第3話 コンビニは危険だ
放課後。
モブ4人は帰り道を歩いていた。
「腹減ったな」
「コンビニ寄るか」
男子学生はとにかく燃費が悪い。
4人でコンビニに入って唐揚げ棒や肉まんなどを買い、店の前で立ち食いする。
「熱々」とぽっちゃりがはふはふしながら肉まんを頬張った。
不意に「あ」とメガネが声を上げる。
「どうした?」
「コンビニは危険だ」
「そうなの?」
「いや、コンビニで買い物したあとで言わないでくれる?」
オタクは顔をしかめた。
彼は焼き鳥を食べている途中で、動けない。
「何がどう危険なんだよ?」
「ここは学校からそう遠くない。それに通学路の途中にある」
「立地いいよねえ」
ぽっちゃりは相変わらず暢気に肉まんを食べている。
「甘いぞ、ぽっちゃり。野菜もしっかり食うんだな」
メガネは唐揚げ棒をつまみながら、己のメガネをキラリと光らせた。
「通学路にあるということは、ここらの学校の生徒はみんな利用する」
「そうだね」
「つまり、主人公属性やヒロイン属性も頻繁に来るということだ」
そのときだった。
「あ、熊田くん」
モブ4人組はぎょっとする。
噂をすれば影、花咲さんがやってきたのだ。
「花咲さんもお買い物?」
「うん。ボールペンのインク切れちゃって。でもいい匂いするね。美味しそう」
「肉まん食べる? 2個買ったからあげる」
「お前はまた善人ムーヴを……」
ぽっちゃりと花咲さんのやり取りに、オタクが苦々しい顔をする。
花咲さんはこころなしか、顔を赤く染めている気がした。
「あ、ありがとう。でも、なんか悪いよ。自分で買う」
「そう?」
ぽっちゃりが優しく笑う。
……キラキラオーラが増している。
モブ3人は顔を見合わせていた。
「……ほらな。コンビニは危険だ」
「ぽっちゃり、お前本当に、このままだとまずいぞ」
「何が?」
買い食いを終えて、コンビニのゴミ箱に捨ててから4人は歩き出す。
出っ歯が心配してぽっちゃりの顔を覗き込むようにすると、彼は仏のような笑みを浮かべていた。
「どんどん、主人公化が進行している」
「花咲さんが、ここで会ったのも『偶然』なのか分からない」
モブ3人は、彼女の輝度の低い瞳を思い出している。
――もし、花咲さんがヤンデレヒロインだったら?
ぽっちゃりの悲惨な末路を想像すると、彼らはどうしても不安になってしまう。
「もし花咲さんがヤンデレだったら、ああなるんだぞ」
オタクが親指で後ろを指した。
彼の背後には、あのコンビニ。
その店の前で、男女が揉めている。
「天童くん、ひどい! コンビニの店員と出来てたなんて!」
「えっ!? いや、誤解だよ!」
「嘘だ! 店員と笑顔だったし、手を繋いでた!」
「営業スマイルだし、お釣りを受け取っただけだけど!?」
去年、主人公化した男子――天童が女子と口論になっていた。
天童は今にも泣き出しそうな顔で必死に弁解している。
そして、女子の方は――闇色の瞳をしていた。
「もしかしたら、花咲さんもヤンデレに進化してる途中の可能性もある」
「ゲームのモンスターみたいな言い方だな……」
出っ歯は首を傾げながら、しかし、その主張を完全に否定しきれない。
メガネのモブバースという謎理論が、もはやモブ3人には完全なデマとも思えなくなったのだ。
それでも、ぽっちゃりは困ったような笑みを浮かべるだけ。
「花咲さんは、いい人だと思うけどなあ」
そして、穏やかな口調でやんわりと注意する。
「ヤンデレが何なのかはよくわからないけど、多分いい意味ではないよね。あまり疑うの、良くないと思うよ」
「……ごめん」
「でも、俺達、お前が心配なんだ」
「うん。それはすごく嬉しい」
――引き止められない。
モブの3人は誰ともなく、そう考えていた。
ぽっちゃりの善性が強すぎて、主人公化が止まらない。
ますます輝きが強くなっている気がする。
そこで花咲さんの話は終わりになり、4人は途中まで一緒に帰り道を歩いた。
ぽっちゃりと分かれ道になったとき、残された3人はしばらく無言で歩く。
「……なあ、どうすんだ」
「どうしよう」
「でも、やっぱりぽっちゃりがモブでなくなるのは嫌だ」
それは3人の本心であり総意。
仲間だった人間が遠くに行くような感覚が不安だった。
3人で頷き合う。
――絶対、ぽっちゃりを主人公にさせたくない。
それはモブのエゴかもしれない。
それでも。
ぽっちゃりが止まらないなら、3人も止まる気はなかった。
これは、モブのままでいるための戦いだ。
――ぽっちゃりを、取り戻す。




