■第8話 封印の祠
封印の祠――それは三百年程前にある吸血鬼が封印された場所だ。
その祠の話はアリスも知っていた。
だが封印された吸血鬼の話は本で少し読んだ程度である。なぜ私にそんな話を?とアリスは少し疑問に思った。
「封印が解けたと言うことは、中に封じられていた吸血鬼が復活したと言うことでしょうか?」
フィオナは首を横に振りながらそれは無いと言う。
「吸血鬼クレアの魂は三百年前に間違いなく滅んだはず、復活することはありえませんじゃ」
「では……いったいなぜ結界が?」
「目的は不明じゃが何者かが結界を解き、クレアの肉体を操っておるのかもしれませんなぁ」
吸血鬼の肉体を?なんのために?そもそも私は吸血鬼のことを詳しく知らないんだけど。私が首を傾げていると、フィオナがスッと壁に立て掛けられた一枚の絵を指さす。
そこには、四人の人物が並び立つ姿が描かれていた。
初めて見る絵だ、何度かフィオナの部屋に来たことはあるがこの絵は見たことがない。しかし、よく見るとその絵に描かれた3人には見覚えがあった。
「これは……魔神を討伐した勇者さま方の絵ですわね。でもこの黒髪の女性は見たことがありませんが」
「その黒い髪の女が吸血鬼クレアですじゃ」
――なぜその吸血鬼が勇者達と一緒に描かれてるんだ?不思議に思いフィオナに問いかける。
「この絵はいったい?」
「ふむ、そうですなぁ……どこから話したものか……姫さまは三百年前の魔神と勇者の戦いの話はご存じですかな?」
アリスはコクッと頷く。魔神を倒した勇者は、自分のご先祖さまでもあるので当然知っていた。そして魔神を倒した後に吸血鬼を封印した話も本で少し読んだことがある。
しかし、その吸血鬼が具体的に何をして封印されたかまでは書かれていなかった。そして、それら功績で勇者は帝国の姫と結婚して皇帝になったと伝わっている。
「魔神を倒したのは、勇者と当時の聖女、そして一人の魔法使いとクレア。その絵に描かれた四人ですじゃ」
その魔法使いと言うのはフィオナの事だろう、この婆さんは三百年以上前からこの帝国に仕えてるらしく。なにやら延命魔法とか言う固有魔法で寿命を引き延ばしているらしい。
「しかし、本などに書かれてる話では魔神を倒したのは三人だったはずですが……?」
「まぁ、ざっくり話しますと魔神を倒せたのはクレアの力があったからなのですじゃ」
フィオナは一度、言葉を切る。
「しかし――彼女の力はあまりにも強大すぎた。それを脅威と見た諸国、特にラフォーレ聖公国が彼女の排除を求めたのですじゃ。」
ラフォーレ聖公国。かつて使徒と呼ばれた神の使いが興したとされる国だ。
「そこで勇者たちはもともと魔神を封印するはずじゃった“封印の祭壇”という魔道具を使いクレアを一旦封印することしたんじゃ。数百年後に封印を解き彼女を自由にするつもりでの。そしてクレアと言う吸血鬼の存在を歴史から抹消したんですじゃ」
初めて聞かされた話だがアリスは少し納得がいった。だからフィオナは延命魔法を使って何百年も生きてるのか。
――あれ?でもそれなら封印解けてもいいんじゃないのか?
アリスのそんな疑問をよそにフィオナは話を続ける。
「しかし封印してから二百年程たった頃に、封印を解くためワシが祠に行くと。封印の祭壇にある仕掛けがされておりましてなぁ」
「仕掛け……ですか?」
「クレアを封印していた祭壇に魂を消滅させる魔法陣が描かれておった、それはゆっくり時間を掛けて魂を消滅させる呪印でな。二百年たったその時にはクレアの魂は……すでに滅んでおったのですじゃ」
「呪印……ですか?いったい誰がそんなものを?」
「当時の聖女じゃろうな、祭壇にクレアを封じたのはあの者であったからのぅ。聖女にしか与えられないはずの女神の加護をクレアも持っておったから、もともと疎ましく思っておったんじゃろう」
フィオナは、わずかに視線を落とす。
その表情には、隠しきれない悔しさが滲んでいた。
聖女とクレア、どちらもフィオナにとっては大切な友人だったのだろう。
なるほど、だいたいの話は理解できた。
だがアリスには、どうしても分からないことがひとつあった……。
……で。
私、なんで呼ばれたん?
今回、祠から出て来たクレアが偽物だってのは分かったよ、でもそれを私にどうしろってんだ?
まさか討伐して来いとか言わないよな?そりゃ確かに私は勇者の血を引いてるけど、絶対勝てないぞそんなバケモン!
――ふと横を見ると。
じっと腕を組み目を瞑っている皇帝オルクス姿があった。
……あれ?こいつ寝てないか?




