幕間
そんな訳で。やっと冒険者登録も済み、気づけばもう夜になっていた。
酒場内に戻ると、大いびきをかいてテービルに突っ伏して眠っているベルガ。
「おいおい! ベルガ、風邪引くぞ。全くこの毛玉のおっさんはしょうがないなぁ」
スリとか狙われないのか。先ほどのルーシィさんの話を思い出し、酒場内をぐるりと見回してしまう。夜になってもギルド内の喧噪は全く変わっていなかった。それどころか更にごった返していて、酔客の大声が辺りに響き渡っていた。
そのままベルガはエレノールに叩き起こされ、近くの宿に部屋を取ってあるとの事でギルドを後にした。エレノールも一旦自分の家に帰るとのことだ。
「ああ、まさかギルドの近くに風呂があるなんてな。最高じゃないか」
エレノールやベルガと一先ず別れた後、ルーシィさんに紹介して貰った『新緑の若葉亭』という少し古びた宿に部屋を取った。そこそこ遅い時間だったが、部屋はまだ空きがあったようでカウンターに座った不愛想なフィーム族のおっさんが帳簿に書き込んでくれた。とりあえず1泊50ガルというので格安だと飛び込んだわけだ。ベルガの泊まっていた宿は3倍くらいの値段がしたので諦めたのは言うまでもない。
更に近くあるという冒険者御用達の風呂屋。『竜汗の湯』と名付けられた、つまりは簡素な銭湯みたいな場所だな。そこに大急ぎで駆け込んだわけだ。
「相棒。やっぱり風呂はいいなぁ。オイラこのまま寝ちゃいそうだ」
グリューンはどうやらこの間のラベルク村で温泉に入ってから完璧にハマってしまったようで、至福の表情で湯の中に使って寛いでいた。
「グリューン、明日からは忙しくなるぞ。まずはお金を稼がないといけないと思うんだよ。ギルドに入ってすぐ横にある掲示板に沢山の紙が貼ってあったじゃないか。あれって依頼書なんじゃないかな。Fランクでも受けられるようなものがあるといいんだけど……っておい、グリューン!?」
横を見ると、ぷかーっとお湯に浮いているグリューンを発見して、慌てて尻尾を掴んで揺り起こす。それでも全く起きず、気持ちよさそうに居眠りをしているので仕方なく頭の上に乗せる。
王都に来てから一気に色々なことが起きた。考えなきゃいけないことも多いが、とりあえず今は休息が一番かな。
ざっと身体や頭を洗い、大あくびをしながら『流汗の湯』を後にする。宿に戻るとかなり疲れていたからだろう、一瞬で深い眠りについたんだ。
✛ ✛ ✛
次の日の朝。
目覚めた俺は早々に身支度を整えると、『古龍の息吹』の受付に顔を出していた。グリューンはまだ寝ぼけ眼で頭の上でぐったりとしている。
早い時間だったが受付に座っていたのは昨日と同じドワーフ族のルーシィさんだった。
少し眠そうにボーっとしていたようだが、俺の姿を確認するとにこやかに挨拶をしてくれる。黒縁メガネの可憐な笑顔に朝から癒されてしまう。
「お早いですねトラジさん。さっそく依頼を探しに来たんでっすか?」
そういえば今までこの世界で時計というものを見たことがない。ラベルク村ではあまり必要が無かったし、無い事を気にしているような暇も無かった。時間という概念が自分の中で異世界に来てから曖昧になってきているように感じる。
「掲示板に貼られている依頼の中から、自分よりも1つ上のランクまででしたら受注できます。探してみてください」
Fランクは最低という位置づけの為か、地味で簡単そうな依頼が多い印象だ。もちろんその分低い報酬となっているのだろう。薬草採取や失せ物探し、荷物運びとか雑務系が多い。護衛や洞窟探索はもう少し上のランクになってからなんだな。
「お、このEランク依頼に珍しい魚の納品ってのがあるな。800ガルって結構な高額じゃないのか? これいいなぁ……依頼主はグリモワール子爵って人か。子爵っていうと結構な上の位の貴族って感覚だけど」
そうやって依頼を吟味している自分に近づく薄手の黒いロングコートを着た女性。胸元には聖アルベルト教会所属の神官の紋章が縫い付けてある。
俺のよく知っている女性。長い黒髪と印象的な茶色の瞳。
もちろんフィリナだ。
「おはようトラジ。昨日はごめんなさい。まさか山羊蹄車を置いてくるなんて思わなかったから」
「気にするな。色々バタバタしていたからな。今日は神官服なんだな」
同じ服を双子のセリナが昨日着ていたことを思い出して、そう声を掛ける。
フィリナは、王都では冒険者というより神官という立ち位置がしっくりくるんだろう。
「朝の教会のお務めが終わったのでこの服なの。昨日バタバタと出て行ってしまったから、どうなったのかと心配になってしまって。エレノールとベルガは?」
「そのうち来るんじゃないか。ベルガも一旦ギルドに集まろうと言っていたしな。それよりこの依頼どう思う? 魚の納品なんだけど800ガルって結構破格だと思わないか」
するとギルドの入り口の扉をくぐり、ふさふさとしたお馴染みの白い毛並みを靡かせて大柄な獣人が入ってくる。
「トラジ。それをすぐに受注しろ。お前の持っている焔刃に恰好な依頼ではないか」
その後ろから、痛そうに頭を振りながら金髪のエルフもギルド内に姿を現す。
どうやら二日酔いみたいだな。あんなに飲むからだよ。全く。
「ちょっとフィリナ。あんた『毒性中和』の魔導使えたわよね。ちょっと掛けてくんない? 流石に頭がガンガンしてやってられないのよ」
「エレノール。神の力を二日酔いを直すのに使うのはどうかって思うんだけど」
俺もフィリナの意見に同意だ。いったいフィリナの力を何だと思っているんだ。
とにかく、これで全員がまた揃ったわけだ。
こうして王都での二日目が幕を開けます。
ちなみに毒中和の魔導が二日酔いに効くって設定はどうなのかな……って思いつつ、そのまま使ってしまっています。




