、自分の世界から引き戻される。


「三番隊隊長がお見えになりました。どう致しますか」


 自分の手の中にあったロケットを大切に机の中に入れると、全身に決意を漲らせながら大きな声で告げる。


「ベルガ殿の到着、待ちわびていたと伝えてくれ。そしてこちらにすぐに来るようにと。王国騎士団より正式な通意を発表したいと」


 騎士見習いに呼ばれ、団長室に足を踏み入れるベルガ。

 一歩前に進み出ると正式な騎士の礼を示す。トラジたちの前で示すような楽しそう顔とは打って変わり、神妙な面持ちでジルベニスタの言葉を待っていた。


「ご足労を掛けた、ベルガ隊長。そういえば昨日、東門の入都試験にてトラジに会いました。うちのタリカがご迷惑をお掛けしたようで……あのエルフ娘の奔放ぶりにも困ったものです」


 ベルガが片方の白い眉を上げる。トラジからは東門での一悶着について聞いていたので、この場では驚くことは無かった。


「はい。トラジより大まかなことは伺っています。某は、そのまま周辺の宿で一晩長旅の疲れを癒しておりました。すぐにこちらに向かわず、申し訳ございません」


 養父と義理の息子の微妙な空気が流れる会話。ジルベニスタは苦虫を噛みつぶしたような表情となる。もう少し冷静に、養父と話したいと心の奥底では願ってはいるのだ。

 そんな息子の気持ちを分かっているのか、そうではないのか。

 ベルガはまくし立てるように次の言葉を口にした。


「聖なる山での魔王レイカに関する件は既に報告した通り。神の包丁と星流人であるトラジの協力が得られ、騎士団、聖アルベルト教会、魔導協会の連携がなされ、奴を倒すことはできなかったが遠き次元に飛ばす事には成功した。もちろん生死は不明であるため、いつ何時このエリュハルトに介入してくるかは分からない状況は変わらない」


 淡々とした報告は、既にラベルク村にてジルベニスタの耳に入っていたものと全く同様のものであった。一呼吸置くと、ベルガは核心部分へと話を進める。


「しかし三番隊の全滅という事態を引き起こしたことは免れ得ないこと。それはタリカ副隊長の言い分が正しいと考えております。ラベルク村でも申し上げましたが、某は三番隊隊長の座を返上し、王国騎士団を除隊したいと、そのつもりで参りました」


 ベルガは伝えることは伝えたと言わんばかりだ。

 ジルベニスタは椅子から立ち上がり窓の方に向き直ると、そんな父親に背を向けたまましばらくの間押し黙る。長い沈黙――実際にはほんのわずかな時間ではあったのだろうが、ベルガにとっては針のむしろに座るに等しい長い時間のように感じられた。


「ベルガ隊長。突然の魔王レイカの出現という異例の事態では、如何に三番隊と言えども敗北は免れ得なかったと推察できます。全滅は誠に残念なことですが、そのことに関して、貴方に全責任を押し付けるということはありません」


 訝し気にベルガが視線を息子に返す。三番隊の隊長の座を辞するだけでは済まない、かなり手厳しい処罰が下されると覚悟していただけに、肩透かしをくらったような格好となったからだ。


「しかし、ベルガ隊長が逃亡してしまったという事実が独り歩きしてしまっていることが一番の問題なのです。事は騎士団のメンツに関わる、いや王国の名誉に及ぶ事態となっていると考えて頂いて差し支えありません」


 全滅よりも、逃亡した事実の方が重いということなのか。

 では、ワシと共に戦った三番隊の皆の想いは誰が受け止めるというのか。

 騎士団のメンツ、王国の名誉などと天秤に掛かるものか……

 ベルガの心は激しく揺れる。


「今回の報告と踏まえ、貴方の進退について王国騎士団査問会に掛けることになります。査問会自体は処分決定まで三か月ほどの時間を要するもの。その間、父上には久方ぶりの休暇を差し上げる。多忙を極めた冒険者稼業では得られなかったものでしょうから」


 ベルガは自分の耳に飛び込んできた息子の言葉に一瞬理解が追い付かなかった。

 三か月……?

 まさか、そんな長い間自分に無作為な時間を過ごせと言うのか。


「ジル! ふざけるな。ワシは戦場で散った仲間たちに顔向けができんのだ! その罪を償う機会さえ、お前はワシから奪うと言うのか」


 ベルガはありったけの力を込めると、ジルベニスタの目の前に机に向かって力任せに両手を振り下ろす。叩きつけるような音が王国騎士団内に空しく響き渡った。



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