■第92話 新たな出発
セレナを仲間に迎えた私たちは、その日のうちに魔王城へ戻ることにした。
魔王城に到着した頃には、すっかり夜になっていた。
「皆さま、おかえりなさいませ。無事白羊を仲間に出来たようですな」
馬車を降りるとセバスが出迎えてくれた。
セバスに今回の出来事を簡単に報告し、私たちは夕食を済ませた。
皆が一息ついた頃――。
「さて、そろそろ本題じゃな」
アルテシアはカップを置く。
「セバスよ。帰還の魔石の販売ルートは判明したのかえ?」
「はい、通常の販売先は海商連合ヴェネトのみですが、数か月前に聖公国から訪れた使節団にも販売したそうです」
「えっ、聖公国ですか? いったい誰が?」
ルーナが思わず身を乗り出し、問いかけた。
「名前まではわからないそうです、オスカー司教と共に来られた使節団のどなたか、ということしかわかっておりません」
「オスカー司教が?」
「ああ、数か月前に来たあやつらか。そういえば例の噂が広がり始めた時期もそのあたりじゃったのぅ」
それを聞いてルーナは少し考え込んだ。
「オスカー? 確かその方はシオンの成人の式典の打ち合わせに帝国にも来てましたわね」
アリスが思い出したように呟く。
「それは、少し気になりますね。私は一度聖公国へ戻ってみようと思います」
噂が広まった時期とも被ってるのか、それは私も少し引っかかる。
「それに私がセレナと従魔契約を結んだことを教皇さまへ報告しなければなりませんし」
「あっ、それは確かにそうだね。ってことは、帝国に戻る前にもう一度聖公国へ行く必要があるかな?」
「ええ。それに、オスカー司教が何をしていたのかも確認したいです」
「うむ。放っておいてよい話ではなさそうじゃ」
アルテシアも腕を組みながら同意する。
「では、明日は聖公国へ向かう準備を進めるといたしましょう」
アリスがそういうとモニカが静かに一礼した。
その後、私たちはアリスの部屋に集まり今後の予定を確認する。
「当初の予定ではこの後は一旦帝国に戻るはずだったけど、聖公国に寄るなら変更した方がいいな」
アリスが顎に手を当てそう言った。
「別に聖公国には私とセレナだけで行ってもいいのだけれど」
「それはダメだ。諸国訪問が終わるまでは私とルーナは一緒にいるべきだ」
ルーナの提案をアリスが即否定した。
「うん、もしかしたら危険もあるかもしれないから、私たちもついて行くよ」
「ふふっ、クレアさんにそう言ってもらえると嬉しいです」
ルーナが手を組み笑顔を浮かべる。
そんな反応をしてもらえると私もちょっと嬉しいな。
「いっそ聖公国から他の国をすべて回ってしまうのはどうだ?」
アリスがそう提案する。
「確かに、それなら何度も帝国と聖公国を往復する必要もありませんね」
ルーナも頷いた。
「ああ、もともと諸国を巡る予定だったんだ。順番が少し変わるだけだろ? モニカそれで大丈夫か?」
「はい、帝国には使者を送れば問題ないかと、ただ……」
「んっ、どうした?」
「帝国からの情報が届くのが遅くなってしまうという問題は出てきますね」
「あっ、魔道具の欠片を調べて貰ってるんだったな」
「はい、帝国からの報告を受けるまで、そちらについては動きようがありません」
「まぁ、そればっかりは仕方ないか」
アリスが腕を組み私に視線を移す。
「うん、私もそう思う。待ってるより先に進んだ方がいい気がする」
「だよな。今は聖公国で調べられることを優先しよう。帝国からの返事が来る頃には、私たちも次の手掛かりを見つけられているかもしれないし」
「かしこまりました。では、そのように手配いたします」
モニカが一礼する。
こうして私たちは予定を変更し、次の目的地を聖公国に決めた。
話し合いがひと段落した頃。
ふと視線を向けると、セレナが膝の上で指をもじもじさせていた。
「セレナ、どうしたの?」
「その……人の国って初めてだから……」
「やっぱり怖い?」
「うん……ちょっとだけ」
そんなセレナの不安を察したのかルーナがセレナの震える指を、そっと包み込んだ。
「大丈夫ですよ。あなたはもう私たちの仲間ですから」
「……うん。少し怖いけど、ルーナと一緒なら頑張れそう」
「ふふっ、ありがとう」
うん……尊い。
これはもう国宝に指定してもいいのではないだろうか?
私は心の中でそっと両手を合わせた。
「じゃあ、明日も早いし今日は休むか」
「うん、そうだね」
この日はそのまま各自部屋で休むことになった。
――少し時は遡り、帝国では。
魔の森で起きた事件を受け、別の場所でも動きが始まっていた。
ジルベールはフィオナの部屋を訪れていた。
「フィオナどの、失礼します」
「おや、宰相どの。どうされましたかな?」
「実は魔王国を訪問中の姫さまたちが魔獣の襲撃を受けたそうで」
ジルベールは姿勢を正し騎士から聞いた話をフィオナに伝え、欠片を見せる。
「これがその魔道具の欠片だそうです。何かわかりますか?」
「ふむふむ、なるほど。おや? これは……ティアや、これが何かわかるかい?」
「えっ、そうですねぇ……」
ティアは欠片を手に取り、つなぎ合わせながらしげしげと眺める。
「あれ? これおかしくないですか? ここと、ここの刻印がつながってませんよ?」
「ふぉっふぉっふぉ、よく分かったのぅ。これは恐らく失敗作じゃな」
「えっ、それはどういうことです。なんの魔道具かわかるのですか?」
ジルベールが驚き目を見開く。
「これはビーストテイマーの能力を増幅させる魔道具じゃよ。まぁ、失敗作ではあるがよく出来ておる。しかしこれで二百匹も操れたという事はもともと優れたテイマーだったのじゃろうなぁ」
「なるほど、そんな魔道具があったのですね。誰が作ったものかはわかりませんか?」
「それなら、ほれ。ここを見てごらん」
「んっ? これは、何かのマークですか?」
うっすらと虫眼鏡のようなマークが彫ってあった。
「うむ、これはワシの弟子、ノエル殿下が作ったものじゃろう」
「まさか、ノエル殿下が今回の襲撃に関わっていると?」
「いや、そうとは限らん。ノエル殿下は失敗作をぽんぽん売り飛ばす悪い癖があるからのぅ」
「それは……かなり困った癖ですね」
ティアが何とも言えない表情で苦笑する。
「なるほど、まだ断定は出来ないということですか」
「ノエル殿下本人に聞くしかないのぅ」
「いずれアリスレート殿下がルミナスを訪れる。その時に確認していただくか……いや、それでは時間がかかりすぎるな」
ジルベールがブツブツ呟いていると、フィオナが口を開いた。
「ティアや、ルミナスへ行ってみたいと言っておったじゃろう?」
「えっ、あっ。はい」
「なるほど、ティア殿なら魔道具の知識もある。適任ではありますね」
「えっ、もしかして私が行くんですか? 確かにルミナスで魔道具の技術を学んでみたいとは思ってましたけど。……いいんでしょうか?」
フィオナはにやりと笑った。
「旅は若いうちにしておくものじゃ、おぬしにとっても良い勉強になるじゃろう」
「わ、わかりました。行ってきます!」
「では、ルミナスには帝国より正式な使者として向かっていただきます」
「ふぉっふぉっふぉ、不安なら宮廷魔導士も一人同行させよう。頼んだよ、ティア」
「はい。私、頑張ります!」
ティアは不安と期待を胸に、新たな一歩を踏み出そうとしていた。




