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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
2部【王都 前編】 序章 ラベルク村後日談

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王国騎士団の事情

元々、異世界転生者はかなり珍しいのですが、『在り得ないわけでは無い』という暗黙の了解がエリュハルト内にあるという設定です。おとぎ話で『星流人』という言葉がでてくることからも、それは伺えますね。使い魔は喋らないものという常識もあるのですが、がんがんフィーム語(ファルナート共通語)をグリューンが話している件も面白いですね。

 応接室内に突然降り注ぐ不穏な空気。

 ジルベニスタ、タリカ、エレノールの3種類の魔力がせめぎ合い、滝のような光をまき散らす。

 一触即発。

 どこか楽しげなタリカの笑みに俺は眉間を曇らす。傍で座っていたフィリナの拳がにぶく光るのを感じた。

 その瞬間、大きく落雷が直撃したような音が室内に鳴り響いた。

 飛び散る応接室の豪華な机の破片。

 それはベルガが目の前の机に向かって、粉砕の大斧を渾身の力で持って振り下ろした音だった。

 しなる白い尾が床に叩きつけられ、ベルガが怒りの沸点に達したのが嫌でも分かる。


「お前たち止めないか。タリカも人の神経を逆なでして楽しむ性格はなんとかならんのか! ジルもジルだ……お前はもう騎士団団長なんだぞ」


 腕を組み、机を割り床に突き刺さった大斧をそのままにしドカッと椅子に座り直すベルガ。

 口の端がへの字に激しく歪み、眉間のしわが深くなる。

 雲散霧消した三人の魔力の残り香が応接室の宙を舞う。毒気を一気に抜かれたという感じになり、それぞれが無言で席に座り直した。

 話がとんでもなく逸れまくっていることを感じ、俺は空気を変えようと声を出す。


「改めて名乗らせてもらう。トラジ・カイドーだ。えっと、名前が前でファミリーネームが後でいいのか? この世界のそこら辺のルールがまだよく分かっていないから、間違っていても勘弁してくれ。寿司職人……いや、しがない料理人をやっている」


「にしし。相棒は緊張しているな。おっと名乗り遅れたぜぃ! 相棒の異世界案内人をやっているグリューン・ヒエンだ。よろしく頼むぜ」


 相変らずのおどけるように両手を前に突き出し、まるで歌舞伎の舞のような自己紹介をするグリューン。場の空気が一瞬で解けるのを感じる。

 助かった。こういう時ってグリューンのようなマイペースに振舞える奴の存在って大事だ。その場の淀んだ雰囲気を変えられるからな。


「びっくりですわ! 星流人様の使い魔はフィーム語をお話になりますの?」


 タリカの大きな瞳の瞬き頻度が一気に加速した。長い眉毛からバッサバサと羽ばたくような音が聞こえそうだ。


「これはこれは。丁寧な自己紹介痛みいる。こちらこそ名乗り遅れて申し訳がない。王国騎士団団長を務めさせてもらっているジルベニスタ・シュトルムヴォルフだ。養父が世話になった。此度のラベルク戦線での活躍も目の前で見させてもらった。神機焔刃の凄まじさに、改めてわが目を疑ったほどだ」


 ジルベニスタは気を取り直し、俺に向かって丁寧に手を差し伸べ、握手を求めてくる。肩の上に乗って偉そうにしているグリューンに対しても手を伸ばす辺り、かなり生真面目な男なんだろう。先ほどのベルガへの気まずさ加減も逆に印象的には悪くない。

 それよりその隣の胸デカ女子のタリカってエルフが曲者だな。エレノールに向かって放った言葉や、周囲を引っ掻き回して楽しむような様子に自分の中での寿司職人としての危険信号が高らかに鳴り響いた。


「話を蒸し返すが兄さん、いや……ヒサメを捕え、魔王軍を撃退した。それでは駄目なのか」


 分かっていても敢えて尋ねてみる。

 おそらくは三番隊全滅と、ベルガがその場から逃亡してしまったという事実が関係しているんだろう。よくある組織としてのなんちゃらってやつだ。


「わたしからもベルガ隊長の弁明をさせてください。彼は焔刃を探すための隊員をお貸し下さり、更にヒサメ軍本拠地に攻め入る作戦の先陣を切ってくださいました。その戦功はかなり大きいと思っております」


 いつもの砕けた口調ではない、フィリナの丁寧な言葉が俺に続く。エレノールが口を開きかけたのが目の端に映ったが、ミンミが小さく鳴き自嘲気味に横を向いた。

 紫のローブがふわふわと揺れ、豊かな胸を弾ませるようにして演技力たっぷりに手を上げるタリカ。口元には意地悪い笑みを称える。


「星流人様は騎士団の事情をお知りにならないのです。先ほどもわたくしタリカが申し上げましたが、ことは軍の士気に関わることでございますわ! 戦果を得た事と、不名誉な逃亡の事実は同列で語ることはできませんことよ」


 おーほっほっほとまるで悪役令嬢の如し、高らかな笑い声が割れた机に跳ね返った。


「タリカ、黙らないか……すまぬ。不躾なこ奴を許してはくれないか。言っていることは正しいのだが、言い方というものがあろう」


「今に始まったことじゃないわ。昔っからアンタはそう!」


 困り果てるジルベニスタに再度タリカに喧嘩を吹っ掛ける勢いのエレノール。ベルガの片方の目が震えるように痙攣している。

 あれは怒鳴り散らす前兆サインだ。ヤバいな。

 その時だ。グリューンが臭いを嗅ぐようにして鼻をひくつかせ、肩の上で立ち上がった。彼の3本指が軽快な音を立てて打ち鳴らされる。


『ビィイィイイイイン!』


 腰の包丁から流れ出す警戒音!

 金髪と銀髪がその音に反応し、瞳の色が大きく変化する。


「ひひひ。相棒。どうやら敵のお出ましだぜ」


 にやにやとグリューンが呟いた。



復活1回目はここまで。明日また2話分を公開して1部前編序章部分は終了となります。

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