■第7話 アリス
数日前 -ラフローグ帝国 王城-
ここは皇女アリスレート・ラフローグの私室。
アリスはベッドに横たわったままだらしなく手足を投げ出していた。
「うぅー、今日もお茶会とかマジだりぃんだけど……」
今日は午後から侯爵家のご令嬢とお茶会の予定があるのだが、正直行きたくない。
アリスはラフローグ帝国の皇女である。
部屋ではこんな調子でも、公の場では誰もが憧れるお姫さまを完璧に演じることができる。
演じること自体は別に苦ではない、しかし最近はお茶会やらパーティーやらが続いていて若干うんざりしていた。
「だいたい昨日のパーティーはなんなんだよ!」
前日はゲスタルクという伯爵家の当主と奥さんの四十七回目の結婚記念パーティーだったのだが……。
「なんだよ四十七回目って! 何回やんだよ! だいたいなんで私が良く知らんジジイとババアの結婚記念日を祝わなきゃならんのだ! まったく貴族ってのはなんでことあるごとにパーティーしたがるんだよ、やりすぎだっつーの! ……ん?」
ジタバタとベッドの上を転がりながら喚いていると部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「アリスさま、失礼いたします」
返事を待たずにメイドのモニカが部屋に入ってきた。
「あぁ、なんだモニカか……どうした?」
モニカはベッドに大の字に寝転がったままのアリスの方へ、ゆっくりと歩きながら要件を告げる。
「はい、フィオナさまが今からお越しいただきたいと申されております」
フィオナ・ヘルダース。
ラフローグ帝国の筆頭宮廷魔導士であり、「大陸一の大魔法使い」とも謳われる人物だ。
「婆さんが? ……要件はなんだ?」
「緊急の案件とだけ伺っております。」
アリスは緊急と聞いていったい何事だ? と思ったが、ふと思った……これはお茶会キャンセルに出来るチャンスなのでは?
アリスはニヤッと笑ってベッドから降りて立ち上がる。
「よし、すぐ行くぞー」
「アリスさま、その恰好では……まずはお召し替えをいたしましょう。それから邪悪モードのスイッチを切ってくださいね」
「あぁ、そういえばまだ寝巻のままだったな……って邪悪モードってなんだ!?」
「それです」
「どれだよ!」
まったく、こいつたまに変なこと言うな……。
その後、アリスはモニカにササッと着替えさせられ。髪も整えて貰い、しっかり綺麗なお姫さまになってから部屋を出る。
…
……
………
程なくしてフィオナの部屋の前に到着し、モニカが扉をノックすると中からどうぞと声が聞こえた。
モニカに扉を開けて貰い、アリスはゆっくり室内に入る。
室内にいたのは三人。一人はメイドのティア、もう一人の黒いローブを着た銀髪の老婆がフィオナ。そして最後の一人は茶髪に碧眼の偉丈夫。ラフローグ帝国現皇帝オルクス・ラフローグである。
皇帝である父まで居たことに一瞬戸惑ったアリスであったが、すぐに状況を把握した。指先でスカートの裾をふわっと持ち上げ華麗に一礼する。
「陛下、フィオナさまお呼びでしょうか」
「ようこそ姫さま、ささっ、こちらへ」
綺麗なお姫さまモードで挨拶をするアリスに、フィオナが座るように勧めてくれる。それを聞いてアリスが二人のいるテーブルに向かうと、モニカが静かに椅子を引いてくれた。
席に着くともう1人のメイド、ティアがカップにお茶を注いでくれる。
「さて、悪いがモニカとティアは部屋の外で待機してもらえるかい?」
フィオナが二人に退室するよう促すと、モニカとティアが三人に向けて一礼し部屋から出ていく。
二人を退室させたってことはかなり大事なのか?
そう思いながらアリスは軽く部屋の中を見回す。
この部屋は城の地下にある部屋で、フィオナの自室兼工房なので見慣れない薬品や不思議な道具が所狭しと並んでいる。
――色々と見ていたらフィオナと目が合った、まずは何故呼ばれたのか聞いておこう。
「それで、今回はどのようなご用件なのでしょうか?」
アリスの問いにオルクスが答える。
「うむ、それが少し困ったことになってなぁ、フィオナよ説明を頼む!」
コクッ、と頷いてフィオナがカップのお茶を一口飲んで話し始める。
「……実は数日前に封印の祠の結界が解かれたようなのですじゃ」




