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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
2部【王都 前編】 序章 ラベルク村後日談

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魔人-フレヴァル

ラベルク村の上空を旋回するワイバーン。その背に乗る黒き大剣を背負った美女カルアは睨むように一点を見つめ、その先にある魔王レイカの魔力の痕跡を嗅ぎ分けているのだろう。 

徐々に騒ぎを聞きつけた他の騎士団員たちが広場に集結しつつあった。


「弓部隊前へ! 奴に魔力は効かぬ……」


 手に持った風の魔力を冠したレイピアを振りかざし、団員たちをジルベニスタが鼓舞していく。


「はるか遠い……青き美しい星が視えるわ。楽しそうなレイカ様……そう、納得されてその場にいらっしゃるのね」


 10人ほどの長弓を構えた団員たちが一斉に空を見上げる。

 ワイバーンがその気配に威嚇の唸り声を上げた。


「放てぇえええぃぃぃぃ!」


 ジルベニスタの号令の下、一斉に放たれる弓矢は空を引き裂くような音を上げワイバーンに、そしてカルアに襲いかかる。


「レイカ様、許さないわ! 私を置いて遊びに行かれるなんて……絶対に追いかけてやるんだから」


 想いを断ち切るように黒き大剣を大きく横に薙ぎ払った!

 弓部隊の放った矢は、その大剣より放たれた閃光のような黒き威圧とでもいうべき波動によって全て吹き飛び、折れ、跳ね返された。

 その時に全員の目に飛び込んできたカルアの姿。

 どよめきが広場内を支配していく。

 褐色の優雅な翼が……彼女の背中に突如出現したんだ。

 さっき俺の視たものは錯覚なんかじゃなかった。


「――魔人(フレヴァル)。太古に神に追われたものたちの末裔だわ」


 フィリナがぽつりとつぶやく。

 

「邪魔したわね、毛玉とその他大勢!」


 カルアは自分だけが満足したとでも言うように、手元にある手綱を勢いよく引っ張り上げる。

 『グェェエエエェ!!』と強い鳴き声を発し、ワイバーンが空気を震わすように羽ばたく。そのまま遥か上空に風を切り裂きながら飛び去って行った。

 彼女の背中に出現した褐色の羽根が天星ダルバの光に照らされ、幻想的な軌跡を空に描きだす。

 俺は握りしめた焔刃を振り下ろす場所を完全に見失ってしまっていた。

 それは周囲の皆も同じ心持ちだったんだろう。

 あまりにも突然に現れ、勝手に暴れ、言いたい放題に喋りまくり、独り納得して帰って行ってしまった。


「その他大勢ってなんだよ!」


 どれだけ自分勝手な女子なんだ。振り回すだけ振り回されて結局別れることになった昔の彼女の面影が少しだけ重なった。


「誰が毛玉だ……」


 ベルガが痛々し気につぶやく。

 その場に居た誰もが思ったんだろう。

一体今のは何だったのかと。

 騎士団員たちもカルアの飛び去った空を見上げながら、射かけようとした弓を力なく下ろしため息が漏れる。


「父上。魔王軍はあのような者達ばかりなのですか?」


 ジルベニスタがレイピアを華麗に懐に仕舞い、振り返りざまにベルガに言葉を返す。

 ベルガは無言で頭を振り、それには答えない。

 このきわめて短い時間でのやり取りで、精悍な顔つきが少しやつれてしまったようにも感じる。

 

「魔王レイカ以外見えていないって感じ」


「恋する乙女の暴走ってところですわね」


 カルアが乙女かどうかは別にしても、魔導師二人の会話は的確だ。

 この先あんなのを相手にしていくのかと思うと、正直頭が軋むような音が上げるようだ。

 俺は寿司をこの世界に広めたいだけなんだけどな。

 手の中で普通の包丁の姿に戻った焔刃も、苦笑いを浮かべるように淡い光を放つのみ。

 それにしても気になったのはフィリナの言った魔人という種族名だ。

 太古に神に追われたものたちの末裔とはどういった意味なのか。


「エリュハルト十二柱神とは違う異形の神たちを崇めるものたち。それを総称して魔人と呼ばれているわ」


 フィリナは俺の視線の意味を汲み取り、説明を始めている。

 遥か神代の時代の話。主神ダルバを中心とした勢力と相対した、3体の異形の神。そしてそれに従いし褐色の翼を持つ者たち。

 戦いは長く続いたが、最終的には十二柱神側が勝利した。異形の神たちは封印され、魔人たちはこの地を追われることとなった。


「その戦いの中でキーアイテムとなったのが、天才料理人創元が創りし『神の七包丁』だったというわけ」


 エリュハルト世界辞典様のエレノールが続ける。


「ほとんどの民にとって、トラジ様の焔刃や、魔人という存在はおとぎ話の中の世界の話。しかし、目の当たりにしてしまえば話は別ですわ。力を追い求める者にとって、それは抗いがたい禁断の果実とでも言うべきもの。何としても自らの支配下に置こうと、画策を始めるのは自明の理でございますわ」


 探るようなタリカの物言いにフィリナの表情が暗くなる。

エレノールの瞳が猫のように大きく見開かれた。固まった表情が物語るのは自分の立ち位置を言い当てられたからか。肩に乗ったミンミがタリカを威嚇するように「ミャア!」と鳴き声を発した。

歪めるようにして笑い、フィリナの迷いやエレノールの困惑をさも楽しむようにしてタリカは口に手を当てる。杖を戻した際に紫のローブの中で大きな胸がボールのように弾んだ。

聖アルベルト教会と魔導協会の関与。

それは寒さ厳しい、聖なる山での決戦前夜にフィリナやエレノールの口から語られた言葉だ。


「相棒。決めるのはお前さ。相棒の心の在りようが焔刃の存在理由となるんだ」


 俺の肩の上でグリューンが意味ありげに囁いた。


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