王都アイゼルン
小高い丘の上に立ち、眼下に見下ろす高い城壁に囲まれた街並みを眺める。
ナドゥ川に沿うようにして造られている街道はかなり広々と、しっかりとしたものに変化していた。様々な山羊蹄車とすれ違ったり、旅人たちや商人たちの部隊が道行く自分たちに丁寧に頭を下げてきたりとという場面が更に多くなってきている。
今の時間は昼を少し過ぎたくらい。宿場町で仕入れた食料も殆どを食べ尽くし、腹の中から王都での期待感に胸を躍らせていた。
「うっひょおお! これはなかなかに壮大な眺めだな。これが……王都アイゼルン! なんて、でっかいんだ!!」
いよいよラベルク村を旅立ってから2週間と少し。長い旅路がようやく終わりを告げて、目的地である王都アイゼルンが目の前に姿を現していた。
「ようやくここまで戻ってこれたわ。やっぱりこの丘から眺める王都は最高ね」
フィリナが荷台から降り、両手を上に伸ばしながら嬉しそうに話している。俺の隣に来ると王都の周囲にある石造りと思われる城壁を指差しながら、いつものように説明を始めてくれていた。
「ファルナート王国の現在の統治者は『鷹の翼の王』と異名を持つヴォルザーク様よ。王都アイゼルンの元々の由来はドラゴン語で『鉄』を意味する言葉だと言われているわ。城壁自体が王都を囲む外壁と、内側を囲む内壁部分に分かれているのが見える? 外壁部分は王都の商業区などの一般住民区画で、内壁部分は王族関係者や聖アルベルト教会の区画となっているのよ」
王都全体はナドゥ川の中州に作られた平らな城のようなイメージだ。中州を渡すようにいくつかの大きな橋が架かっているのがここからでも良く見える。
更にフィリナが説明してくれた内と外で二重構造になっている城壁。
その内側の城塞の中、つまりは王都の北西部分だな。そこが少し丘のように高くなっていて、巨大な塔を携えた王城が映えるようにそびえ立っている。
俺にはさっぱり分からない、黒光りする光沢を持つ金属が使われている尖塔が特徴的。その頂上に王冠を被った鷹が飛んでいるような紋章があしらわれている。
『鷹の翼の王』という異名だからなのか、元々あったものでそう呼ばれたのかはわからないが、かなり壮大な景色だ。
「あの白い大きな円形状の広場はなんだ? あれってもしかして……」
「あれは闘技場よ。何年かに一度、国内外の猛者たちが集まって闘技場内で戦いを繰り広げる『御前試合』が開催されるの」
御前試合か……何百人、いや何千人くらい入るんだろう。
それぐらい大きな円形の闘技場に俺の目は釘付けになった。
王城のすぐ北側部分が切り立った崖になっていて、その崖から突き出たテラス状の風切り台とでも言えばいいのか――何かの発着場になっているような場所も見えた。
エレノールも膝を抱えるようにして考え込みながら王都を見下ろす。よく見るとその視線の先は王都では無く、王都の北東部分――少し離れた霧深い丘の上に立つ、ねじれたような複数の紫色の塔の集合体に注がれていた。
「魔導協会の塔ヘルメティ・スパイア。いつ見ても悪趣味ね……もう少し自然や精霊に敬うような造りにできなかったのかしらね!」
神機焔刃を巡り、聖アルベルト教会と魔導協会は水面下で勢力争いを繰り広げている……らしい。
魔王レイカという敵を倒す目的の元に集結して力を合わせればいいじゃないかと思うのだけど、政治の世界ってそうそう上手くは動かないらしい。
そんな面倒な板挟みの中央にいる俺と焔刃はどうすればいいんだろうか。
肩の上でヘラヘラとグリューンが笑っているので、小突いておく。
するとさっき気になっていた風切り台のように見えた発着場から、大きな翼を生やした四つ足の鷹のような持つモンスターが飛び出してきてびっくりする。
「そうか、トラジはグリフォン空挺部隊を見るのは初めてだな! お前が元居た異世界では居ないのであろうからな」
ベルガが笑いながらそれを指差す。グリフォンって確か、ファンタジーアニメに出てくる上半身が鷹で下半身がライオンの魔王生物のことだよな。近くまで行ったらじっくり見てみたい。
「ワシの所属している王国騎士団本部は内壁の中、王城の北門近くにある。ここからだとかなり見えにくいが、大きな正門があるのが分かるか? あれは『獅子奮迅の門』と呼ばれるものだ」
ベルガの視線の先には重厚な石造りの巨大な門がある。ここからでは遠くて大きさがあまりよく分からない。
つまりは王都の北西部分に王城があって、その北側が王国騎士団に守られていると。魔導協会自体はちょっと王都の敷地内から離れているんだな。
「あの王城の東側にある広大な土地はなんだろう。神殿のような建物が幾つか見えるな」
「聖アルベルト教会の敷地よ。セントエリアと呼ばれているわ。シャウザ神殿やダルバ神殿、ボーディ神殿の3つの大きな神殿があるの。拳聖流本部や治療院、孤児院もその区画内にあるの」
フィリナの明るい表情がとても印象的だ。やはり自分が生まれ育った場所に戻ってこれたというのは感慨深いものなんだろう。
「あとで妹のセリナを紹介するね。東門に迎えに来ているって『翼の手紙』で知らせがさっき届いたから」
俺はもう一度、王都を俯瞰したように見下ろした。
これほどまでとは想像以上だ。中世ヨーロッパ系の異世界に自分の脚で踏み入れるなんて、絶対経験できないじゃないか!
こんな大きくて広い、人が沢山いる様な場所で自分が握る寿司が本当に通用するのだろうか。
俺は今更ながらに一抹の不安を覚えていた。




