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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
2部【王都 前編】 4章 王都での基盤

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ベルガの覚悟と蜘蛛の最期

 ベルガは身体を沈めるようにして筋肉の躍動を足に集中させた。目の前にはラスモフィスによって魅了されてしまったフィリナが、虚ろな瞳のままベルガの筋肉の動きを無感動に見やっていた。

 ベルガの表情は想像以上に固い。ただでさえ獣人の持ち前であるパワーを全開にして挑めば、深刻な傷をフィリナに与えかねない。

 やりづらさが拭えず攻めあぐねていると、フィリナは腰を深く屈めるようにして全身に魔力を込め始めた。それが一気に爆発するように弾け、ベルガに牙を剥くように襲い掛かった!


『ケンセイリュウ……龍昇のゲキ』


 たどたどしい言葉とは裏腹に、鬼気迫るスピードとピンポイントの打撃がベルガに浴びせられる。的確とも言える多数の打撃を受け、受け身になっていたところを一気に壁際まで追い込まれてしまう。


「くお! まさか、ここまでとは!」


 洞窟の壁まで追い詰められたその刹那、エレノールの『敏捷性向上(アジリティ)』が発動した。強化された体で辛うじて身をかわし、事なきを得る。

 一方、ベルガの背後に迫っていた岩壁は、フィリナが放った打ち上げの打撃によって、轟音とともに砕け散った。


「これは!? 手加減していてはワシの方がやられかねん」


 ベルガは大きく息を吸い込むと、全身の筋肉に魔力を巡らせていく。

 相手を倒す為ではなく、ただ攻撃をいなし、耐え、時間を稼ぐために。


(絶対にトラジがラスモフィスをなんとかしてくれるはずだ。それまでの時間、ワシはフィリナを引き付けておこうぞ)


 その並々ならぬ決意と覚悟に満ちた表情には、ベルガの武人としての魂が籠っているかのようだった。



「トラジ。なんとか繭から抜け出せないの?」


 エレノールの焦るような声が、流れる時間を必死に止めようとしているかのようだ。

 それでも集中力が続いているのは流石で、俺たちの体を包み込む魔力の波動は少しも衰える気配が無かった。


「相棒! 熱の刃なんだろ。なんとかできるんじゃねぇのか」


 グリューンが絡まった糸にもがきながら、必死に耳元で叫び続ける。

 そうだよ。熱の刃だったんだ。まだ使い始めて間もないから、刃の性能を完全に頭の中から追いやってしまっていた。

 腹の奥から魔力を込める。腹の虫が不平の声を上げるのは無視。

 『保温』を使った時のように、温度を上昇させる感覚を想像するんだ。

 俺がそう願うと、瞬く間に熱の刃の表面の温度が跳ね上がった! それは絡め取っていた蜘蛛の糸を躊躇なく溶かし始める。粘着力と耐久性が失われて、燃えてしまう事も無く繭から脱出することに成功。


「へん! そうそうお前の都合にいいように事は運ばねぇっての!」


 俺は完全に江戸っ子ばりの方言になって、熱の刃をもう一度構えなおした。ラスモフィスが呻くような鳴き声を漏らし、悔しがるように脚を震わした。

 危なかった! 強がっているけど、あのまま繭ごと食べられるなんて絶対嫌だぞ。

 気合いを入れ直すと、両足に力を集中し摺り足。

 そのまま加速をつけながら、蜘蛛の懐に一気に詰めよっていく!

 四方八方から襲い掛かってくる七本の蜘蛛の脚だったが、魔導で強化されている今の速度には到底及ばない。


「ヒュー! 体が軽いぜ。このまま終わらせてやる!」


 自分が振り回す焔刃の熱の刃の威力に、更に三本の蜘蛛の脚が切り裂かれ、力なく地面に横たわる。ラスモフィスが苦悶の叫び声を上げた。

 俺は蜘蛛の死角から、加速された敏捷性を生かし、天井に届くかと思われるくらいに高く飛び上がった。


「ギギギギ……グギャアア」


 待ってましたと言わんばかりの蜘蛛の興奮した鳴き声が、洞窟内の空気を震わせる。

 空中に舞い踊った自分に向けて、魔紋のような瞳を再度開き、魅了の力を発動させようと魔力を放った。


「言わんこっちゃない! 舐め過ぎだ相棒!」


 グリューンが首の後ろにしがみ付き、焦ったような声を絞り出す。

 そうだよな。近づいて飛び上がった俺に、魅了の瞳を使うのはもちろん予想通りだ!


「……そうか相棒。目を閉じたままで!」


 脱帽と言った表情のグリューン。

 目を瞑ったまま、焔刃を振り上げる。位置と高さは分かっている。見えなくても、このまま真っ直ぐ振り下ろすだけでいいんだから簡単だ。なにせ相手は魅了を発動させようとその場に止まっているんだからな! 恰好の的って訳さ。


「渾身の焦熱の(グリューンエンド)(クリンゲ)を喰らいやがれぇ!!」


 やわらかいものを切り裂くような感覚が、目を瞑った状態でも充分に両腕に伝わってきた。このまま真っ二つになってしまえ! そうすればフィリナは元に戻るんだ。

 絶望に包まれたような絶叫が、耳の中で反響する。

 崩れ落ちたラスモフィスにはもう見向きもしない。すぐさま俺は眼を見開くと、熱の剣を構えなおし、ベルガの方に向き直った。

 そこには満身創痍になって、必死に防御に徹しているベルガの姿があった。

 全身へのフィリナの殴打によって大きな痣が出来て、何本か骨も折れているのかもしれない。口から少量の血を吐き出しながら、その場で彼女の全力の攻撃を受け止めていた。


「なんで。蜘蛛を倒したのに、フィリナが元に戻らないんだ」


 ベルガはむせ込むようにして、口の中に溢れた血の塊を吐き出した。


「まだ倒したばかりで、奴の魔力が途切れてはおらんのだろう……ごふ!」


 フィリナの容赦ない下から突き上げるような攻撃がベルガの意識を奪い去る。みぞおちを強かに打ち込まれ、その場に昏倒してしまった。

 ゆらりと俺に向き直るフィリナ。

 腹減りも限界に近い。間違いなく次の攻撃で最期だろう。



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