灯台
雨が降れば海は増す、風が吹けば海は荒れる。結果として、この艦艇周囲の海は極端に水位が増している。
だからこそ、そんな天候で島や足の付く浅瀬を見つける事はとても珍しい。
ピーピーピー! 操舵室には警報がなり、半分眠りかけていたアマガサは飛び起きて椅子からコケる。
「いてて....な、なにごと!?」
慌てた様子で私の腰にしがみつくアマガサの頭を撫で、私は計器に目を通して警報の原因を探る。
「…前方5km先、極度の浅瀬になっているわ。もしかすれば、島か岩礁でもあるのかも」
目を凝らして外を見ても、窓からは雨粒と灰色の雲と海しか見えない。
「んー? 5キロってまだ全然遠くだよね? なんで警報が鳴るの?」
「警報の感知範囲を広く取っているのよ。これなら、島や岩礁を見逃す事は無いでしょう?」
「そっか。船が座礁したら大変だもんね!」
「それもあるけれど....陸地には、海底に無い物があるかもしれないわ。それこそ、岩礁であろうと陸地ではあるわ。貝や漂流物が流れ着いているかもしれない」
「貝!? あたし貝食べたーい!」
その言葉に反応してか、アマガサは目を輝かせて跳ねる。海底人工物には貝が少ない。それが何故かは分からないけれど、貝は意外と希少品なのだ。あと、アマガサは魚より貝が好き。
「じゃあお願いできるかしら? できるだけ近づくから、今日は潜航じゃ無くて陸上探査よ」
「はーい! 準備してくるね!」
「ええ、十分に気を付けてね?」
「うん!」
準備....と言っても、陸上も海中も、持っていく物はそう変わらない。懐中電灯や通信カメラでも持たせてあげればよいのでしょうけど、今の設備では電子機器を作れない。修理は出来るのだけれど。
~~~
手斧よし! 袋よし! ロープよし!!
荒れる甲板の手すりを持って、あたしは船が止まるのを待つ。動いてる時に海に潜ると、それはもうヒガサちゃんに怒られる。
『船体水平システム、正常稼働。座標固定プログラム、問題なし。....目的地点はここから1km先よ。これ以上は座標の危険かあって近づけないわ』
「結構おっきな岩なんだねー。でも任せて! 横に泳ぐのも得意だから!!」
「ええ、頼りにしているわ」
「えへへー、ヒガサちゃんに頼られちゃった! じゃあ、頑張って貝獲って来るぞー! 岩礁ってそんな物くらいしかないと思うし! 行って来まーす!!」
嵐の音にかき消さる程の、着水音を海に鳴らす。
「…おお、ちょっと大荒れかも」
『海流の影響もあると思うわ。流されていると思ったら、すぐに言ってちょうだいね? 緊急回収を行うわ』
「はーい!」
あれすっごい引っ張られて痛いんだよねー....。まあ、死んじゃうより全然マシだけどねー。
少し泳ぐと、足元に黒い岩が見え始める。ごつごつと尖ってたり角ばってたり、すごく歩き辛そうな岩礁が見えて来た。
「....よっととと....上陸したよー! わひゃー! 貝沢山くっ付いてるー!!」
荒波が岩で跳ね、でもそんな中でも貝たちは岩礁にへばり付いていた。それはもう沢山!!
『好きなだけ獲って来なさい。冷凍室はまだ空きがあるわ』
「はーい! ちょっと時間かかるかも!」
『いいわよ。けれど、体が冷える前に帰って来なさい』
「はーい!」
あたしは手斧の角を使って、岩にへばり付いた貝を袋の中へ剥がして行く。
「この小さいの、まとめて食べると美味しいんだー。あ! こっちのはスープにしたら美味しいやつ! あ!! こっちのはー....!」
偶に波に直撃しながらも、あたしは順調に貝を獲って行く。その数袋3つ分! 海底人工物よりも取って来たかも!
「ふいー、これだけ獲れればもう満足かな?」
『そうね、乱獲は良くないわ。....一応聞いておくけれど、貝以外にはそこに何かないかしら?』
「んー....じゃあちょっと見て来るね」
2時間くらい? ずっと足元の岩だけ見ていた気がする。これも全部、貝が小さいのがいけない!! おっきな貝もあれば良かったんだけどなー。
「…あれ? 何だろう?」
『どうしたの? 何か見つけた?』
岩礁を少し歩き、霧がかった視界の中に大きなものが映り込んだ。見上げる程高い、古い人工物だ。
「塔? 白っぽい、何か高いのがあるよ! あ、階段もある。これ登っていいやつ?」
『....もしかすれば、灯台かもしれないわ。外から見て、老朽化具合はどうかしら?』
「ちょっと待ってね? 近づいてみる」
削られた岩礁の階段を登り、あたしは灯台と呼ばれた人工物の直ぐ前まで来た。首が居たくなるほど高いそれは、こんな嵐の中でも揺れずに建っている。
「全然頑丈そう。あ、扉がある。入れるのかな?」
『老朽化していないのなら問題ないと思うわ。....誰か、居そうかしら?』
あたしは灯台の扉を2回叩いた。
「すみませーん! 誰かいますかー!? ....いないかも! 中に入ってみるね?」
『慎重にね?』
鍵は....掛かってない。あたしは思い鉄の扉を体で押して開き、真っ暗な灯台の中に入って行く。
「…」
『どうしたの? 何かあったの?』
「うん。弔い、かな?」
『....』
それ程広くない灯台の中。奥の壁にもたれかかるように、大きな人が居た。もうそうなって、何日も経ってそうな人。
「…? なんだろう、おっきな機械がある。それに....えいや!」
人の前には見たことの無い機械と、1つだけ開いていない木箱があった。その木箱の蓋を手斧で壊し、あたしは中の物を確認した。
「…?? よく分かんないのがいっぱいある」
『機械? それとも道具かしら?』
「機械、になるのかな? 箱の大きさの割には、1個しか入ってない」
手のひらサイズのそれを手に取る。軽くて、ひんやりしてて・、大分刺々しい。
「一応、全部持って帰るね?」
『ええ、持てる範囲の物でいいわ』
「はーい!」
あたしは大きな人の顔を取り、袋に詰めて先に船に送った。
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第一倉庫には、アマガサが回収して来た海底遺物が保管されている。今の設備じゃあ復元できない物を、一時的に保管しておく場所だ。
「さて....見て見ましょうか」
アマガサが灯台で回収して来た2種の機械、その小さな方を手に取って私は2回瞬きをした。
私は....これを知っている。
「…! エニィクラフトの、アップデートモジュール!」
缶バッチにむき出しの基盤が付いたようなそれは、間違いなくエニィクラフトの拡張モジュール。これを組み込めば、新しく復元、合成できる物が増えるようになる。
「これは、大手柄ね」
後でうんとアマガサを褒めておこう。食材や資材のような消耗品とは違う、半永久的な進歩を今遂げれたのだから。
「貝もあるし、今晩はパーティーね。ふふ」
アマガサの跳ねて喜ぶ姿が、容易に想像できるわね。
「じゃあ、こっちは....」
一回り大きな機械。こちらは少し劣化が激しく、復元のひつようがありそうね。
2回瞬きをして、その機械を見つめる。私は....これを知っている。
「…レコード?」
再生と収録の行える、かなり古い機械だ。どうやら円盤がセットされており、復元が出来れば再生ができるかもしれない。
「もしかすれば、さっき弔った人の最後の声が聴けるかもしれないわね」
その言葉に意味が無くとも、遺言くらいは聞いておこう。....もしこれが復元できれば、アマガサより先に聞いておこう。音声記録の検閲も、大人としての仕事ではあるわよね?




