表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
2部【王都 前編】 1章 王都アイゼルンに向かって

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/101

ベルガの想い

 宴会もたけなわ。俺達も周囲で踊り出す人たちや、歌い出す人たち。みんな春が来ることを盛大に祝うような楽し気な雰囲気が続いている。

 そう言えばと思いベルガに尋ねる。それは自分が年齢的にお酒を飲んでいいのかどうか気になったからだ。


「ファルナート王国は公の場では十八歳からが成人と決められておる。もちろん中には守らずに飲酒してしまう奴らも多いが……トラジは変なところで生真面目で面白いな」


 更に真っ赤な顔をしながら陽気に答えるベルガだ。どうしても地球、更には日本での当たり前が思考の中に染みついてしまっているので、気を使ってしまう。飲食店をやっていたことも大きな要因だ。


「わたしは神官と言う立場上、飲むわけにはいかないので……」


 長い時を生きていると豪語していたエレノールは問題ない(のかは分からないが)として、そう言ってフィリナがお酒を飲むことを拒んでいることが気になった。宗教上の理由という言い方は分かる。しかし彼女の食欲に正直な面を知っているだけに、どこか引っかかるものを感じてしまう。

 ちなみに俺はたまに師匠に連れて行って貰って、商店街の人たちや漁師のやつらと食事に行く事もあった。といってもまだ十八歳だったからお酒を飲むわけにはいかない。それが異世界に来て、早めにお酒を飲めたのは良かったのか正直分からない。

 流石に強気に飲むわけにもいかずに、早々につぶれる前に休憩したいと広場を離れる。

 村人たちやケリーさん他、騎士団の人たちは俺の背中を叩きながら、からかい半分で酒盛りから解放してくれた。


 そんな酔い覚ましの為に訪れたのは、ラベルク村の広場から少し離れた大きな木の根元。俺はそこにドカッと腰を下ろすと、晴れ渡った夜空を見上げて大きく息を吐き出す。

 ずっと寒冷化の影響でどんよりした雪雲が空を覆っていたから、こうやって澄み切った綺麗な星を見上げたのは聖なる山のドラゴン戦の前くらいだったと思う。


「なんか、ほんと遠くに来ちまったんだな……」


 グリューンも宴会場に置いてきてしまったので、久しぶりに独りの時間を満喫しているようなそんな気分だ。

 ふと、そんな寝転がった自分に近づく大きな白い影を目の端に捉えた。もちろん足音で誰かは分かっていた。全くベルガの隊長さんは心配性だな。


「トラジ。少し話さないか……まぁ、なんだ。フィリナやエレノールじゃなくて済まんなぁ」


「別に構わないさ。今更なんだよベルガ。改まるようなそんな仲だったっけか」


 ベルガは麦酒の入ったジョッキを片手に持ち、ゆっくりと中身を口に流し込んだ。プハァ……という美味しそうな音が聞こえた。

 俺はそのまま離れた宴会場に視線を向けながらベルガの言葉を待つ。宴会場の隅で片付けに奔走しているフィリナの姿が見えた。エレノールはまだ飲んでいるな。

 ベルガは何も言わない。少しずつ飲みながら時折夜空を眺め、言葉を探しているような考えを纏めているような顔をしている。

 自分も何も言わない。

 起こした体をもう一度草むらに投げ出すと、両手を頭の上に持って行くように大きく伸びをする。

 草むらを夜風が気持ちよく駆けていく。

 寝転がった俺の黒髪がその風に涼やかに揺れ、ベルガの無造作に伸びた白い髪や髭をおだやかになぞっていた。


「温泉でのジルの振る舞いについて、謝らなければならないと思ってな」


「止めてくれ。特に気にしちゃいないさ。家庭には色々事情ってものがあるだろう。俺だって何も無かったわけじゃない」


 師匠のところで働く前は何をしていたかなんて思い出したくもない。

 いわゆる引きこもりで、最後に死のうと思って師匠の寿司屋に寄ったんだ。

 そうしたら師匠の寿司の温かさに救われて、そのまま弟子として働き始めた。


「いつからジルはああなってしまったのか。子供の頃はとても素直でいい子でな。特にうちの死んだ女房にはとても懐いていてな」


「亡くなった奥さんか。確か死に際に間に合わなかったって言っていたよな……」


「女房が死んでからも色々あってな。結局アイツとはうまくいっていない。昔は言えたことが、今は上手く伝えられないもどかしさと言えばいいのか。どうやって接したいいのか測りかねているのだ。それはジルも一緒なのだろう」


 遠くを見る様な、昔を思い懐かしむようなベルガの声が風に乗った。

 たぶん、俺にというより自分に対して話しているんだ。ただ聞いて欲しい時って誰にでもあるだろう。


「俺は早くに両親を亡くしてしまったからあれだけど、気持ちは分かる。特に父親とのすれ違いって誰しも経験するんじゃないかな」


 自分がベルガに初めて会った時にも感じたことだ。

 どこか大きな壁と言うか、何とかして認めさせてやりたいという気持ちだ。


「待てトラジ。お前の両親についての話は初めて聞くぞ。そうなのか」


「あれ? そう言えば言っていなかったか。あはは……なんかもう全部話してあるかのような気がしていた」


「全くお前と言う奴は。しっかりしているかと思えば、どこか肝心なところが抜けている。まぁそこがトラジの魅力と言えば魅力なのかもしれんな」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ