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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
2部【王都 前編】 2章 冒険者ギルド『古龍の息吹』

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エレノールの不安

 俺は近くにある椅子にドカッと腰かけると、朝早くから始まっている様子の酒場の厨房の中に向かって大声を張り上げた。


「よし、がっつり朝から食ってやるぞ! 今日はどう動くんだ? 」


 厨房から大麦の粥なんかどうだ!と声がする。こんなに早くからもう厨房にいるのか。仕込みとかいつやっているんだ。かなり働きもんじゃないか。


「おお。麦粥なんて久しぶりだな。胃にも優しいし、エレノールの二日酔いにはいいんじゃないか?」


 ベルガがニヤリとしながらエレノールに目線を流す。


「あ……うん。ベルガありがとう。 大丈夫よ二日酔いくらい。実はちょっとあたしとしたことが怖気づいちゃってんのよね」


 俺の隣に座ると、両の掌を開くようにして自分たちに見せるエレノール。

 じっとりと汗が滲んでいるのが誰の目にも明らかだった。

 フィリナが心配そうにのぞき込む。

 グリューンが机の上で上でを組み、ベルガはからかうように声を掛けてしまった事を公開したような顔をした。


「ザックマーニャには……正直会いたくないのよ。だから昨日もなんだかんだで行かない理由を自分で探していたのよ。フィリナが帰ってトラジのギルド加入の話が自分に回ってきたから、ちょっとホッとしていたところだったの」


 バックの中からミンミが出てくると、擦り寄るようにして小さく鳴き、それをエレノールは優しく何度も撫でる。

 その手が細かく震えているのを俺は見逃さなかった。


「あいよ! 戦士の麦飯、オートミール風だ!」


 4人が座る席に運ばれてくる、温かい湯気が立ち昇る麦粥。

 しかしその温かさとは別に、エレノールの心は不安の風が吹き抜けているようだ。


「聖アルベルト教会にトラジと神機焔刃を連れて行くから……ね」


 フィリナが絞り出すような声を出す。

 ベルガは険しい顔で頷く。


「あたしの任務は焔刃を教会の意のままに扱わせないこと。神の包丁を見守ること、そして情報を魔導協会に流すこと」


 エレノールは顔を小さく横に振ると、確認するかのように呟いた。

 それは聖なる山への道中で、彼女から話されたことと一致する。

 魔導協会ザックマーニャから、『両親の情報の対価』として自分が動かされているという不本意な状況に苛立っていると。


「この包丁は……俺だけのものじゃない。師匠の想いが詰まっているものだし、この場に居る四人が生死を掛けて魔王に挑んだ証でもあるんだ」


 自分の言っていることが的を得ているのか分からないが少なくとも。

 俺は誰かの為に動いているわけでは無い。

 この異世界で寿司を握るということがどういうことなのか、なぜ師匠が俺に神の包丁を渡し、何をこの世界でさせたいと願っているのか。


「俺はたぶん……欲張りなのかもしれない。生魚が毒まみれだと信じられてしまっている世界だとしても、自分が握った寿司で皆の笑顔が見たい。それだけなんだ」


 これまで捌いた魚たちは毒まみれなんてことはなく、俺たちやラベルク村の人たち、王国騎士団の兵士たちだって、何故か問題なく食べることができている。

 でもフィリナが言うには、生魚を食べてその毒にやられて死んでしまった人も大勢いるらしい。

 この世界における生魚は結局毒なのか、毒ではないのか。

 神の包丁の力なのか、それとも全く違う法則があるのか。


「現段階ではあまりにもわからないことが多すぎる。それを紐解くためにできるだけのことをしようと思っているだけだ。だから、まずはフィリナと共に聖アルベルト教会に行って情報を得たい。更にザックマーニャが何か知っているのであれば、それすら何らかの形で知りたい」


 自分の目の前にある麦飯を一気に口の中に押し込みながら力説する。

 大きな木製の少し深めの皿に盛られたクリーミーな色合いのお粥だ。ふんわりとした湯気が立ち上っている。とろみのある粥の中には粗びき大麦なんだろう、ぷちぷちした食感が楽しい。麦の素朴な香ばしさや乳の優しい甘い香り、干し肉の甘みや木の実の香ばしい匂いに更に食欲が刺激される。


「そうだな。重苦しい顔していても仕方あるまい! 食べて力を付けねば困難も乗り越えられんわ」


 ベルガも真剣な表情で麦飯を胃に流し込む。尻尾をガンガン振っているから椅子や机に当たってうるさくてしょうがない。


「まったく。トラジは知らないのよ……奴の面倒くささを! 吐き気がするような存在感を! ザックマーニャの魔力量は一言で言うなら『理不尽』そのものよ」


 まさに麦飯の向こうに魔導協会マスターの顔が映っているかのように。

 鬼の形相になり、一気に皿にかぶりつき、強引に口の中に押し込むエレノール。

 ほっぺが大きく膨らんで、呑みこむ際に大きくむせ込んだ。


「エレノール。本当に教会にトラジを連れて行っていいの? なんだったらそっちが先でも……」


「何言ってんの! ここまで来て気を遣わないで結構よ。そっちはそっちでグラーチス相手にいいようにあしらわれるんじゃないわよ!」


「トラジや焔刃が魔王側ではなく、こちら側に味方するものだと説明すれば御師様は分かってくださるわ。」


 フィリナも眉間にしわを寄せ、形の良い二重の瞳を震わせて麦飯を口に入れる。

 すると、美味しそうに麦飯を抱えていたグリューンがぼそっと呟いた。


「オイラは何も心配してねぇぜ。相棒の思うままに動くことが、結局はこの世界の次なる可能性を突き詰めていくことになるんだぜ」


「なんだよそれグリューン。なんかカッコいいこと言っている気になっているんだろうけど、全く意味がわからないからな!」


 しかし、これで4人それぞれの腹は決まった。

 ベルガは王国騎士団へ。エレノールは魔導協会へ。

 そして俺とフィリナはこのまま聖アルベルト教会に。

 王都での本来の目的を果たすために、それぞれが動き出さなければならない。


これで2部前半 2章が終了です。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

ちょうど2部前半も折り返し地点です。この先もよろしくお願いしますm(__)m


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