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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
2部【王都 前編】 4章 王都での基盤

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洞窟へ

「実はここだけの話なんでっすが」


 ルーシィさんの目が鋭い光を放ち、真剣な表情で俺たちのことを見据えた。


「先日のことでっすが、王国騎士団のハルナルというリザード族の男が情報を得るために冒険者ギルドに接触しています。この場での開示はかなり危険が伴いますんで、皆さんの胸の内に留めて欲しいんでっすが……」


 ドッセルさんとベルガが目を合わせた。

 ここで王国騎士団まで関わってくるのか。俺は唾を飲みこんで、ルーシィさんの次の言葉を待った。


「元子爵ゼルガーの毒殺の可能性についてっす。それに魔導協会が関与している情報が舞い込みまして。トラジさん。ギルドには様々な諜報部門という部署もあって裏の情報も集まりまっす」


 その衝撃的な事実に、応接室は水を打ったように静まり返った。

 騎士団、魔導協会、そして毒殺された子爵の妻からの依頼。

 俺は周囲のメンバーの顔を見渡した。ベルガやフィリナは当惑の色を隠せない。そしてエレノールは案の定、魔導協会の話が出た途端、瞬間的に顔を引きつらせた。

 そんな緊張の最中、神の包丁である焔刃が震えたような気がした。

 ここで怯えて引き下がっても何も分からない。

 俺は急に覚悟が決まった。

 考え抜いた末という訳ではもちろんない。自分の思考回路の外側、何かに導き出されたようなそんな感覚だ。


「……いいだろう。みんな、この依頼受けようと思う」


 その場に居た全員の目が俺に釘付けになる。ずっと悩むように腕を組んで唸っていたベルガは確かめるように一言を発した。


「この依頼を受けるということは、王都内の深い暗部にまで足を突っ込む覚悟が必要だ。トラジ引き返すなら今だぞ」


 ベルガの懸念はすごくよく分かる。普通の冒険者ならそう考えるんだろう。でも俺には、この依頼を受けることが最善手だという、なぜか確固たる確信がある。


「もう充分に嵌り込んでいるようなもんだ、今更だよ。たぶん俺たちが王都に来てから、子爵はずっと自分のことを探っていた。その上でこの依頼を持ち込んだんだ。だったら、その先を見てみたいし、子爵が何を求めているのか知りたいんだ。なにより……」


「なにより? トラジ、何が言いたいの?」


 フィリナが真っ先に聞き返した。ベルガも無言で次の言葉を促している。エレノールが真剣な表情で見つめ返してきた。


「なにより……このエリュハルトで毒だと言われている魚介類に拘っていた男が居たなんて嬉しいじゃないか! そんなバカは俺だけだと思っていたからな」


 自分の放った言葉に、一同はなんとも言えない表情になる。応接室には一瞬だけ戸惑いの空気が流れた。

 しかしベルガが膝を叩いて豪快に笑い始めると、それに誘われるようにフィリナがクスクスと声を上げ、エレノールもまた頬を緩めて穏やかな顔を浮かべた。


「トラジ。本当のことを言うと魔導協会絡みは嫌なの。絶対に奴が関わっているのは間違いないから。でも、貴方の心意気を感じたら何だか怖がっている自分の方が嫌になったの。こうなったら腹を括るわ」


 強がりを言っているのはすぐに分かった。でもそうやって言ってくれるだけでも感謝しかない。フィリナがエレノールの肩をそっと抱きしめた。


「うむ。受けるとは思っていたさ。だから最大限、ギルドとしてできることをやったつもりだし、伝えたまでだ。ベルガ! このひよっこ共を頼んだぞ」


「誰に言ってる、ドッセル・マッセル! ワシがラスモフィス如きに後れをとると思うか? 心配するな、このパーティーは粒ぞろいだ。必ずや良い報告を持ち帰ることを約束しよう」


 この後幻妖蜘蛛ラスモフィスについて、ベルガやエレノールから知っている情報を共有する。事前に作戦を練らないと、いざ戦闘になれば何が起こるかわからない。それはベルガの持論でもあったからだ。

 しかし、その想定をも上回る事態になるとは誰が予想しえたのだろうか。まさに何が起こるのか分からない、そういった冒険者稼業の危うさを自分の身で知ることになったんだ。


✛ ✛ ✛


 俺たちは王都より10キロほど離れたナドゥ川の支流地点に来ていた。鬱蒼(うっそう)と茂った森の中で、以前キャングを釣り上げたのはつい最近。その時はここに戻ってくるなんて考えもしなかったんだけどな。

 釣りポイントから更に南下し、森の奥に分け入った場所。魔力の濃度が一気に濃くなるような、息苦しさに胸が押しつぶされるような、そんな印象を受ける。


「磁場の乱れが思った以上に激しいわね。これなら魔導蜘蛛みたいな、珍しいモンスターが生まれても不思議じゃないわ」


 エレノールが大きな魔力を感じるのか、どこか機嫌良さそうに呟く。その肩に乗るようにして使い魔のミンミが重たい鳴き声を発している。ベルガとフィリナは暑苦しそうに、パタパタと手で顔を扇いでいた。俺もそのジメついた空気感を肌で感じ、額に流れる汗を拭う。例えるなら沢山の洗濯物が干された湿気の多い室内を歩くような感覚だ。


「キャングの釣り場はかなり手前だったから、ここまで魔力を感じなかったんだな」


「なかなか味わい深い魔力よ。あたしは嫌いじゃないんだけど、それだけ強力な魔物ってことだから気を付けるに越したことは無いわ」


 グリューンがフィリナの頭の上から立ち上がり、50メートルほど前方に現れた、森の木々によって隠された薄暗い洞窟を指差した。


「相棒、洞窟ってあれじゃねぇのか。奇怪で大きな魔力を感じるぜ」


 それを聞いたエレノールが緑色に目を光らせる。いつもの探査魔導の発動だ。


「それほど大きな洞窟ではなさそうね。でも陰気な獲物の魔力がビンビン伝わってくるわ。なかなか大型で素敵かも」


 ミンミが警戒の唸り声を上げた。エレノールはそれを優しく撫でるように諫める。

 ベルガは粉砕の大斧を構えなおし、周囲の警戒を怠らない。俺は腰の焔刃に意識を集中し、フィリナはエレノールの傍に立ち拳に魔力を込め始めた。



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