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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
2部【王都 前編】 3章 それぞれの王都

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89/99

聖アルベルト教会

王都前編 3章のスタートです。

3章はパーティが別々に王都を巡る構成になっています。

それぞれの思惑の絡んだ、王都での群像劇にご期待ください。

 俺とフィリナは『古龍の息吹(アディア)』でベルガやエレノールと分かれ、王都アイゼルン北東部分に位置する聖アルベルト教会区画と名付けられた広大な敷地に足を踏みいれていた。


「ここはセントエリアと呼ばれているわ。シャウザニーク大神殿や神学校、孤児院に拳聖流本部まであるの。わたしとセレナが住んでいる家もこの地区の中にあるわ」


 いつかトラジも皆と招待するわね、と笑顔で付け足すフィリナだが、どこか緊張感を漂わせているのが丸わかりだ。

 師匠の密命、神の包丁の一つである焔刃がどうなるのか、そして魔導協会と聖アルベルト教会との確執まで絡み合う。

 グリューンはセントエリアの中心にあるというシャウザニーク神殿の大きな二つの白亜の尖塔を下から眺めて妙に高い声で歓声を上げていた。そのまま見上げ過ぎてひっくり返ったのはご愛敬。それを見てフィリナが笑ったのを確認して、俺は少し安心した。


「二つの尖塔はシャウザニーク様の双頭の蛇を模したもの。これは神話の時代に我々に対して大いなる二つの選択を迫ったというエピソードが元になったと言われているわ。もちろんその選択がどういったものだったのか、今となっては歴史の中に埋もれてしまっていて伝わっていないのだけれど」


 そうなんだ。二つの選択の神だから双頭だと。面白いな。

 自分の腰の焔刃を軽く叩くが、食いしん坊の女神様からの返答は特にはない。

 そうそう何でも応えてくれるわけは無いか。

 神様だって暇じゃないしな。たぶん。

 美味しいものでも目の前に出せば勝手に反応してくれるだろうし。


「隣の建物は太陽神ダルバ神殿。屋根に巨大な黄金の光輪があるの。『ダルバの光輪』って言われていて、一定の時間になったら周囲に時間を知らせる鐘の音が響き渡るように魔導を施されているわ」


 1分1秒という時間的な概念が強かった地球とはえらい違いだ。

 と言っても、自分もエリュハルトでの曖昧な時間的配分での生活にだいぶ慣れていたから、今ではそれほどの不便も感じなくなってしまった。


「王や貴族、または国の重要な役職にいるものたちは時間を細かく気にするけど、それでもトラジがいた世界のように全員がしっかりとした時間的概念の中で生活しているなんてことは無いわ。逆にそちらの方が堅苦しそうで私は嫌かもしれない」


 というか時間に追われ過ぎだったよな、とあの頃の自分を思い出す。

 もちろんそれはそれでとても便利だったし、規則正しい生活だったわけだが。


「このまま拳聖流本部に行ってもいいんだけど、その前に今日は孤児院の子供達との交流イベントがあるのよ。そちらに顔を出してからでもいいかしら」


 少し、いやかなりと言ったところか。

 フィリナの中で揺れる想いがあるのだろう。おそらくそれは聖なる山での自分たち4人の絆が築かれていなければ生まれなかった、気持ちのブレという言うものだ。


「お、相棒! なんか美味しいものでも食えんのか?」


「全く、お前はすぐに食いもんのことばかりで……フィリナ。なんか手伝うこととかあるのか。せっかく来たんだ。もっとこの場所のことを知りたいしな」


 その言葉にフィリナは押し黙るように目を伏せた。それは先ほど見せていた師匠に会いに行くという緊張とはまた別のものだ。


「そうね。実は……折り入ってトラジに頼みたいことが別にあるの」


 俺とグリューンは目を合わせて、そのフィリナの緊張の意図が分からずにお互いに首を傾げた。

 大きな二つの神殿の前を通り過ぎ、こじんまりとした寄宿舎のような建物が目の前に現れる。その建物の前は小さな広場になっていて、そこに沢山の人たちが集まっていた。


「あれが孤児院『光の子』よ。もう始まっているみたい」

 そう言うフィリナに背中を押されるようにして、孤児院の敷地内に足を踏み入れたんだ。


「これは魚介類じゃないか! なんで孤児院の厨房にそんなものがあるんだ」


 自分の地球での感覚で言えば、複数のテントが立ち並んでいるちょっとした小中学校のバザー会場のような広場を抜けると、孤児院内の厨房に通される。

 フィリナは教会員であり神官でもあるので全く問題ないのかもしれないが、自分とグリューンは明らかにここでは異分子だ。通りすがりの人たちの目線が少し……嫌かなり不信感たっぷりで居心地が悪い。

 そしてまさにそこにあったものが、俺にしてみれば珍しくはないもの。

 でもエリュハルトの生魚が毒という常識の中では、大変な代物であろうもの。

 焔刃がほのかな魔力を放ち始めたのを感じた。


「この大きいのは多分海老だろ。こっちの足がたくさんある白い魚はもしかしたイカなのか? いや、たぶん名前はそうじゃないだろうけど……」


 焔刃の異能で、見た事のない食材でもなんとなく察しがついてしまう。

 豊富な海の資源である魚介類。もちろん地球のものとは若干違っていて、おそらく外目から見ただけではそれとは判断がつかない。海水の貼られた水槽のようなものに入れられて無造作にその場に置かれていたんだ。

 俺の大声が厨房内に響き渡り、他の作業をしている人たちが眉をひそめる。

 グリューンが後ろから両手で口を押さえてきたので、慌てて声を潜めた。


「王都には海産物を扱う組合があるの。そこが無償で提供してくれているものよ。もちろん一般的には出回ることは無いわ。無償だからこそ孤児院のような場所に提供されているのよ」


 待ってくれ。熱を通せば毒が消えて食べられるからって、自分たちが口にしないものを親のいない子供たちに回しているってことか。


「おいフィリナ。それって……いや、でもよ」


 この湧き上がる気持ちをどう表現すればいいのか。グリューンもさすがに神妙な顔つきで、その海産物を見つめていたんだ。



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