冒険者ギルド『古龍の息吹』
いよいよ王国の冒険者ギルドに入ります。しばらくはここを拠点に話が展開することになります。
巨大な王都アイゼルンの東門をくぐった俺たちをまず出迎えたのは、大勢の人、人、人たち。俺やフィリナと同じフィーム族やら様々な獣人たち、街道ですれ違ったような異種族たちも見える。その多種多彩な種族たちが、大通りに所狭しと並ぶ露店や美味しそうな食べ物の匂いを発する屋台、数々のお店の軒先に並ぶ様子を想像してほしい!
「おおお! やっぱりすげぇ……これが王都の街並みなのか!」
俺は大きく目を見開き、その異世界の雰囲気を全身で味わうかのように大声を上げた。
「トラジさんは王都アイゼルンに来るのは初めてなんだね。最初ぶっきら棒な話し方をする人だったからどうしようかなと思ったんだけど、時々不思議に品の良さを感じるというか、教養を感じるというか、とても面白い人よね」
屈託のない笑顔で、会ってから間もない俺にも隔てなく話しかけてくるセリナ。
どこか真面目な雰囲気のフィリナと違って、距離を感じさせないストレートな話し方はとても好感が持てる。
「セリナ。面白い人って言い方は失礼かな。確かにトラジはちょっと考え方がズレているのは合っているんだけど」
「なんだよそれ、そっちの言い方の方が傷つくなぁ……」
茶々を入れてくるフィリナと、そのやり取りにアハハと大きな口を開けるようにして笑うセリナ。グリューンはそんなセリナが気に入ったようで、さっそく彼女の頭の上を陣取っていた。物珍しそうに店先に並ぶ食べ物を眺めながら、キョロキョロと落ち着きがない。
「グリューン。あんまり身を乗り出してばかりだとバランスを崩して落ちても知らないからな」
「相棒。この匂いにやられているオイラだぜ。後生だ、なんか屋台で一口だけでも食わせてくれぃ」
確かにグリューンの涎が出そうな口元を見ていると、気持ちが分からないでもない。
セリナは頭の上からグリューンを胸の前に抱きかかえると、大通りの先を指差して嬉しそうに説明を始めた。
「この大通りをまっすぐに進むと、冒険者地区フロンティアクオーターはもうすぐだよ。冒険者ギルドは『古龍の息吹』って呼ばれていて、1階部分は酒場も兼ねているから美味しい物が食べられるよ。あそこのマスターの作る食事は絶品なんだ」
「そうなのか! トラジ、オイラもう我慢なんかできねぇぜ」
瞳を潤ませて、自分の食欲と戦っているグリューンはひと先ず置いておくとする。
俺はセリナの指差した大通りの先、長い歴史のを感じさせる石造りの大きな堂々とした建物が視界に飛び込んでくる。
「トラジにも見えるわね。あの2階建ての大きな建物がそうよ。通称ADA、王都の冒険者たちからはアディアと呼ばれているの」
なるほど。王都だから冒険者の数も地方とは違って沢山いる訳で。だから冒険者ギルド自体の規模もかなり大きいという訳なんだな。
そんなギルドの正面には精巧なドラゴンのレリーフが飾られている。2階部分を見上げると巨大なドラゴンの頭部像が、ナドゥ川の方角をあたかも睨んでいるかのように設置されている。
俺は聖なる山で出会ったホワイトドラゴンのエーデルヴァイスを思い出し、しばらくの間ギルドの正面に立ち、その大きさに圧倒される。
そういう仕掛けなのか、そのドラゴンの頭部像から白い蒸気が吹き上がり、びっくりして声を上げてしまう。クスクスと笑う姉妹たち。
「ようこそ! ファルナート王国最大の冒険者ギルド『古龍の息吹』へ!」
フィリナとセリナがギルド入り口の重厚な両開きの木製の扉の左右に分かれて立ち、嬉しそうに唱和する。
双子ならではの同じトーンの声色が辺りにこだまして、大通りの人々が何事かと振り返ってくる。セリナが悪戯っぽく笑い、フィリナは自分を芯の強い眼差しで見つめてくる。
俺はそんな姉妹の間を潜り、期待を込めてギルドの木製の扉に手を掛け、押し開けた!
ギルドの中に入った俺がまず初めに感じたのは、酒や料理の香しい薫り、土埃が舞う様子、そして僅かに漂う血と汗の混じった臭い。様々な種族たちの織り成す独特の雰囲気にギュッとガッツポーズをする。
(コレだよコレ! 夢にまで見たファンタジー世界の冒険者ギルドって感じの、むせ返る活気と喧噪だよ!)
上を見上がれば天井がとても高くて、太い梁が何本も渡されている。色褪せた旗や、討伐されたのだろう巨大なモンスターの頭蓋骨らしきもの。
それに加えて奇妙な形の武器や不揃いな防具などが、ギルド内の至る所に無造作に吊り下げられていたり、置かれたりしているんだ。
床は石畳でできていて、ところどころが擦り減っているのが逆にいい味を出している。
自分たちが入ってきた入り口のすぐ近くには、長くて頑丈そうな木製のカウンターがあって、その中で受付の人たちなんだろうか……忙しそうに対応している。
ちょっと背の低い可愛らしい外見の黒縁の眼鏡を掛けた女性と目が合って、にこやかに笑いかけてくる。俺は頭を抱えるようにしてあたふたとお辞儀をしてしまう。
「おう、トラジこっちだ! 遅かったじゃないか。心配していたぞ」
「嫌に遅かったじゃない。もう先に吞み始めているけどいいよねぇ」
ギルドの奥からよく知っている声が聞こえてそちらを振りむく。もちろんそれは白い体毛に覆われた獣人隊長ベルガと、真っ赤な魔導師のローブに身を包んだエレノールなのは言うまで無かった。
俺たち3人と一匹は、人ごみをかき分けるようにして二人の元に向かったんだ。
冒険者ギルド『古龍の息吹』は、Alt Dragon AtemでADAです。
ADAでアディアと呼ばれています。こちらはドイツ語風に仕立てている設定となっています。




