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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
2部【王都 前編】 4章 王都での基盤

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接触

 エレノールの自宅に集まり、醤油づくりに精を出すようになってから早いもので、更に1か月が経過しようとしていた。

 俺はほぼ毎日アイゼルン市場に顔を出すようにしていた。市場に行って幾つかのクエストをこなし、その帰りにエレノールの家に寄る。そこで市場で購入したものを味見したり、思いついた調合方法を試したりする日々が続いていた。


「あらトラジさん。今日も早いのね。また新しい素材を探しているの?」

「トラジ。いい塩が手に入ったぞ。今度また店に寄ってくれ」

「こっちのチョリはどうだ。この間のは酸っぱすぎるって言っていたから」


 市場を歩くたびに様々な露店や商店、井戸端会議をしているおば様たち、はては遊んでいる子供たちまで段々と自分の存在を認識しだしている。


(これだよコレ。いい感じじゃないか)


 今日は豆屋の可愛い看板娘が持たせてくれた大豆のようなものと、小麦の入った袋を抱えてホクホク顔でエレノール宅に向かう。

 これから喧々諤々(けんけんがくがく)の調合と試食の山が俺を待っているぜ……気合い入れ過ぎて長くなると結構疲れるんだけどな。エレノールは性格に似合わず、かなりの職人肌だったということが最近になって分かった訳で。

 市場から持ってきた大豆と小麦を蒸したり、煎ったりしながら配合の分量を色々と試していく。この時、包丁の力である『熟成』を使うことで、難しい工程や特殊な菌の培養という手順を簡略化しようというのがグリューンの考えだった訳だ。


「相棒。醤油麹菌(こうじきん)なんてもんは、さすがにエリュハルトにはないよな」


「あるのかもしれないが、すぐに手に入るものじゃないと思うぞ」


 神の包丁『焔刃』の使い魔だけはあるのか、そんな専門的な言葉がグリューンの口から出たことにびっくりする。

 エレノールは醤油の試作品を掌に乗せ、ペロリと口に含ませる。強い塩味に喉が刺激され苛立ちの声を上げる。


「う~ん。また失敗ね……なかなかうまくはいかないわね。これはやりがいがあるわ」


「配合の分量とか混ぜ方で大分違ってくるんだよ。包丁の力『熟成』だけではどうにもならない要素があると思うんだ」


 何度目の失敗になるのか、もう分からなくなっていた。ここまで時間が掛かるものだとは思っていなかったので、正直心が折れかかっている。しかし何故かエレノールは失敗する度に闘志を燃やし、妥協を許さない精神を貫いていた。

 この調味料作りは長い戦いになる予感がするぞ。俺はそんな実感を抱いていた。



 今日もアイゼルン市場の『ワンダー・ワンダー』に足を運んでいた。いつもとは違い美人のフィリナも一緒だったので、周囲の人たちに冷やかされてしまう事が多かったんだが、俺たちはそういう関係じゃないからな。


「トラジさん、いつもありがとう」


 店主の兎獣人ダラリアとはだいぶ親しくなり、異国の香辛料のことなどを教えてもらえるようになっていた。自分でもどういったものが寿司酢と醤油に適しているのか分からないので、直感に頼って買うことにしていた。こういう時こそ女神様の言葉を期待したいんだが、なぜかシャウザ・ニークからの声は聞こえず、焔刃はケースの中で微笑むのみ。

 そして今日はもう一人ゲストがいた。

 ダラリアの隣に立つ一人の背の低い男の姿。明るい髪色をしていて、どことなく品があり豊かな教養が感じられた。寿司職人としての勘が、その男は只者ではないと教えてくれていた。フィリナが顔を寄せて耳打ちする。


「ホビィ族ね。あまり王都では見かけないから珍しいわ」


「確かに。2か月くらいこの店に通っているけど、初めて見る顔だな」


 フィリナの説明では、ホビィ族というのは六陸連合共和国にあるニュートララフィルという国に住んでいる種族のこと。身長が120センチくらいととても小柄だが、すばしっこくて手先が器用なのが特徴的だそうだ。

 そのホビィ族の男は満面の笑みをたたえると、颯爽とした足取りで近づいてきた。


「トラジ・カイドー様でいらっしゃいますね。はじめまして。セバスと申します」


 軽やかに手を差し出すと、握手を求めてくるセバスと名乗るホビィ族の男。俺はその握手に応えるものの、警戒心は全く解かない。

 するとダラリアから驚きの言葉が発せられた。


「実はずっとファーバンはこの店にあったんだよ。黙っていてごめんね」


 目を丸くするフィリナだったが、自分にとってはその事実はある程度予想の付いていたものだった。何かあるのは分かっていたんだ。自分が感じていた違和感の正体、それはお得意様にしか渡せなかったということ。だからまだ顔なじみになっていなかった俺には売ることができなかった、そんなところだろう。


「通い詰めた甲斐があったってもんだ」


 全く物おじせず、笑みを絶やさないセバス。こちらの考えはお見通しと言わんばかりの明瞭な口調で話し始める。


「お話は伺っております。魚介類に対する類稀なる知識がお有りだとか。そしてあまり公にはなっておりませんが、かのラベルク戦線にて魔王を退けた英傑だと。失礼ながらこの2か月くらいの間、カイドー様の様子を伺って参りました。グリモワール子爵という名を出せば、分かりますかな」


 グリモワール子爵。そうだ、キャング採取の依頼人の名前だ。

 だが、それがなんだというのだ……子爵と自分の接点が思いつかない。

 キャング納品だってギルドを通したから直接は会っていないはずだ。


「実は聖アルベルト教会の孤児院のイベントの際に、遠くから天ぷらを揚げる貴方を見ていたのです。その事も踏まえて今回、カイドー様にとある依頼をしたいと考えております。既にギルドには提出済みです。その前に一度しっかりとご挨拶させて頂きたいと、今回このような場をダラリアに設けてもらいました」


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