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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
2部【王都 前編】 1章 王都アイゼルンに向かって

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親子の過去

 あたたかな温泉の温度とは裏腹に、ベルガとジルベニスタの間にはどこか冷涼な空気が流れているかのようだった。

 ジルベニスタが次の言葉を発するまでの時間が妙に長く感じた。

 おそらくは女性陣の方にも、この言葉は伝わってしまっているのは間違いない。

 ベル湖の温泉に並々ならぬ緊張感が漂った。


「……逃げるのですか。またあの時のように」


 ジルベニスタの言葉が重々しく響き渡る。

 あの時。

 その言葉を聞いた瞬間、明らかに動揺の色を浮かべるベルガの顔。

 小さく唸るような声が喉から漏れ出ていた。


「まだあの時のことを……マラニーの死の淵に間に合わなかったワシを責めるのかジルよ」


 ベルガは俺達に背を向けるようにして湯から立ち上がる。

 その背中には思い出したくない過去が、まるで岩石で出来た鎧となりベルガにしがみ付いて離れないかのようだった。


「間に合わなかった。仕方なかった。あの日、母上が息を引き取り遅れて戻ってきた貴方が私に仰った言葉です。今度もまた、仕方なかったから背を向けて去るのですか」


「ジル。それは!」


 ベルガの苦悩が手に取るように分かった。彼の心の痛みや震えが足に伝わり、湯面をさざ波のように揺らしていく。


(だから二人はどこかぎこちなかったのか。養父と義理の息子の関係だからかと思っていたんだが)


 突然明かされた二人の過去。俺は言葉を掛けることも出来ずに聞き入ることしかできなかった。

 ジルベニスタが、なお背を向ける義父に対して声を荒げる。


「私は認めません。母上が愛していた貴方が、そのような臆病風に吹かれたまま終わるなどとは……絶対に認めない!」


 それは父親に対する宣戦布告であった。

 俺はシュトルムヴォルフ家の複雑な事情に想いを馳せ、自分にできることは無いのかとそればかりを堂々巡りのように考えていた。


 二人はそれ以上話すことは無く、温泉にゆっくりと浸かるという状況でも無くなってしまった俺達は早々に湯船から上がることにした。

 無言で着替える二人。

 居心地の悪い俺とグリューン。

 その時ジルベニスタが大事そうに、ロケット型をした銀製のメモリアルブレスレットを服の間にしまい込むのが見えた。

 気になった俺と目が合い、ジルベニスタは気まずそうに視線を逸らした。


「トラジ殿。今日は宴会だと伺っていたが、我々も忙しい身だ。申し訳ないがそれには出席せず王都に戻ろうと思っているが問題無いだろうか」


 礼儀正しいジルベニスタだったが、今の気まずい気持ちのまま宴会に出るのは気が引けるのであろう。元々振って湧いたような宴会話でもあっただけに、俺に引き留める理由はなかった。


「ベルガ隊長も構わないな」


 ベルガは何も答えない。それを了承ととったのだろう。更に続ける。


「この度のラベルク戦線の件については、詳細な報告をすることを三番隊隊長に申し付ける。王都に戻り次第、騎士団本部に赴くように」


「……承知した。王都帰還後、直ちに本部に報告に赴く」


 ベルガはまるで自分のことを言われているのではないかのような口調で、無機質に復唱した。



 ✛ ✛ ✛


 ジルベニスタ率いる一番隊はラベルク村より早々に王都に向けて帰還していった。


「ちょっと、宴会無しなんて! 美味しい料理に舌鼓を打ちつつ、ジルベニスタ様と一緒にお酒を飲みたかったですわ! もう、お待ちください!」


 そう言って、名残惜しそうに立ち去っていった女子が誰かは言うまでもないだろう。

 1番隊と一緒に氷雨兄さんも王都に連行されて行く事になっていた。

 兄さんが心配だ。すぐに処刑とはならないだろうとはベルガが太鼓判を押してくれていてから安心していたが、王都に入って落ち着いたら、騎士団に確認しに行かないとな。


 そして夕方になり、広場の中に設置されたかまどに火が灯り、村人たちや残った騎士団の面々が集まってきていた。いそいそと準備を手伝っているフィリナ。そのフィリナの足元に村の子供たちが楽しそうに駆け寄っているのを見ると、戦いが終わりを告げたことを感じて嬉しくなる。

 広場のあちこちで所狭しと料理が出され、酒が振舞われる。

 皆、自分がこの戦いを生き残ったということを噛みしめるかのように乾杯を繰り返し、大きく涙を流して喜んでいた。

 俺は用意されたリールライを手早く卸し、片っ端から『品質保持(クヴァリテート)』の魔法を掛けていく。つまりは食べ物限定の清潔魔法だ。寄生虫なども除去されているはずなのでとても便利だ。

 そんなリールライの刺身を切り分けながら村人たちに振舞っている。もうラベルク村では生魚を毒だと思う人たちはいないから有難い。俺の熱意を包丁捌き、そして得意の口上で盛り上げて食べて貰っていた。

 俺の奮闘している姿を横目に、顔を真っ赤にしながらベルガが話しかけてきた。


「おいベルガ。ちょっと酔っぱらい過ぎてないか?」


 自分の義理の息子とあれだけ言い合ってしまい、王都騎士団本部へ赴くようにと念押しされた訳で。嫌でも飲みたくなるのは正直分からないでもない。


「トラジお前も飲め! この地方の酒は小麦から作られたものでな。ちょっと色が白いのが特徴で旨いんだ」


「流石ベルガ、詳しいじゃないか。そうそう、宴会で出ている料理さ。美味しいから王都までの道中でも食べたいなと思っていてさ」


 俺は悪戯っぽく笑い、以前に『生成(ツォイゲン)』の魔法で創り上げたアイテムボックスをリュックから取り出したんだ。



品質保持=清潔魔法みたいなもの。

生成=食関係限定だが、素材さえあればそれを元にして新たな魔法の品(通常の品でもOK)を作ることができる

アイテムボックス=トラジが創り出した魔法のリュック。量はそこまでは入らないが、保温、保存のできる優れもの。半永久的なものではない。持ち運べる冷蔵庫みたいなものだと思ってくれるといい。

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