アイテムボックスの命名
俺とベルガが酒を持って話している所に、フィリナとエレノールが合流した。
「それってトラジの創り出したアイテムボックスね。ホワイトドラゴンに乗っているときに使った後、すっかり忘れていたわ」
「まぁ、それどころじゃなかったしな……」
エレノールが果実酒を飲みながら、翠色の瞳を輝かせて四方包みのようになっている入れ物をしげしげと観察していた。
俺は自分の腰に下がった小袋の中から、ベル湖に行く途中で摘んでいた大きな葉っぱを4枚ほど取り出す。
「それが言っていた『雪見笹』って訳ね。冬の寒さにも強くて、雪の中でも枯れたりしない耐久性の高い葉っぱよね。確かそれを使ったってトラジが言っていたやつね」
俺は腰に下げてある包丁を思い浮かべ、ゆっくりと葉っぱに向けて集中力を高めていく。
『生成』
元となる素材があればそれを変換して新しい物質を作り出す、まさに画期的な魔法。
自分の望むとおりになるように。
考えた通りに創り出されるようにと。
俺の黒髪がゆらゆらと魔力に仰がれるようにして揺れ動いていく。
左右の手を4枚の雪見笹の上にかざして集中力を更に高めていく。
葉っぱ全体が淡いあたたかな光に包まれる。それは葉っぱどうしを繋ぎ合わせるように光が走り、小さく消えていった。
4枚の葉が大きな風呂敷を広げたような形状に変化していく。重なり合う中央に物を入れることを想定して、その部分だけが固い箱形になる。中央の固い部分をゆったりと包めるようなそんな入れ物をイメージしてみた訳だ。
「これは……なんということだ!」
「女神シャウザ・ニークよ……」
「最高よ……魔力の渦が身体の中で踊っているわ!」
三人の驚きと感動の入り混じった声。
これがエーデルヴァイスの背で皆に披露した、保管と保存が一辺にできる簡易版アイテムボックスのようなものの完成!
腹が急激に減ってきた……気がする。まぁ、宴会場にいるわけだから、どんどん食べればいいだけだ、問題はない。
「よしできた! 名付けて『なんでも包み』だ!」
俺が生成されたアイテムボックスに奇天烈な命名をすると、三人の困惑したような目線が突き刺さるように注がれてくる。
「全くお前と言う奴は! あの時はそれどころでは無かったから流してしまったが……」
「これってとんでもない規格外の品物だわ。保管だけならまだしも、保存すらできてしまうだなんて!」
ベルガとフィリナが改めて、創り出してしまったこのトンデモナイものに対して、驚愕を通り越して呆れ果てている。
「トラジ分かっているの? 貴方がやったことはこのエリュハルトのアイテムボックスと言う概念を根底から覆すようなことなの!」
彼女の肩に乗ったミンミも「ミヤァ…」と肩を落としたように小さく鳴く。俺はようやく自分のやった『規格外』の事に思い当たり表情を強張らせた。
「作ってしまったものは仕方ないわね。でもこれはわたし達だけの秘密にしないといけないと思う」
びっくり目からようやく戻ったフィリナが、周囲を伺いながらこっそりと呟く。
「うひひ。相棒! 便利な道具を作ったのに皆がドン引きってか! オイラが慰めてやるから安心しろ」
グリューンが俺の頭の上に飛び乗り、わしゃわしゃと黒髪を手で引っ搔き回している。ええい。鬱陶しい……やめろグリューン!
ベルガがフィリナの言葉を聞いてその場を纏めるように話を続ける。
「フィリナの言う通りだ。このアイテムはパーティー内だけで共有することとする」
重々しく宣言するベルガ。
それに追従するように俺は取り繕い早口になる。
「そうだよ。便利なんだから、全員分作って内緒で使えばいいじゃないか」
ベルガはいきなり俺の頭を左の脇で抱えて左腕に挟むようにして力を入れる!
……ぐっ。これってヘッドロックじゃないか。
「この魔力バカは、まだ自分のやったことに関しての深刻度を理解していない感じだな!名前からして適当だ、なにが『なんでも包み』だ。もう少しマシな名称にしろ」
ツッコむのはそこかよ。
ベルガ曰く、名前は大事で命を吹き込む大事な作業だとのこと。
それを聞いて、フィリナが身を乗り出した。
「どうせなら可愛いバック名がいいのかな。雪見笹にちなんで、『儚げ雪見妖精包み』というのはどうかしら?」
その乙女チックな名称に目を丸くする。フィリナ、その名前の付け方。俺のレベルとあんまり変わらないぞ。
次にエレノールが右手を力強く伸ばして、宣言するかのように声を出した。
「やっぱりアイテム名といったら、少し格好良く響きが良いものがいいわよね! 『加工的スノウマジック マーク2』というのはどう!」
いや、それってどうなんだ……
俺とは違った意味ではあるが、間違いなく同等レベルの名称だぞ。それに意味も無くマーク2っていったい。マーク1はどこにいったんだよ!
しびれを切らしたようにベルガが苦々し気に告げた。
「お前ら揃いも揃ってセンスの欠片もないのか。もういい! ワシが決める」
そう断言すると、少し頭をひねる様に考えているベルガ。何か思いついたようで握りしめた右手をポンと左手に軽く打ち付けた。
「旅人の知恵包みというはどうだ。なんだかんだで持ち運びや保存に便利な代物だし、旅の知恵って感じがするだろう」
ベルガが満足そうに頷く。
「け、結構いい名前じゃないか」
「すごいベルガ。王国騎士団隊長というだけはあるわね」
「もう少し、こう……魔導の痕跡を表せるようなアイテム名にはならなかったわけ?」
足もとで笑い転げているグリューンを俺は大きく蹴り飛ばした。
エレノールは大きな魔力の高まりを感じると、その性質や量、ベクトルに合わせて多幸感が増すという特殊性癖の持ち主という設定です(忘れていた読者の方、思い出しましたか?)
命名センスの無いトラジ、真面目な(別の意味でセンスの無い)フィリナ、ベルガのまとめ方が光った回だったような気がします。




