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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
2部【王都 前編】 4章 王都での基盤

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醤油を求めて

 古龍の息吹(アディア)とアイゼルン市場を往復する日々が始まっていた。訓練以外は暇そうにしているベルガに声を掛けて引っ張り出し、王都周辺の討伐依頼にも手を出していく。

 地道に信頼関係を築いていくこと。それは創元師匠から口酸っぱく教わったものだ。まずは俺という存在を知られないことには始まらないのだ。


「また市場からお前に依頼が来ているぞ。トラジ指定で任せたいという先方からの話だったから後で確かめてみてくれ」


 犬獣人のフィンさんが、とても親切で丁寧だったのがびっくりだ。やはり人は見かけで判断しちゃいけないってことだな。

 ルーシィさんだけでなく、他の受付メンバーにもしっかり名前を覚えられていた。

 朝早くからギルドに顔を出して、にこやかに情報収集をして迅速に依頼をこなす。そんな姿は彼らの目から見たら、優秀な新人冒険者として映っているはずだ。ランクアップの話も早々に出ているらしい。

 財布の中のガルも段々と余裕が出て来ている。地味依頼も積もれば山となるもんだ。ベルガに全面的に依存していた宿賃問題も、ようやく自分の懐だけでどうにかなる兆しが見え始めていた。


「ちょっと会わない間に逞しくなったわね」


 ようやく教会の残務がひと段落したということで、久しぶりにギルドに顔を出せたフィリナ。

 茶色の瞳を輝かせて、俺の日焼け跡の残る肌に笑いながら触れてくる。

 自分でもこの一か月間、力仕事に明け暮れていたおかげか、体に芯が通って、以前よりも筋肉が引き締まった自覚があった。

 そんな俺に周囲のギルド員や冒険者たちが口々に声を掛けてくる。


「おうトラジ。今日も早いじゃないか。また市場に顔を出すのか」

「ちょっとこの料理の味付けなんだけどさ。見てくれないかな」

「この間の討伐依頼ありがとうな。またお前たちに頼みたいって話が来ているぞ」


 受付のルーシィさんは元より、フィンさんやミリアさん、顔馴染みになってきた冒険者や酒場の人たちに声を掛けられることも多くなった。聡いフィリナはすぐに周囲の変化に気付いて、もともと大きな瞳を更に見開きながら感嘆の声を上げた。


「すごいわね。もう何年もギルドにいるみたいな風格が出て来ているけど、まだ1か月くらいだよね。こんな短期間にどうやったらこうなるのよ」


「当たり前のことを、ただ当たり前にやっていただけさ」


 俺はうそぶいた。師匠の教えが間違っていなかった。古臭いやり方なんだけど、しっかりと着実に物事をこなしていくことで、見ている人は絶対にいる。


「うひひ。この1か月間、相棒は死に物狂いだったって訳さ」


 グリューンが俺の肩に乗り、まるで自分がやってきたかのように胸を反らせて自慢していた。付き合わせていたし、手伝ってくれたから感謝はしているんだが、どこかコイツに言われると、努力が軽く聞こえてしまって嫌になるなぁ。


「そういえばエレノールはどうしてるんだろう。あれから気にしてはいたんだけど忙しかったし、なんだか誰にも聞けなくってさ」


「流石に回復している頃だとは思う。あの子、ギルドにも顔を出していなかったの?」


「にしし。もしかしたらエレノールはギルドに来るのが照れくさいんじゃないか」


 サングラスをずらしながら、グリューンが割と的確なことを言ったのでフィリナと顔を見合わせた。照れくさくて顔を出せないなら、お見舞いがてら俺たちから出向くしか手はないよな。


「この一か月間、市場とここを往復していたからエリュハルトの食材や調味料についても詳しくなったんだ。だからこそエレノールの力を借りたいなって、ベルガやグリューンとも話していたんだ」


 寿司を作るうえで欠かせないもの。寿司酢、そして醤油だ。

 酢については似たような味のものはいくつか見つけたんだ。チョリっていうエリュハルトでも割と一般的な調味料だ。でも手巻き寿司をやるって言うならまだしも、本格的な寿司酢と考えると、チョリだけではどうにもならない。

 そして、一番の難問は醤油だ。

 原理は勿論分かっている。だが『知っている』と『作る』の間にはかなり険しい谷が横たわっている。あの複雑な発酵の工程を今の環境でこなすのは無謀だ。創意工夫にも、超えられない限界というものがあるわけで。


「相棒、実はずっと考えていたんだけどよ。材料さえ調達できているならば、焔刃の力を使えばどうにかできるんじゃないか」


 グリューンがフィリナに撫でられながら、そんなとんでもないことを言い出した。


「魚の身を熟成させる力を扱えただろう。そう『熟成(ラッセン)』だ。あれを使えば複雑な発酵の工程も楽になるんじゃないか?」


 それだよグリューン! どうして今まで思い至らなかったんだろう。自分の力でどうにもできなくても、神機の力を使いこなせば良かったんじゃないか。

 これでエレノールに格段に頼みやすくなった。神の包丁とエレノールの知識を組み合わせれば、醤油という未知の調味料をうまく配合できるんじゃないか。

 思い立ったがなんとやらだ。俺たちはエレノールに会うために、魔導協会の近くある彼女の自宅へと急いで向かったのだった。



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― 新着の感想 ―
スキルで発酵を……!? 神の包丁なら何とかなる……のかな!? 早く異世界にお寿司をお披露目してもらいたいですけど、まだまだ時間がかかりそうですね。寿司職人の道は険しい(´;ω;`)
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